第4話 裏帳簿
「……何だ、あの光は」
街の広場に浮かび上がった青い文字を見上げ、馬車から降り立ったのは、冷徹な眼差しを持つ細身の男だった。その胸元には、王家直属の「法執行官」であることを示す、天秤の紋章が刻まれている。
「ギルドマスター・バルガス。街の秩序を乱しているという報告を受け、王都より『査察』に参った。……そして、そこにいる異様な身なりの男。お前が首謀者か」
法執行官・ゼノスは、和雄の足元に転がった書類を杖の先で突いた。
バルガスは顔を青白くさせ、しどろもどろに言い訳を始める。
「ゼ、ゼノス様! これは、この得体の知れない男が冒険者たちを唆し、不当な要求を……!」
和雄は、ネクタイを締め直した。
相手は、この世界の「法」そのものだ。現代日本の労働基準法など、ここでは一枚の紙屑に過ぎないかもしれない。だが、和雄は知っていた。どんな世界でも、統治者が最も嫌うのは「税の不透明さ」であることを。
「法執行官殿。私はただ、このギルドの『使途不明金』について、適正な帳簿の管理を提案していただけです」
和雄は、リナが魔法で複製した別の書類を差し出した。それは、バルガスが私的に流用していた「装備新調費」と、実際には支給されていない「危険手当」の差額を、和雄が暗算と複式簿記で弾き出した『裏帳簿の復元案』だった。
「……ほう」
ゼノスの目が、鋭く細められる。
「王都への上納金が、本来あるべき額より二割も少ない。バルガス、これはどういうことだ? 冒険者の命を安く買い叩くのは勝手だが、国王陛下の取り分を誤魔化すのは……『国家反逆罪』に等しいぞ」
「ひっ……! 違います、それはその男の出鱈目で……!」
和雄は静かに告げた。
「出鱈目かどうかは、今すぐ金庫を開ければわかります。……ゼノス様、提案があります。このギルドを健全化し、冒険者の生存率を上げれば、結果として王都への税収は安定し、増大します。
そのための『新規定』を、私に策定させていただけませんか?」
和雄は、手の中の万年筆を握りしめた。
これは、もはや一介の社労士の仕事ではない。
一国の、あるいはこの世界の「仕組み」を書き換えるための、命がけのコンサルティングの始まりだった。




