そんなの俺には関係ない(1)
「トリフェーン隊、目標物に接近……特にエクセルシアが先走ってるよー!」
闇の海を突き進むデヴォンジャー号。その艦橋にて少女の声が響く。オペレーター席に並んで腰掛けているのは二人の少女で、あまりにも酷似した顔つきから誰でも一目見れば双子だと気付く。髪の色と目の色が同じで服装も一緒だったら、恐らく誰も見分けはつかないだろう。
モリオンとシトリン、それが二人の名前であった。どちらか一方だけが口を開く事はなく、片方が何かを語ればもう片方が必ず続けて何かを言う。故に彼女らの発言はまるで同一人物の言葉のように扱われるのが日常であった。
「漂流物は破棄された戦艦のようです……だっけどー、周りに輝獣の反応があるよー?」
「特に問題はないでしょう。トリフェーン隊はそのまま目標周辺の敵戦力を殲滅。後続のサルベージ部隊の為に安全を確保しなさい」
「ママの言う通りにするよー! ……輝光機隊は輝獣を殲滅。安全を確保してください」
通信に耳を傾けながら笑みを浮かべる聖。白い霧を撒き散らしながら加速、トリフェーン隊を置き去りに漂流物へ向かう。その外壁に取り付いていた輝獣が一斉に目を覚まし、翼を広げて迎撃に動き出した。
「アーミー級のフォゾン反応を察知……数、いっぱい!」
「関係ねーな! 突っ込むぞ、ウルシェ!」
「了解。フォゾンガン、左右の腕に構築。ダブル・ビュレット……!」
疾走する白い影。左右に突き出したその掌の中に光が拳銃を構築する。エクセルシアは瞳を輝かせ前転しながら敵陣に突入。先頭の輝獣を踵で粉砕し、左右に銃を繰り出した。
回転しながら弾丸をばら撒く。その一撃一撃が輝獣を貫き消滅させていく。虫のような外見をした輝獣、アーミー級。その鋭い前足の斬撃を銃身で受け止め、口に拳を捻じ込みトリガーを引く。光の弾丸は炸裂し、容赦なく虫を光の塵へと分解した。
「ちょっと聖、一人で突っ込むんじゃないわよ! 少し強いからって自分勝手すぎるわよ!」
「……いやいや……少し前までルメニカがあのポジションだったじゃないか」
「聖がかき回している間に包囲殲滅するぞ。ルメニカ、右から回り込め!」
三機のトリフェーンが戦場へ急行する。トレイズが炸裂狙撃銃による一撃で空間に穴を空けると、そこへ剣を携えたルメニカが飛び込んで行く。
擦れ違い様に刃を繰り出し輝獣を両断。続けて四体を屠った所へガドウィンが援護に入り、突撃銃で近づく敵を殲滅する。そうしている間も聖は縦横無尽に宇宙を暴れ周り、近づく敵は片っ端から消滅させている。
「もう! なんで毎回あいつの周りにばっかり敵が集まるのよ!」
「輝獣に好かれるコツでもあるのかねぇ……? 急がないと全部あいつに食われるぜ」
「言われなくたってわかってるわよ! トリフェーン隊のエースは私なんだからね!」
光が瞬く方向へ飛んでいくルメニカ。だが既に大勢は決している。遅れて到着したサルベージ用の作業機部隊が沈没船の回収に取り掛かった。
「相変わらず尋常じゃねえ動きだな、あの小僧は……だはは、威勢がいいじゃねぇか!」
「ジイちゃん、まだ戦闘中だぞ? 非武装の作業機で出しゃばってくるなって」
「ばっきゃろう、輝獣が怖くてサルベージ屋が出来るか! おい野郎共、敵は聖の奴に集まっている! お宝探しは早い者勝ちだ! 臆せずビビらず稼ぎやがれ!!」
バルバロスの掛け声に応と答え、次々に作業機がすっ飛んで行く。トレイズは溜息を一つ、その護衛の為に側面から付随するのであった。
「っしゃああ!! 俺最強ッ!! 今の所ガチで敵なし!!」
「ちょっと聖……いい加減にしなさいよ! 私達の分も残しておくのが礼儀でしょうが!」
