表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第一章、切れてるようで、繋がっている関係

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/18

幼馴染への余計なお世話

 フライパンが、じゅっと音を立てた。

 油を引いて、卵を流し込む。

 火加減はしっかりと加熱して、一気に流し込んでしまうのは正しいんだが。


「あっ」

 夏希の短い声。

 卵は一気に固まり、端からぼそぼそと縮んでいく。初心者にとって強火での料理は失敗しやすいのだ。

 ふわっと広がる前に、焼きすぎた。


 俺は一歩近づいて、火を弱める。

「火、強かったな」

「ご、ごめん……」

 夏希はフライパンを見つめたまま、肩を落とした。


「ちゃんと出来ると思ったんだけど……」

 ちゃんとやろうとして、失敗する。初めてやる事なんだから失敗する方が当たり前なのに随分と落ち込む。そういうところが真面目だなと思う。

 

「別に、失敗でもいいだろ」

 そう言いながら、俺は新しい卵を取り出す。

「天津飯なんだから、卵焼きみたいに形気にしなくていいし」

「……でも」


「それに、もう一回焼けばいい」

 そう言って、殻を割って具材と混ぜ合わせる。


 夏希は少しだけ目を丸くして、それから、困ったように笑った。

「脇阪くんって、やっぱそういう所優しいよね」

「……普通だろ」

 初心者が卵を焼くのを失敗しただけで怒鳴り散らす奴なんて見た事ないわ。


「普通じゃないって」

 そう言って笑う横顔を見えてしまって、目を背ける。軽く言われただけなのに、妙に胸に残る。

 

 今度は俺が卵を焼く。

 火加減は先程よりは少し弱火にし、箸で大きく混ぜる。

「ほら、こんな感じ」

「……すご。さっきと全然違う」


 肩が触れそうな距離で、夏希がフライパンを覗き込む。……こういう所は俺は注意したいんだが。

 

 ふんわりと焼き上げた卵をご飯の上に乗せてあんをかける。

 3度目に夏希が焼き上げた天津飯は、それなりにちゃんとした見た目になった。


「いただきます」

 一口食べて、夏希がほっとした顔をする。

「……美味しい」

 内心で自分も安堵する。料理は見た目や食感も大事だが、天津飯の場合、結局あんが全部をまとめてくれる。逆に言えばあんが不味ければ全て不味いのだ。



「失敗分も、味は同じだ」

 そう言って、最初に夏希が作り出したボソボソの卵焼きにあんをかけて食べる。

「それ、慰め?」

「事実だよ、というかただのカニ玉だなこれ」

 

 食感は確かに悪いが、人が努力して作ったものを食べるのは、不思議といつもよりも美味しかった。

「わ、私が食べるって!」

「独り占めする気か?案外がめついんだな」

 なんて言いながら、放課後の2人だけの食事を楽しんだ。……そう、楽しかったんだ。



 食べ終わる頃、夏希は時計をちらっと見た。

「結構時間経っちゃったね」

「もうこんな時間か」

「……そろそろ帰らないと」

 そう言いつつ、夏希が洗い物を始める。別に頼んだ事ではないけれど、何か手伝いたいという気持ちがあるんだろう。


 ある程度の洗い物を終え、エプロンを外しながら、夏希が少しだけ言い淀む。

「明日も、何か作ったり……」

 言いかけて、止めた。

「……いや、何でもない」

 そのまま、鞄を持つ。

 


 その様子を見て、潮時かと思った。夏希の顔がもう十分だ、という風に俺には見えたんだ。

 これ以上は、踏み込まない方がいい、そんなふうに。

 

「明日さ」

「うん?」

「俺、部活休みなんだ」

 夏希が、少しだけ固まる。

「母親が明日は休みでさ。ここで夕飯作る理由もないし」

 事実を言っているだけだ。夏希にも「部活がある時は好きにしたらいい」と言っていたし、別に俺が食事を作らなくても、今までだって何とかしてきた筈だ。


「……そっか」

 そう呟いた夏希の声は、思ったより小さかった。彼女が何を考えているのかは分からないが……

 

「月曜までは、家庭科室は来ない」

 伝えなければいけない事だけ、はっきり言っておく。夏希は一瞬だけ視線を落とした。

 すぐに、いつもの顔に戻る。

「……分かった。じゃあ、お疲れ様」

「おう」

 

 夏希は手を振って、家庭科室を出ていった。

 ドアが閉まる音が、少しだけ大きく響く。

 

 ……何か、言い過ぎたか?

 そう思った時には、もう遅かった。

 俺には、夏希が「甘えずに自分の力で生きていこう」としているように見えただけで、

 その胸の奥まで、分かるはずもなかった。

 

 布巾で皿を拭きながら、妙に静かになった家庭科室を見回す。

 ――明日は来ない。

 ただそれだけのことなのに、

 胸の奥が、少しだけ落ち着かなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