十三歳の僕は旅に出る。
六歳になったばかりのことだった。
吐き気がするほど平凡で目立たなかった僕は、幼稚園の卒園式でわんわん泣いてみんなから優しい声をかけられているルミちゃんを見ていて何だかむかむかしてきてルミちゃんの三つ編みの髪を思い切り引っ張ったら父親に殴られた。
そんな僕もルミちゃんもまわりで騒いでいた同い年の子も何がなんだか分からずに一緒になって泣いていた子もそんな騒ぎがあっていたことを知らない子もみんながみんな幼稚園を出るときに綺麗に包装された真っ赤な切符を受け取ると、何分か前に園長先生が言っていた言葉なんかすっかり忘れたまま母親と手を繋いだり幼稚園の前で写真を撮ったりしてそれぞれの家に帰っていった。
「あなたたちがその切符を使わないことを心から祈っています」
僕は十三歳になった今でもそう言っていた園長先生の顔を忘れることができない。
何か言いたいことを必死で飲み込んでいるような、まるで大きな三匹のナメクジでも飲み込んでいるような。
今思えば、あの白髪だらけで口の臭かった園長先生は真剣に僕らのことを想ってくれていたんだろう。
そんなくだらない切符を使うことなく、僕らにちゃんとした大人になってほしいと、祈ってくれていたんだろう。
でも世の中は不公平で、どうしようもなく辛いことで満ちていて、そんな辛いことに全員が耐えられるようにはできていない。
だから……。
十三歳の誕生日の夜(つまり今夜!)、僕は旅に出る。
三日分の着替えと、母親の財布から抜いた六枚のくしゃくしゃの一万円札と、真っ赤な切符をリュックサックに詰め込んで。