腕を組んで高笑いしているエクセルシア。その肩を赤いトリフェーンが掴む。
「ジイさんが言ってたろ? サルベージは早い物勝ちだってな。それに報酬は山分けしてるんだからいーじゃねえか」
「そういう問題じゃないの! 新人のあんたが誰より活躍してるのが問題なのよ! トリフェーンよりずっと足が速いからって毎回先行して!」
「しょうがねーだろ、なんだか知らねーけど輝獣はエクセルシアに寄って来るんだからよ。そういや逆にお前のトリフェーンってあんまり輝獣に狙われないよな。お前が悪いんじゃね?」
「な、なんですってー!? くぅ、エクセルシアは動きがいちいち細かくて腹立つぅ!」
肩を竦めているエクセルシアに殴りかかるトリフェーン。しかしエクセルシアは一瞬で距離を取り、くるくる回転しながら遠ざかって行く。
「このっ、待てばか! どちらが本当のエースなのか、いい加減白黒つけてやる!」
「おー、やってみなルメニカ。お前のトリフェーンで追いつけるならなー!」
ルメニカの目は完全に据わっていた。猛加速ですっ飛んで行く二つの光はまるで流星のように、しかし優雅に飛び回る蝶のように闇に瞬く。その様子をガドウィンは笑顔で眺めていた。
「こちらトリフェーン隊。目標物の確保に成功。これより回収作業に移る」
「了解しました……お疲れ様です。いいなー、あたし達も追いかけっこしたいなー!」
通信に応じる双子の声を聞きながら息を着く。そうしてルチリアは顔を上げた。
「あれから二週間……ここでの暮らしにも随分馴染んだようね」
「いやぁー、今回も大漁だったなー! エクセルシアはマジで最強だわ! こいつさえあればなんだって出来る気がするぜ! んもー、愛してる! ちゅっちゅしちゃう!」
デヴォンジャー号に帰還を果たした輝光機隊。ハンガーに並んだエクセルシアの足にすがり付いてキスしている聖を除き、全員がなんとも言えない表情を浮かべていた。
「あんの変態野郎……! ちょこまかと逃げ回ってー!」
「まあいいじゃないか。聖が一緒に戦うようになってから仕事が凄く楽になったんだし。前みたいに危ない目を見る事も少なくなったわけだし。稼ぎも増えて万々歳だろ」
「そういう問題じゃないのよ! トレイズにはトリフェーン隊の矜持って物がないの!?」
「そんな事言われても、俺ら所詮サルベージ屋だし……ぐええっ、苦しいよルメニカ!」
トレイズの胸倉を掴み上げるルメニカ。それをガドウィンがそれとなく仲裁すると、少女は鼻を鳴らしてどこかへ行ってしまった。
「今日も姫様は大荒れだな……。内心、聖の活躍は喜ばしく思ってるのだろうが」
「伝説のアーティファクトがあるって聞いて、アーク・サジタリウスに行こうと提案したのはルメニカだったしね」
当然ルメニカは喜んだ。しかし全てが良い事ばかり、予定調和とは行かなかったのだ。
ルメニカが欲していた最強の輝光機、エクセルシア。それはこの世界に存在すると言われている伝説のオリジナルタイプ、その一つであるとされている。既存の輝光機の中でも群を抜いた性能の機体なのだが、何故かルメニカにはそれを動かす事が出来なかった。
「どうやら登録されているライダー以外は動かせない仕様らしい。聖を蹴落としてエクセルシアを奪うつもりが頓挫してしまったんだ。荒れるのも無理はないだろう」
「いやー、働いた働いた! トレイズ、おっさん、メシにしようぜー!」
自分の話をされているとは露知らず歩いてくる聖。二人は顔を見合わせて苦笑を浮かべた。
商店街を歩きながら肉の串焼きを食べる聖。トレイズに奢ってもらった時の味が忘れられず、あれから暇さえあればこうして串焼きにかじりついていた。
「やはりお肉は神様仏様ですね、マスター」
