さよならのかわりに(1)
「白いオリジナルタイプ……貴様か! 貴様さえ居なければ、何もかもが!」
剣を振るうヘリオトロープ。エクセルシアは腕の装甲でそれを受け止める。
「陛下の夢……陛下の理想……彼の存在意義を私は守る! この世界の全てがあのお方を否定したとしても……私だけは守り続ける! 最期の最期のその時まで!!」
「マスター、このライダーの輝光力は異常です。何か尋常ならざる信念、意志の力を感じます。ヘリオトロープは限界を超えているのに、彼女の力で無理矢理出力をあげている……」
輝光機の性能を引き出すのは適正と意志の力だ。激情こそが力の源となる。押し返されたエクセルシアが陥没した床に足を取られると、その上にミリアムは跳びかかった。
「ふん……悪いな聖。そいつの相手はお前に任せた。ブライドは僕が頂く」
「あっ、てめー晶っ!? ブライドって……ルメニカの奴、ブライドだったのか……!」
「マスター、ブライドは最初にDNAデータを登録した再生者に絶対服従を強いられます! もし今晶に先に契約された場合、ルメニカは永遠に取り戻せなくなります!!」
「わぁーってるよ、くそったれがああああっ!!」
ルメニカに駆け寄るリージェント。聖は首から提げたアヴローラを操作し圧し掛かっているヘリオトロープの首を刎ね飛ばす。すかさず蹴り飛ばすと反転、すぐさまリージェントを追う。
「ちょっと……ちょっとちょっと! 人を何だと思ってるのよ、あいつら!?」
ルメニカが逃げ出すのも当然、巨大ロボットが二体物凄い勢いで駆け寄ってくるのである。やがて二体は横並びになると、互いの得物を激突させて足を止めた。
「言った筈だ聖。僕はこの世界の救世主になる。全てのブライドは僕の物になる」
「だったら俺のも奪うのか!? どうせ俺が死んだらウルシェと再契約出来るんだろ!?」
驚くウルシェ。だがその予測は簡単に立てられる。ブライドが再生者と心中する謂れはない。ブライドという希望は七つしかないが、再生者ならまだ世界のどこかに眠っているだろう。
「晶……お前だってわかってるはずだ! 過去は取り返せない! ブライドを無理矢理集めてやり直しをしようってのはよ! 昴を力ずくで従えるのと何が違うってんだ!」
至近距離で二丁拳銃を放つエクセルシア。その銃口をぎりぎりで逸らし、同じく両腕に構築したブレードを振るうリージェント。白と黒のシルエットは何度も入れ違いぶつかり合う。
「力ずくだろうがなんだろうが、昴が他の男に取られるくらいならマシだ。僕は他の誰にも昴を渡さない……聖、お前にもな……!」
「だったら俺を殺せるのか!? お前、本当に自分の目的の為にダチを殺れんのかよ!?」
銃を手放し徒手空拳でリージェントに飛び掛るエクセルシア。リージェントの懐に飛び込み顎にアッパーを打ち込むと、すかさず回し蹴りで追撃。リージェントを大きく吹き飛ばした。
「……くっ、流石に喧嘩慣れしているか……!」
「剣なんか捨てて掛かって来い!! 男同士のガチンコバトルは拳で白黒つけるもんだ!!」
笑みを浮かべ立ち上がるリージェント。そして剣を放棄すると構えを取った。
「マスター、私のモード・スノードロップは遠距離射撃戦に特化した仕様の……」
「晶あああああっ!! ブライドは一人の人間だ! 俺達が好きにしていいもんじゃねえんだよ!! ウルシェも! トトゥーリアも! ルメニカも! 自由に生きるべきなんだ!!」
マスターがまったく話を聞いてくれないので、ウルシェはもう何か言うのを諦めた。同時にトトゥーリアは混乱していた。主がこんな非効率的な選択をするのは始めてだったからだ。
「ブライドが自由に生きるにはこの世界は彼女らに優しくなさ過ぎる! 誰かが保護してあげなければいけないんだよ聖! 僕やお前が……守ってあげなければならないんだ!!」
「だったら従えずに傍においてやれ! お前のトトゥーリアも!!」
