第3話 冒険者互助組合規約
「……ユニオン? 何だそれは。新しい魔導組織か?」
バルガスが眉をひそめる。和雄は、返り血のついた机の端に、真っ白な紙を一枚広げた。
「いいえ。これは戦うための組織ではありません。『共助』のための仕組みです。リナさん、羽根ペンを。インクは……あなたの魔力で少し定着を強めていただけますか」
和雄が書き始めたのは、この世界で初めての「冒険者互助組合規約」だった。
周囲にいた、怪我をしても治療費すら出してもらえない若い冒険者たちが、一人、また一人と足を止め、和雄の書く文字を覗き込む。
「みなさん、聞いてください。あなたがたが魔物に立ち向かう勇気は尊い。しかし、その勇気がギルドマスターの贅沢のために『消費』されていいはずがない」
和雄の声は、決して大きくはない。だが、静かな事務室で何年も労使交渉を重ねてきた男の言葉には、独特の重みがあった。
「今日から、報酬の五分の一を積み立てましょう。それはバルガスの懐ではなく、怪我をした仲間や、残された遺族のために使われる『保険金』です。そして……」
和雄はバルガスを真っ向から見据えた。
「これに賛同する者がこの場に十人以上いれば、彼らは一斉に『業務を放棄』します。つまり、明日からこの街の魔物退治は誰も行いません。ギルドの運営は止まり、王都からの信用も失墜するでしょう」
「な、貴様……ストライキだと!? 冒険者の本分を忘れたか!」
バルガスが机を叩いて立ち上がる。だが、周囲の冒険者たちの目は、もはや怯えていなかった。彼らは和雄が書いた『規約』という名の、初めて手にした「盾」を見つめていた。
「バルガスさん。これは脅しではありません。あなたが彼らを人間として扱い、適正な分配を約束するための、唯一の『交渉の席』を用意しただけです」
リナが震える手で、和雄の書類に魔力を込めた。文字が淡い青光を放ち、広場の空中に浮かび上がる。
それは、力こそがすべてだったこの世界に、初めて「契約」という概念が刻まれた瞬間だった。