「おう! しかしなんつーか、これ一本だけで腹いっぱいになっちまうんだよなあ。昔はこんなの何本食べても食い足りない感じだったんだけどよ……運動量が減ったのかねー」
「そうか。過去の人類は今より食欲旺盛だったのだな……」
串焼きを齧りながら頷くガドウィン。それから時計を確認し聖に背を向ける。
「おっさん、もう行くのか?」
「艦長に帰還の報告をしてくる。それと、ルメニカにもこいつを渡してやらんとな」
立ち去って行くガドウィンを見送りながら串をウルシェに渡す。ウルシェはよほど食い意地が張っているのか、この串を執拗にぺろぺろ舐めまわすのが大好きであった。
「ガドウィンのおっさん、いっつも艦長かルメニカのところにいるよな」
「あの人ちょっと過保護な所あるからね。特にルメニカには甘いんだ。なんでもまだルメニカが小さかった頃から面倒見てたんだってさ。だけど当のルメニカは反抗期で、最近はガドウィンに構われるのが嫌なんだってよ」
「ふーん……あんな強面でもおっさんはおっさん、時代が変わってもやるせねーなあ」
ガドウィン・グルッフェルはトリフェーン隊の隊長を務める筋肉質な大男で、顔の右半分を覆う大きな眼帯をしているのが特徴だ。無愛想ではあるが話をしてみると意外と接しやすく、聖に対しても親切にしてくれる大人の一人であった。
「俺達も引き上げるかあ。十時間後にはラナンキュラスに入港だ。そしたらまた色々と仕事に借り出されるから、聖もよく休んでおけよ」
「ラナンキュラス……? なんだっけそれ?」
「ブーケ・ラナンキュラス。複数の宇宙船舶が成す移動型の補給拠点であり、旗艦ラナンキュラスを中心としたラナンキュラス艦隊を指す言葉でもあります。この世界には複数のブーケ……即ち旅する艦隊拠点が存在し、サルベージした商品を売却したり、或いは必要な物資を購入する為の中立地帯として経済を支えています」
串を咥えたままつらつらと説明するウルシェ。それからマスターに失笑を向けた。
「そんな事もまだ覚えていないんですか、マスター。残念な頭ですね」
「うるせーなあ。要するにサルベージ品を捌く仕事があるんだろ?」
「そういう事。それにブーケは色々面白いものもあるから、お前達には物珍しいかもな。ま、とりあえずゆっくり休んどきなよ。じゃーおつかれさん」
手を振り立ち去るトレイズ。聖も立ち上がりウルシェの首根っこを掴み上げる。
「いつまで串しゃぶってんだ、いい加減行くぞ!」
「まだお肉のジューシーな味が残ってるんです。捨てるなんて勿体無いです」
「お前って食ってるか寝てるかだよなあ……ったく、どうしようもねーわ」
深々と溜息を一つ。無理矢理ウルシェを抱き抱えて聖は歩き出すのであった。
熱いシャワーを浴びるのは気持ちよいが、それだって金がかかる。だからこうしてシャワー室に足を運ぶのは決まって何か腑に落ちない事を考えている時であった。
狭い個室の中、支払った分の水が出なくなるまでシャワーに打たれる。戦闘で汗ばんだ肌が温い水で冷やされると、身体に積もった苛立ちも同時に洗い流せるような気がした。
「伝説のアーティファクト……せっかく見つけたのに、何やってるのよ……私は」
悔しい気持ちを軽く壁にぶつける。唇を噛み締めた所で、きつく目を閉じた所で現実は変わらない。いや、それは今に始まった事か。何も変わらなくなってから、もう何年経っただろう?
「力が必要なのよ……この世界をひっくり返すくらい、強い強い力が……」
水が止まったのを感じてルメニカは顔を上げた。壁にかけていたタオルを乱暴に引っ手繰り、わしわしと髪を拭く。その一挙一動に苛立ちが混じっている自覚はある。だが何故?
