八
フッと、子春が笑んだ。
「気をつけろよ」
その難しさも、すべて理解しているから。
「…はい」
守れる自信はなかったが、手に入れたかった。自分のものにしたかった。これが神に逆らうことになろうとも…。
***
「…は?」
狭良は神官長の言ったことが理解できなかった。
「皇太子に嫁ぐ……なんの冗談ですか」
冗談としか思えない。まさか、あの男は正当法で来た…と?
「冗談など言うか。勅命だ」
狭良は押し黙った。
「私は島の出ですが…」
神官長は、あぁ…と言った。
「位は第三妾妃だそうだ。折りを見て、貴妃に格上げすると」
…あいつは馬鹿か、と狭良は心の中で呟いた。島の出が身分の低いことを示しているということを知らないのか。少なくとも、後宮に入れるほどの身分を狭良は持ち合わせていない。迷惑にも程がある。だが、彼女に拒否権はなかった。
「…慎んでお受け致します」
これで神に祟られて死んだら、それは自業自得だ。あの時、興味本位で声に釣られた自分の所為だ。
「…神の血を継いだ子を産め」
そう、神官長が呟いたのを狭良は聞き逃さなかった。
神の血を継いだ子…すなわち皇太子。
何故…? 皇太子の跡継ぎは既に在る。まさか今の次に立たれる皇太子は皇太子ではないと……そんなはずはあるまい。
狭良はそのことに疑問を感じ、子穂に尋ねなかったことを後々後悔することになる。