パフェを食べるだけの話
案内された席に腰を下ろすと、思っていたよりも落ち着いた空間だった。
テーブルに、柔らかい照明。外の喧騒が嘘みたいだ。水ではなく、熱めのお茶が提供されているのも、本格的で嬉しい。
『一緒にカフェとか行ったらさぁ!対面にいる彼氏にドギマギしながら、食べさせ合いっことかしたいよねえ!』
⋯⋯脳内琴音が侵入してきたけど、すぐに打ち消す。というか、対面に脇阪くんが座っているのなんて、家庭科室では良くある事だ。ドキドキなんてしない。⋯⋯少ししか。
「で、何にする?」
メニューを開くと、通常の食事メニューの他に、デザートとして抹茶やほうじ茶を使った和風パフェが並んでいる。
「うわ……全部美味しそう」
「甘いの苦手とかは無いか?」
「女の子は大体好きなんじゃない?脇阪くんは何にするの?」
「そうだな、まぁ一番人気ありそうなやつで良いかな」
一番人気か、それだと彼が頼むのは抹茶パフェという事になるんだろうか。
『別の種類を頼むのです⋯⋯夏希、貴女にならそれが出来る』
脳内琴音があまりにもしぶとい。悩んだ末、私も王道の抹茶パフェを指差す。写真では見た目にも華やかだし、同じ物なら何も起きない筈だ。
「分かった。⋯⋯すみません」
私が選び終えたと同時に、脇阪くんが手を挙げて店員さんを呼ぶ。
「じゃあ抹茶パフェと、ほうじ茶パフェ一つずつで」
そうして彼が選んだのは、二番人気であろうほうじ茶パフェだった。
「同じじゃないんだ」
注文が終わり、店員さんが離れていった後、なんとなく気になった事が口に出る。
「折角なら別の方が良いだろ。味見も出来るし」
さらっと言われて、一瞬思考が止まる。
(味見……?)
味見、というのは私のパフェを食べるという事だろうか?それは何か一線を超えていないかな?いやいやそんな事小さい頃にやった事きっとあるだろうし、脇阪くんにとっては対したことじゃないんじゃ⋯⋯
「お待たせしましたー。ごゆっくりどうぞー」
そんな事をぐるぐると考えていたら、少しして運ばれてきたパフェは、想像以上に華やかだった。高いグラスの中に層になった抹茶とあんこ。ほうじ茶の方は、少し大人っぽい色合いで落ち着いている。
「おお、イメージ通りだな」
確かに、メニュー表に乗っていた写真と同じ見た目だ。映え、という物を意識してるんだったら人気があるのも頷ける。
「写真撮らなくていいのか?」
そう先に言ったのは脇阪くんだった。
「そうだね、じゃあ撮っとこうかな」
別にSNSなんてやっていないんだけど、友達に見せる分にも撮っておいて損はなさそうだ。そう思い、何枚かの写真を撮っておく。
「⋯⋯なんで脇阪くんそんな下がってるの?」
「いや、俺が映ると面倒な事になるから」
写真を撮っている際は、脇阪くんはテーブルの端にパフェをおいて、自分が映らないように配慮してくれていた。それが可笑しくて、携帯を彼に向けて、写真を一枚撮っておく。
「おい!?俺の努力を無駄にするの辞めない!?」
「可笑しかったからつい⋯⋯後でそっちに送ったら消すね?」
笑いながら、携帯を鞄に戻す。⋯⋯よし、少しだけ落ち着いた。
「じゃあ食うか。溶ける前に」
無理ですそんなに落ち着いてません。脇阪くんは本当に私と、別々のパフェを共有するつもりなんだろうか?
「んじゃ悪いけど、一口貰うわ」
「⋯⋯へ!?あ、どうぞ⋯⋯」
そう言いながら、彼はまだ手を付けていない私のパフェにスプーンを深めに突き刺し、一口だけ頬張った。
「⋯⋯うん、美味いな。流石に人気なだけはある」
気が気じゃない私とは裏腹に楽しそうだ。
「ありがとな、返すわ。あと俺の方も一口食べて良いぞ?」
そう言いながら、抹茶パフェとほうじ茶パフェの二つが私の前に並んだ。勿論片方にはまだ手がつけられていない。
「ああ⋯⋯なるほど⋯⋯じゃあ一口だけ」
まだ口を付けていない状態なら、関節キスなんて事も起きないからセーフだろう。最初から彼はそのつもりだったんだ。
「⋯⋯うん、ほうじ茶パフェも美味しいよ、ありがと」
そうと分かれば、気の疲れも随分とマシになった。⋯⋯と思い込む。
「ほうじ茶パフェの方が流石に甘さ控えめだな、けど美味い」
そう言いながら自分の分を脇阪くんは食べているけれど、私が一口食べさせて貰ったパフェは、ほうじ茶というには随分と甘く感じて、自分のパフェのほうが、余程甘さが抑えてある様に感じた。
(⋯⋯確かに一口目なら、マシだろうけど)
それでも、カップルがするような事だって事は変わらない。それが私には少し恥ずかしくて、火照った体を冷やすにはパフェのアイスがピッタリだった。