「僕はこれでも……彼女を守っているつもりだ! 僕なりの手段でな――!」
「こんのバッカ野郎!! 晶ぁああああっ、てめえはなんにもわかっちゃいねえええっ!!」
殴り合いになれば聖の方が圧倒的に有利であった。近距離格闘戦の性能だけみればリージェントが圧倒的に有利なのだが、聖の運動センスは元より並外れていた。自由自在にエクセルシアを動かし、その拳でリージェントを滅多打ちにしていく。
「女の子とのお付き合いってのはなぁ! まず友達から始める! 仲良くなる! デートする! 何回目かのデートでいい感じになって告白する! 暫く初エッチができなくてヤキモキする!! 喧嘩した後仲直りしてそのままいい感じになってホテルに入る! 結婚する! そこまできたら自分の女扱いしていいんだよ!! 段取りってもんがあんだろうがぁッ!!」
渾身の拳が怒声と共にリージェントを吹っ飛ばした。素手でマテリアライズ装甲が砕かれ黒い光の破片が砕け散る。顔を押さえ、リージェントは片膝を着いた。
「なんなの、峰岸聖……!? あの男の力……理屈ではない……っ!?」
「どいつもこいつも力ずくで女作ろうとしやがって……そんなのは清く正しい青春じゃねえんだよ!! 相手がどんな美少女だろうと! やっていいのはスカートめくりまでだ!!」
「聖ぃ……! スカートめくりは……立派な犯罪だと何度も言った筈だっ!!」
飛び掛るリージェント。エクセルシアは軽く跳躍し、空中で回転しながら蹴りを放った。その足先がリージェントの顔面に直撃し、今度こそ黒い巨体は水飛沫を上げてダウンした。
「……犯罪じゃねえ。男のロマンだ、バカが」
「バカはマスターの方です。ルメニカがミリアム・コールドに捕まっています」
慌てて振り返るエクセルシア。そのまま両手で頭を抱えた。頭部を失ったヘリオトロープだが、右手でルメニカを捕らえ上げているのが見える。
「貴様らにブライドは渡さん……この花嫁は陛下の物だ!」
「放しなさいミリアム! お兄様は死んだわ! もう全部終わったのよ!!」
もがきながら叫ぶルメニカ。そうしてアルヴァートを振り返り確認した時動きが止まってしまった。先程銃弾を浴びせられて倒れていた筈の兄の死体がどこにも見当たらないのだ。
「陛下が死ぬだと……冗談でも言っていい事と悪い事がある。悪い子だ……赤のブライド!」
卑屈な笑みを浮かべながらぎりぎりとルメニカを締め付ける巨人の腕。苦しげに顔を歪めるルメニカの姿をミリアムは興奮した様子で目を見開き観察している。
「マスターやばいです。あの人前から思ってたけど、変態の類です!」
横から襲い掛かり、蹴り飛ばすと同時にマフラーで腕を切断。素早くキャッチするとハッチを開いてルメニカへと手を伸ばした。
「こっちだ、来い……ってぇ、お前なんて格好してるんだ! やめろおおお!! おっぱいを隠せおっぱいを!! うら若き乙女がはしたないでしょ!!」
「隠してるだろ誤解招くような事言うんじゃないわよ変態!」
もじもじしているエクセルシアの足を掴んで引っ張るヘリオトロープ。内蔵していたナイフを取り出し、素早くコックピットへと振り下ろす。
「相手がオリジナルであろうと、ハッチが開いているのなら……死ねぇ、再生者!!」
「マスターッ、いい加減にしてください! ルメニカも早く乗って!!」
揺れる機体の上をなんとか歩くルメニカ。そこへ突然側面から人影が現れルメニカを抱えてエクセルシアを飛び降りる。見ればそれはトトゥーリアであった。
「ちょっと、誰よこの子!?」
「トトゥーリア・ザ・ブラック……あなたと同じセブンブライドです」
俗に言うお姫様抱っこのまま凛々しく応じるトトゥーリア。見ればリージェントは装甲と武装を排除した素体のままの状態で駆け寄り、聖を助けるようにミリアムを突き飛ばしている。
「晶……悪い、助かった……けど、ルメニカは渡さねー!」
