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第11話 国による資産の差し押さえ

「これはもはや『ブラック企業』なんて生易しいものじゃありません。組織的な労働搾取です」


和雄は、鉱山街の片隅にある事務所で、リナが命がけで持ち帰った一通の内部告発書を広げた。


宛先は、王都の地下に根を張る巨大ギルド『黒い蛇』。彼らは表向きは運送業を装いながら、実態は行き場のない亜人や貧民を「使い捨ての駒」として酷使し、危険な魔導兵器の密造を強いていた。


「彼らは、借金を盾に労働者を縛り付けています。返済が終わるまで、一日二十時間の労働。食事は腐ったパン一切れ。……しかも、魔法で『痛覚を麻痺』させて、死ぬまで働かせ続けているんです」


リナの拳が震えている。現代日本で言うところの、「タコ部屋労働」や「シャブ漬け雇用」に近い、人道に反する手口だ。


「……リナさん。これは私の専門外かもしれません。社労士は、平和なルールがある場所でこそ力を発揮する。暴力に法は無力だと言う人もいるでしょう」


和雄は一度眼鏡を外し、眉間を強く揉んだ。

だが、その目は折れていなかった。


「しかし、彼らの武器が『暴力』なら、私の武器は『帳簿』です。……見てください。この『黒い蛇』の運営資金、どこから出ていると思いますか?」


和雄は、複雑に絡み合った資金の流れを図解した。


「彼らは、王都の腐敗した貴族たちから、不透明な『コンサルティング料』という名目で多額の献金を受けている。つまり、これは単なる犯罪組織ではなく、国家ぐるみの『粉飾決済』と『マネーロンダリング』の温床なんです」


その時、事務所のドアが蹴り破られた。


入ってきたのは、蛇の刺青を首筋に入れた、見るからに質の悪い男たち。その手には、違法に改造された魔導短銃が握られている。


「おい、眼鏡。余計な嗅ぎ回りはそこまでだ。……『帳簿』なんて紙切れで、俺たちのビジネスが止まるとでも思っているのか?」


和雄は、ゆっくりと椅子から立ち上がった。その手には、いつもの万年筆と、一冊の分厚い『王国税法・改訂案』。


「止まりませんよ。……ですが、『凍結』はできます。……リナさん、今です。王都の税務署、およびゼノス法執行官へ、この『脱税疑惑の告発状』を魔法通信で一斉送信してください」


「な、何だと!?」


「いいですか。あなた方が最も恐れるのは、私の説教ではない。『国による資産の差し押さえ』です。あなた方の組織の口座、隠し金庫、そして協力者の貴族たちの資産……すべて、明日には『調査対象』としてロックされます」


和雄は、銃口を向けられながらも、営業スマイルすら浮かべていた。

「……暴力で私は殺せても、一度始まった『税務調査』は止まりませんよ? 組織を道連れにして私を撃ちますか、それとも、今すぐその銃を置いて『取引』に応じますか?」


かつて、日本のバブル崩壊後の債権回収現場を支えたベテラン社労士の、冷徹なまでの交渉術。


力による支配が、「金の流れ」という冷徹なシステムによって、静かに崩れ去ろうとしていた。

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