表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風をよぶ君  作者: 東雲 滉那
二人の皇子
12/24

「父上は…母上と懇ろなの?」


 子珞は波蘭に尋ねた。


「懇ろなんて言葉、どこで知ったの。子珞は意外にマセているのね」


 彼女の呆れた声に、彼はふてくされた。母に仕える女官たちの中で、子珞に対し、唯一敬語を遣わないのが波蘭だった。彼女曰わく、乳母の私が何故敬語を遣わなければいけないのか、というものらしい。


「…今のうちに幸せを知っておかないと、後で後悔しては遅いの」


 波蘭がなにか大切なことを言った気がしたが、子珞にはその意味がわからなかった。


「さぁ、あんたは兵法でも勉強しておきない」

「はぁーい」


 子珞は渋々、母屋の方に戻っていく。

 波蘭は子珞を追おうとして、そして子穂と狭良が『懇ろ』している部屋の方を見やる。


「…狭良…私は嘘だと言ってほしかった。殿下に言わずに…」


 ばか、と一言呟くと、子珞を追った。



***


「…し…すい…」

 狭良が熱く掠れた声で呟くと、子穂は生返事をして、白磁の肌を掌で転がした。

 彼女の首筋に散る色づいた花弁はどれだけ想い合ったかを示す。そしてひとつ、またひとつ…と今もなお増え続けていた。


「…子穂…、私だけをずっと愛すると誓える…?」


 子穂は狭良の瞳を覗き込んだ。その瞳からは大粒の水晶が、今にも零れ落ちそうで。


「誓う。俺と夜国の丘を共に登るのはお前だ」


  夜国…それは人が死んだ後に向かう世界のことだ。夜国の門の前には高い丘があり、その丘は自分が愛し、また愛された者と登る。


「…うん」


 その言葉を聞ければ何もいらない、と狭良は思った。

***


夜、子珞は不覚にも目を覚ましてしまった。今日はどうも寝付きが悪い。波蘭のもとに行こうか考えるが、五歳にもなったのだから、自分で寝ろと言われたばかりだということを思い出す。眠れないことに変わりはないので、とりあえず風に当たろうかと考えた。


「眠れないのってキツい」


 …剣の素振りをするのもいいな。


 そう思いつき、木刀を手にして外に出る。外は案の定暗く、光はない。自分の部屋の薄暗い灯りと満月の光のみ。


  ーービュン


 木刀を振ると風を切る音がした。父からはまだ真剣を与えられていない。与えられたのは短剣のみ。だが、無碍に抜いてはいけないと言われている。真剣が手元にあったとしても、自分の親と自分の愛する人々の為以外は剣を抜くな、とも。そして、是が非でも生き残れ。


「母上を守るのは僕だ」


 父が政務でいないときは自分が守る。


  ーービュン、ビュン


「子珞…こんなところで剣の素振りか?」


 子珞はハッとして、声のした方を振り向く。


「父上…」


 父と自分はとてもよく似ている。以前、異母兄に会った時は、父とあまりに似ていなくて驚いたものだ。


「少し貸してみろ」 


 子珞が木刀を渡すと、子穂は「…うん」となにか考え、子珞の方を見た。


「子珞、お前にとってこれは重いか?」


 子珞は首を傾げた。


「少し…」

「もう少し重い木刀にしよう…来い」


 歩き始めた子穂の後を、子珞はついて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