「トトゥーリア、こっちだ!! 変形して一気に離脱するぞ!!」
頷いて走り出すトトゥーリア。その身体能力は明らかに人間離れしている。聖は咄嗟にエクセルシアの腕で水の溜まった地面を叩き飛沫を上げる。足を止めるトトゥーリア。そこへエクセルシアから飛び降りたウルシェが背後から駆け寄り、抱きつくようにしてトトゥーリアの乳房を揉んだ。両手で、揉みしだいた。結果黒の花嫁は顔を真っ赤にして叫び声をあげ、胸を隠すように崩れ落ちたのでルメニカは手放した。ウルシェはそんなルメニカを受け止める。
「うーん、同じブライドなのにバストサイズのこの格差……許すまじ……」
「ウルシェてめえええ!! 何カップだったああああ!!」
「Dです、マスター!」
ウルシェがエクセルシアに戻ると即座に装甲を展開。白いフォゾン光を周囲に放って二機を弾き飛ばす。すぐさま駆け出し、フォゾンライフルで天井に穴を空けて飛び出した。
宮殿に上がった聖達はそのまま市街地を飛行。港からコロニー外への脱出を目指すが、背後からリージェントとヘリオトロープが追跡してくる。
「あの変態ブライド……変態ブライド……ッ! 私の……マスターにだけ捧げた私の胸を……あんなにいやらしい手つきで……! 殺す! 殺してやる!!」
どす黒いオーラを発しながら親指を噛む相棒に晶は真顔のまま冷や汗を流している。
「逃がさん……絶対に逃がさんぞ!! 白角つきいいいいッ!!!!」
既にダメージを受け彼方此方を破損したヘリオトロープだが、ライフルの狙いはひどく正確であった。背後からの攻撃を避ける聖だが、避けた分だけコロニーに損害が広がってしまう。
「ばっかやろ、こんなところで大出力のビームなんか撃つやつがあるか!?」
「もう少しの辛抱です! 走り抜けてください、マスター!」
市街地から港ブロックに飛び込む。港は先のリージェントの強行突破により損害が出ており、彼方此方に隔壁が下ろされ入り組んでいる。時にはその壁を銃で吹き飛ばし、やり過ごしながらウルシェのナビゲート通りに港を目指すが、ミリアムは出口付近にライフルを撃ちまくり、ゲートへ続く道を破壊。続け天井を撃って天板を砕いて落下させる。
崩落に巻き込まれ墜落するエクセルシア。そのまま大地に叩きつけられると火花を散らしながら壁に激突して停止する。激しく揺さぶられたコックピットの中では頭を打った聖が額から血を流しながらルメニカを抱き抱えていた。
「だ、大丈夫か……ルメニカ……」
「う、うん……。あなたが抱えていてくれたから……だけど、あなたの方が怪我してる……」
「こんなん怪我のうちに入らねーよ。ウルシェ、生きてっか!」
「後頭部にでっかいたんこぶが出来ていないか、あとで見て下さい」
見ればダウンしたエクセルシアの目前でリージェントとヘリオトロープがうまい具合に争っていた。何とか体勢を立て直すが、港は完全に破壊され塞がってしまっている。
「どうする? ジャッジメントで吹っ飛ばすか……?」
「非常に言いにくいのですが、もうジャッジメントは撃てません。マテリアライズもそろそろ限界です。いくらなんでも力を使いすぎました……このままだと装甲も限界です」
疲れた様子のウルシェにもっと頑張れとは言えなかった。確かにここに突入するまでの戦いで消耗しすぎたのだ。あんなにも大規模な戦闘になってしまうだなんて予想していなかった。
「追い詰めたぞ聖……さあ、大人しくブライドを渡してもらおうか!」
ヘリオトロープをブレードで壁に串刺しにし、リージェントがやってくる。拳での殴りあいなら聖が有利だが、今の晶は最早そんなおふざけには付き合ってくれないだろう。突きつけられる刃に聖が息を呑んだ――その時である。
突如激しい衝撃が港を襲った。原因は単純明快、大型艦が頭から突っ込んできたのである。港に突き刺さる巨大な剣、デヴォンジャー号。それは障害を吹き飛ばしたついでにリージェントに突っ込み、瓦礫と一緒に彼方の壁の中にまでその姿を押し退けてしまった。
