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第7話 部下の健康

「……決闘だと? 貴様のようなひ弱な文官が、私に剣を向けるというのか」


グスタフ卿が嘲笑と共に、大剣の柄に手をかけた。周囲の騎士たちが息を呑む。だが、和雄は胸ポケットから予備の眼鏡を取り出し、ゆっくりと掛け替えた。


「いえ、物理的な暴力は非効率です。グスタフ卿、あなたが誇るその『統率力』と、私の『管理能力』、どちらが真に騎士団を強くできるか、勝負しませんか」


「ほう……面白い。どうやって決める」


「明日の遠征演習です。第一部隊をあなたが、第二部隊を私が指揮する。条件は一つ。私は『一切の武器を持たせず、魔法も禁じた休息中心の行軍』で、あなたよりも早く目的地に到達してみせましょう」


グスタフは鼻で笑った。「休息だと? 軟弱な。受けて立とう。負けた方は、この街から立ち去るがいい」


翌朝。グスタフ率いる第一部隊は、夜明け前から猛烈な勢いで進軍を開始した。「気合を入れろ! 眠気は敵だ!」という怒号が響く。


一方、和雄の第二部隊は、出発を二時間遅らせた。


「和雄さん、本当に大丈夫なんですか? みんな不安がってますよ」

リナが心配そうに尋ねる。和雄は手元の懐中時計(異世界転移で唯一動いていた精密機器)を見つめていた。


「リナさん、兵站ロジスティクスの基本は『適切なインターバル』です。……さあ、全員に配ってください。特製の『塩分補給タブレット(魔力微量配合)』と、私が作成した『進軍シフト表』です」

和雄は、騎士たちに命じた。


「いいですか、四十分歩いたら必ず十分休む。その間は完全に防具を脱ぎ、足を高くして血流を戻す。そして、昼食は歩きながらではなく、必ず座って『温かいスープ』を摂ること。これは命令です」


騎士たちは戸惑いながらも、和雄の指示に従った。


数時間後。グスタフの部隊は、過酷な強行軍により隊列が乱れ、疲労困憊の騎士たちが道端に崩れ落ち始めていた。一方、和雄の部隊は、定期的な休息により集中力を維持し、後半になっても歩速が全く落ちない。


「……信じられない。みんな、顔色がさっきより良くなってる」

リナが驚きの声を上げる。


「当然です。人間は機械ではありません。『効率的な休止』は、最速の移動手段なんです」

夕刻。目的地の砦に先に到着したのは、一人の脱落者も出さなかった和雄の部隊だった。


三十分遅れて到着したグスタフは、肩で息をしながら、整然と整列した第二部隊を見て愕然とした。

「ば、馬かな……。なぜだ、なぜ貴様の部下はこれほどまで……」


「グスタフ卿。あなたが強いたのは『根性』ですが、私が行ったのは『労務管理』です。疲弊した兵士は、戦場ではただの標的に過ぎません」


和雄は、疲れ切ったグスタフに、予備のスープを差し出した。


「あなたが守るべきは国だけではない。まずは、あなたの部下たちの『健康』を守るべきです。それが、真の聖騎士の務めではありませんか?」


グスタフの大きな手が、震えながらスープを受け取った。その目には、初めて敗北を認めた悔しさと、それ以上の深い反省の色が浮かんでいた。


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