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第10話 街道封鎖

「……大変です! 街道が封鎖されました!」


リナが息を切らせて駆け込んできた。鉱山街の改革が進み、労働者たちの顔に生気が戻り始めた矢先のことだ。

近隣の領主たちが、和雄の「労働改革」が自分の領地に波及するのを恐れ、共謀して食料と資材の供給を止めたのだ。


「『不当な労働条件を強いるなら、穀物は一粒も渡さない』……だそうです。これじゃ、来週にはみんな干上がっちゃいます!」


代官バルトが、ここぞとばかりに下卑た笑いを浮かべる。


「ひっひっひ、どうだ社労士。法だの権利だの言ったところで、腹は膨れん。お前のせいで、この街の連中は飢え死にだ。今すぐ前言を撤回し、元の『死ぬまで労働』に戻すと誓え!」


和雄は、静かにネクタイを緩めた。その目は、倒産寸前の企業を何度も救ってきた再生請負人のように冷徹だった。

「リナさん。……彼らは大きな勘違いをしていますね」

「えっ?」


「『物流を止める』ということは、同時に『自分たちの市場マーケットを失う』ということに他ならない。……バルトさん、あなたがた領主連合は、この鉱山から出る『魔石』の供給も止まることを理解しているのですか?」


「はん、そんなもの、少しの間我慢すれば済む話だ!」

和雄は、ビジネスバッグから一枚の『物流相関図』を取り出した。


「いいえ。この魔石がなければ、王都の魔導炉は止まり、貴族たちの屋敷を照らす灯りも消える。……リナさん、この街に残っている全在庫の魔石を、一箇所に集めてください。そして、私の合図で『特定の周波数』で共鳴させて」


「周波数……? 魔法の波長のことですか? でも、そんなことしたら……」

「いいんです。これは『供給制限』という名の交渉術です。……さらに、街の若い衆に伝えてください。


鉱山の裏道を通って、隣国の商人たちと直接コンタクトを取る。彼らには、この高品質な魔石を『格安』で卸すと」


「な、隣国だと!? それは密貿易だぞ!」

バルトが叫ぶが、和雄は動じない。


「いいえ。これは『販路の多角化』です。領主連合が独占禁止法……いえ、この国の商慣習を無視して封鎖を行う以上、我々には生存のための『緊急避難的措置』が認められる。……さあ、始めましょうか」


数日後。和雄の指示で、鉱山街から王都へ向かう魔石の供給が完全にストップした。

一方で、裏ルートを通じて運び込まれる新鮮な食料が、労働者たちの食卓を彩る。


王都では、魔石不足で魔導車が立ち往生し、街灯が消え、貴族たちの悲鳴が上がった。

「ば、馬鹿な……! なぜあんな貧相な街が、封鎖されても平然としているんだ! 逆にこっちが干上がっているじゃないか!」


和雄は、鉱山街の入り口で、抗議に訪れた領主たちの使いを冷ややかに見下ろした。


「条件は三つです。『物流の即時再開』、『不当な封鎖に対する損害賠償』、そして……この鉱山街の『完全なる自治権』の認可。……判を押しますか? それとも、このまま暗闇で生活を続けますか?」


和雄の手元で、万年筆が鈍く光る。


それはもはや、単なる事務用品ではない。国家の経済を動かす、最強の「指揮棒」となっていた。

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