「え……。あの……晶とトトゥーリア、死んでしまったのでは……?」
「あ、あいつなら生きてんだろ……多分。まったく、艦長の奴……無茶苦茶しやがるぜ」
「聖ちゃんの帰りが遅いから迎えにきたよー! ……さあ、早く乗ってください!」
剣の上に飛び乗るエクセルシア。デヴォンジャー号は後退し港を出ると反転、既に戦闘が落ち着きつつある宇宙へと飛び立った。遠く太陽の光を浴びながらマフラーをはためかせるエクセルシア。その帰還を仲間達が歓声で迎え入れる。
「これでもう大丈夫だ。よかったなルメニカ……ルメニカさん?」
明るい聖の声とは対照的にルメニカは酷く憔悴した様子であった。先程までの騒ぎとは一変し、真剣な様子で聖を見つめる。聖も頬を掻き、真顔で少女を見つめ返した。
「どうした。何か納得の行かない事でもあるのか?」
「聖、ウルシェ……私、あなた達を騙してた。私は最初からこうするつもりで……あなた達とベルスターをぶつけるつもりで……利用するつもりでアークから連れ出したの」
「知ってるよ。全部計画通りになったじゃねーか。それじゃだめなのか?」
「だめだよ……だって私……あなた達に助けてもらえるようないい子じゃないもの。綺麗事ばっかりで、本当は私が誰よりも一番あなたを道具扱いしてた。笑っちゃうよね。私だってブライドで、ブライドの成りそこないで……ただの道具に過ぎなかったっていうのに……」
俯いて涙を流すルメニカ。聖は溜息を一つ、その頭をくしゃくしゃに撫でた。
「俺達は何にも気にしてねーから。いいんだよ、もう。それでも俺、お前に会えて良かった」
「聖……ごめんなさい! ウルシェも……ごめんなさい! 私……私っ!」
「嘘ついてる自分が嫌で、ずっとイライラしてたんですよね。そういうのわかるつもりです。一応私も女の子ですから。でももう嘘をつく必要はないんです。全部終わったんですよ」
ウルシェの優しい声に頷くルメニカ。二人に慰められ、許しの言葉をかけられながらルメニカは泣いた。泣いて泣いて泣きじゃくり、その雫がコックピットの中を舞う……その時。
「――聖っ、後ろだ!!」
トレイズの声が聞こえたと思った直後、エクセルシアの背中で爆発が起こった。これまでとは比べ物にならない大規模なフォゾン攻撃である。デヴォンジャー号から弾かれたエクセルシアの装甲が消失し、それはウルシェが限界を迎えた事を意味していた。
「あ……あ、うぅ……」
「ウルシェッ!? くそっ、何が起きた!? どこから撃たれたんだ!?」
「聖、後ろよ! ベルスターコロニーの上に何かいる!」
振り返った瞬間、そこで何かが瞬いた。再び光がエクセルシアに直撃。激しい衝撃と共に機体のフレームが爆ぜる。マテリアライズ装甲を失った今、高火力の一撃は致命傷に成り得る。
「があああっ!? くっそおお、ルメニカ……ウルシェを頼む!」
遠距離からの攻撃をなんとかかわす聖。コロニーの上に居た未確認機は赤いカラーリングを施された大型の人型輝光機であった。これまで見たどの機体とも異なるそれは、両肩に装備した大型の可変式ブースターから光を放ち、猛スピードで距離を詰めてくる。
「ヘリオトロープ……じゃ、ない!? なんだこいつ……エクセルシアが反応してる。まさか……オリジナルジュリスライド!?」
三つ目を輝かせ雄叫びを上げるアンノウン。接近するとそのまま体当たりを繰り出し、よろけたエクセルシアに追いつくと腕を掴み上げる。至近距離で見るその機体の迫力は尋常ではなく、全身に赤黒い光を帯びているのが分かる。
「なんだ、この感じ……? ビビってるのか、俺は……?」
操縦桿を握る腕が震えていた。この機体からは強烈な殺意を感じる。人が人を殺そうという意志、それを徹底的に研ぎ澄まして作ったのがこのバケモノなのだ。本能的に理解する。これは激しい憎しみを自分に抱いているのだと。自分を殺すまで、決して止まる事はないのだと。