エクセルシアを手に入れた。そしてそのライダーである聖とウルシェは良くやっている。間違いなく彼らは凄まじい力の持ち主だ。待ち望んだ世界を変える力……だというのに胸がざわつくのはなぜだろう。理由はわかっている。まだ割り切れていないのだ。
短く息を吐き、自嘲染みた笑みを浮かべる。そうして身体をざっと拭いてからシャワー室を後にした。首からタオルをかけたまま廊下に出ると、そこにはガドウィンが待っていた。
「ガドウィン……女の子のシャワーを出待ちしないでくれる? ちょっと変態っぽいわよ」
「ん? ああ……そうか。すまなかったな。だが、俺はお前を女とは……」
そこで口を紡いだ。これ以上余計な事を言ってもお互いの為にならない。そうして無言のまま、水と串焼きの入ったパックを差し出した。
「エクセルシアを回収してからのお前は落ち着きがないな。何を焦っている?」
「焦るなっていう方が無理でしょ。私達にはのんびりしている暇なんてないのよ」
水のキャップを開いて一気にそれを呷る。なんだかんだで身体は乾いていたらしい。
「俺達が焦った所で何も変わらない。今は耐えるしかないのだ。お前やルチリアが生きている事こそ、俺達にとって……そして彼らにとって救いであり、希望となり得る」
「自分一人じゃ何も出来ない事なんてわかってる! ファミリーのみんなを巻き込んじゃいけないって事もわかってる! だけど、何もしないでただ待つなんて御免だわ!!」
震える声で叫び、それからタオルを頭にかける。そうしてくしゃっと前髪と共にそれを握り、逃れるようにしてガドウィンの元から足早に去っていった。
「いい子……なんだがな。俺にもっと力があれば……こうはならなかったろうに」
壁に背を預け目を瞑る男。そうして彼は一人、幼い頃のルメニカの姿を思い返していた。
ブーケ・ラナンキュラス――。それは、千メートル級旗艦、ラナンキュラス号を中心に展開された艦隊が織り成す一大拠点の名である。
大小さまざまな宇宙船が五十以上、ラナンキュラスを中心に取り囲むように並走している。ラナンキュラスと接続された複数の船はまるで増設を繰り返し肥大化したビルのように一つのマーケットを形成し、それはさながら移動する商業都市そのものである。サルベージ艦に限らずこの宇宙を旅する多くの者達が利用するオアシスであり、数少ない商売の場でもあった。
この宇宙は今、様々な王を名乗る者達による大規模な領土戦争の中にある。宇宙空間ですらそれは例外ではない。コロニーにはコロニー周辺の、海賊やサルベージ屋にはそれぞれの航路と領海が存在している。これらは基本的に奪われる方が悪いというのが大衆の考え方であり、領土図は侵略と防衛の繰り返しで日々書き換えられ続けている。
そんな彼らにもどうしても商売の場面は必要になる。水も食料も兵器もタダではないのだ。そんな彼らに場所と機会を提供するこのブーケというシステムはかけがえの無い者であり、ブーケ周辺は絶対中立地帯に指定されている。例え戦争中の国家であろうが、縄張り争い中の海賊であろうが、ここではお行儀良く過ごすのが最低限のルールであった。
「これがブーケか……すげーな! こんなに沢山の船が集まってるなんて!」
「ブーケの中立地帯はとにかく船の交通量が多い。ぶつからないように注意しろ」
デヴォンジャー号に先行する輝光機隊。その周囲を他の輝光機や船舶が通り過ぎて行く。目まぐるしく行き交う船に見とれる聖。デヴォンジャー号へ降り立ち腕を広げた。
「なんだよ、人間は全然滅んでなんかいねーじゃねえか! なあウルシェ、こんなにも人間はいるんだぜ! この未来の宇宙にも……これだけ仲間がいる! すげえよな、ウルシェ!」
「嬉しそうですね、マスター」
「ああ、俺は嬉しいよ! 地球を諦めたとかサルベージして生きるしかないとか暗い話ばっかり聞いてたからな。これからもずーっとそんなショボい事ばかりかと思って辟易してたんだ」
「確かに人類はまだ生きている。こんなにも沢山……今はまだ」
目を細め小さな声で呟いたウルシェ。その声は聖には届かなかった。
