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風をよぶ君  作者: 東雲 滉那
二人の皇子
15/24

 栢香神は子珞を頭の先から爪の先まで丹念に見つめた。


『…私はそなたの憑き神だ』


「憑き神?」


 聞いたことのない言葉に子珞は怪訝な顔をした。栢香神は『そうだ』と答えると話を続けた。


『早い話、いずれ白澪王になる皇子には《綾幸十二神》のいずれかが守護神となる。守護神…と言えば聞こえはいいが、要は憑いている。その者の器によってな。初代国王澪子皇に憑いたのは澪蕭神[れいしょうしん=国神]だった。それ以来、王にはいずかの神が憑いた。そなたは私だった、それだけだ』


 子珞は別のことに気をとられ、最後の方は何も聞いていなかった。


「僕が…王?」


『あぁ…』


「ですが、父上の後を継ぐのは兄上でしょう?」


 栢香神が子珞を見つめた。


『本当にそう思うのか。今まで、父と兄が似て非なる者だと思ったことはないか。自分は父と似ているのに、兄と父は何か違う物を纏っていると』


 図星を指され、彼は押し黙った。そう思わないことはなかった。実際、それ程までに父と兄は似ていないのである。何が似ていないのかと問われれば、断定はできないものの、雰囲気…兄には父のような王の"気"というものだろうか…を見いだすことができない。自分にそれがあるということを言いたいわけではない。自分にそれがあるないに関わらず、兄にはそれが見受けられないのだ。


『ほらな、図星だろう』と栢香神な呆れるような声を出した。

『お前は、王になる器として生まれてきた。だから私がいるのだから。…とはいえ、歴代には王になる器を持っていても王にならなかった者もいるから、一概には言えないがな』


「だけれど、僕は太子にはなれない。民は皆、兄上が次の太子になられると考えているのだもの」


『太子になるかならないかは王になるかならないか、だ。王の器でもないのに太子になれば、いつか澪蕭神の怒りを食ら。その過ちのために、自分の子の人生を棒にふるようなことはあってはならないのだからな。そんな親はいないだろうよ』


 栢香神はゆっくりと子珞に近づいてくると、彼の顎を持ち上げ、自らとは濃さの違う赤い瞳を覗きこんだ。


『美しいな。やはりお前は澪蕭神に愛された子だ。正直、私を憑き神にするのはお勧めしない。そなたにとっては勝手に決まっていたことだがな』


『私の力は人の子には強大すぎる』栢香神は哀しみの色を含ませた瞳で子珞を見た。『私をその身に宿した人間は皆、…気を狂わせ、死んでいった。そなたは違うと信じている。…その体、何があろうと欠かしてはならぬ。ーー特にその瞳』


 子珞は頷いた。否、頷かなければならないという動物的本能だった。それほどまでに栢香神の瞳は有無を言わさなかった。


「あなたは僕を護る神ではなく、僕に憑いた神。よってその存在は僕を殺しもするし、生かしもするというわけですね。僕が体の何かをなくせば、あなたの強大な力が暴走してしまう…」


 栢香神はその整った唇をニヤリと歪める。


『物わかりの良い子は好きだ』


 そう言うと、つと子珞の唇に自らのそれを近づける。触れるだけの口付けを受け、神の唇は冷たいのだと気付いた。


『忘れるな…お前には私が憑いていることを。力は時に人を傷つけ、貪欲にさせる。だが、死んではならない。死ぬときは私が直々に迎えに来てやるからな』


 要するに、自ら果てることや人に殺されるなどということで死ぬことは、全身全霊で阻止しろということか。


「…わかりました」


 栢香神はそれを聞くと、上を見上げた。


『よし、向こうに戻るか。また話せる日が来るといいな、…子珞』


「はい」


 その日が近い未来であることをまだ誰も知らなかった。それが絶対の約束を違えた日であることもーー。


 目を閉じろ、と言われ、子珞は目を伏せた。


 ど…くん


 また、大きな鼓動が聞こえた。暖かい空気に包まれたと感じ、視界が一気に明るくなった。そして彼は目を開けた。

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