腕を掴まれた状態で膝を打ち込まれ揺れるコックピット。それを何度も繰り返すとエクセルシアを放り投げ、胸部を変形させ大型のビーム砲を出現させる。アンノウンの放つ赤い光に撃たれ、防御に使ったエクセルシアの左腕が吹き飛んだ。
「ビビってる場合じゃねえ……俺が……俺が守るんだ……!」
強く意志を握り締める聖。そう、怯えて竦んで何も出来ずに女を手放すなんてもう沢山。勝ち目がどうだの有利不利がどうだのは関係ない。戦え。男ならば――女を守る為に。
「俺が……二人を……! 守るんだああああっ!!」
武器も装甲もないまま敵機へ飛び込む聖。しかしリージェントを吹っ飛ばした蹴りもアンノウンには通用しない。逆に掴みかかられると、ようやく敵ライダーの声が聞こえて来た。
「……やっと見つけたよ、アルメニカ……僕の愛しい花嫁……」
「まさか……この声、お兄様!? でもさっき銃で……」
「ふ……ははっ。あっはははは! 僕が! 再生者であるこの僕が! 銃で撃たれたくらいで死ぬわきゃあねえだろうがよお!!」
コックピットで笑うアルヴァートは身体の彼方此方を赤い結晶で覆われていた。既に人間とジュリスの中間の生命体となったアルヴァートは、機体と物理的な融合を果たそうとしていた。コックピットもまた徐々に結晶化して行き、赤い光が全てを飲み込んで行く。
「このロード・クロサイトはぁ……! オリジナルを研究して作り上げた限りなくオリジナルに近いジュリスライドだ! そのオリジナルに僕が……再生者が乗ってるんだからぁ……! てめえみたいなカスに負けるわけがねえんだよぉ!!」
何度もコックピットを殴りつけるロード・クロサイト。機体そのものにまるで意志が宿ったかのように、王の殺意を体現し執拗にエクセルシアを痛めつけて行く。
「その女は……ママは……僕の物だ! 僕はママと子供を作るんだ! 一つになってこの世界に希望を生む! そして――僕が本物の、正真正銘の再生者になるんだよ! もう誰にも偽者だなんて言わせない! 僕が本物! 偽者はお前だ……死ね! 死んでしまえええ!」
「エクセルシアにはルメニカも乗ってるんだぞ!? 妹を殺すつもりか!?」
「僕に妹なんかいなぁい! ママは……ママは……。ママ、どこ? 僕のアルメニカ……ブライド……僕を捨てたの!? ママ! ママァアアアアッ!!!!」
既に精神を崩壊させているのか、ロード・クロサイトは頭を抱えて唸りだす。何とか離脱した聖。そこへ二機のトリフェーンが駆けつける。
「聖、こっちだ! そのバケモノから離れろ!!」
「やめろトレイズ、お前たちじゃ無理だ! こいつは――ッ!!」
ライフルを放つトレイズ機。しかしロード・クロサイトを覆う赤い狂気が光を弾く。そして怪物は両肩のブースターから無数の銃口を出現させ、全方位にビームを放った。
聖救出の為に駆けつけていた傭兵やベルスターの輝光機を一斉にビームが貫く。ガドウィンはなんとかかわしたものの、トレイズ機も腹部に攻撃を受けてしまった。
「しま――ッ!?」
直後、同時に夜空に星が瞬いた。トレイズのトリフェーンが爆発して吹き飛んで行くのを確認し、聖は呆然と目を見開く。
「トレイズ……? トレイズ……! トレイズーーーーッ! てめぇええええええ!!」
「ぷっはは! あっはははは! あははははははは!! 僕は王様だぁ! 僕に逆らう人間は……僕とママを引き離すゴミどもは死ね! 皆死んでしまえ! 死刑死刑! 死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑死刑ィイイイイ!!」
怨念を帯びたロード・クロサイトが吼える。聖は額の血を拭い敵を見据える。これこそが悠久の時が鍛え上げた妄念の結晶。赤き偽りの救世主。歪んだ真実に向き合おうとしなかったベルスター一族が産んでしまった、最期の怪物であった。