『こちらラナンキュラス管制室。久しぶりだな、デヴォンジャー号。やっと大型艦のドックが空いたところだ。誘導に従って慎重に入港してくれ』
「了解した。誘導に感謝する。サルベージ品はマーケットに直接持ち込んだ方が良いか?」
『そうしてくれると助かるが、その辺にぶつけてくれるなよ。ところで見慣れない機体が乗っかってるみたいだが、そいつが今回の目玉商品かい?』
管制官とガドウィンのやり取りを聞き、自分が話題になっていると気付いた聖。すかさずその場でくるりと一回転し、ポーズを決めてみせる。
「悪いがあれは売り物ではなくてな。うちの新入りだ」
『そいつは残念……何千万クオーツじゃ利かないだろうに』
「何っ、エクセルシアはそんなに高く売れるのか!?」
腕を組み考え込んでいるエクセルシアの背中を蹴飛ばすルメニカ。そうしてトレイズと共に左右から腕を掴みデヴォンジャー号から離れる。
「ちょっと、売り払ったら許さないわよ!?」
「それより俺達はお仕事お仕事。ジイちゃん、今回はどれを持っていけばいいんだ?」
「ちっと待てい! これから指示するからイチイチ急かすんじゃねえ!」
デヴォンジャー号がほぼそのまま引き摺っていた破棄された宇宙船を切り離し、マーケットへと運んで行く。事前に適度な大きさに分解してはあるのだが、それでも輸送は一苦労であった。デヴォンジャー号がブーケに接続されてから二時間後。聖が開放されブーケのショップエリアで休めるまで、それだけの時間がかかってしまった。
「うっひょー! すっげえ! デヴォンジャー号とは比べ物にならない広さだな!」
ブーケ・ラナンキュラスのマーケットは複数の宇宙船の側面を縫い合わせて作られた巨大なドックに面している。ずらりとあちこちに並んでいるのは誰が何に使うのか見当もつかないようなガラクタから、破損しているものの修理すれば使えそうな輝光機まで何でも揃っている。商品にエクセルシアで器用に値札をつければ作業は終了だ。
「おっ、これって俺が拾った船の外装パーツじゃん。なあジイさん、これ幾ら位で売れるのかな? 売れたら何割か俺の給料に足されるって聞いたぞ!」
「書いてにもよるが、まあ精々三千クオーツくらいじゃろうな。お前さんの取り分は三百クオーツくらいになるな!」
「……それじゃあお肉も買えませんね……」
「やっぱりもっとマシな物拾わないとダメだな。輝光機が高く売れるらしいけど……」
「……売らないでくださいよ、マスター」
そんなやりとりをしつつ全ての作業を追えデヴォンジャー号に戻った聖。エクセルシアを格納庫に納めると、既に慣れた無重力の中をふわふわと泳いで昇降口へと向かう。
「トレイズ、ルメニカ! 仕事も終わったしブーケを案内してくれよ!」
「悪い、俺この後ジイさんにお使い頼まれてんだ! ルメニカと三人で行ってくれ!」
そう言いながらルメニカの背中を押すトレイズ。格納庫の中は無重力なので、自然とルメニカはそのまま聖に飛びついてくる形になった。
「ちょっと……トレイズ、何するのよ!?」
「いいから行って来いって! ルメニカには息抜きが必要だと思うよ!」
手を振って立ち去るトレイズ。ルメニカは慌てて聖から離れるが、その腕を聖は掴み。
「おいおい、どこ行くんだよ。そんな強く突き飛ばしたらお互い吹っ飛んじまうだろ」
「わ、わかってるわよ! それで、ブーケに行くんだっけ?」
「おう。なんだ、案内してくれるのか? いい奴だな、お前!」
「か、勘違いしないでくれる? ブーケ内で問題を起こすのはご法度、その場合ファミリー全体の信用に関わるの。あなたには監視が必要みたいだから、ただそれだけよ」
そっぽを向きながら呟くルメニカ。そんな二人の間に下から割り込んだウルシェがさりげなく聖にくっつき、ルメニカを遠ざける。
「ツンデレしてないで早く行きましょう。時は肉なり、ですよ」
「ツンデ……? わかってるわよ。自由行動時間は限られてるんだからね。行くわよ聖!」
飛び出して行くルメニカ。その後を追い二人もブーケへ向かう昇降口へと向かった。