並ぶ時間も悪くない
「中々良かったな」
「中々って事は、100点ではなかったんだ」
「原作にあった名シーンがなくなってた。なので90点!」
感想を言い合いながら映画館を出ると、外は昼の明るさを保っていた。携帯を見ると、まだ十二時を少し回ったところだ。
「んじゃ、悪いんだけどちょっと付き合ってくれ」
「行ってみたいカフェがあるんだよね?」
二人で歩いて駅まで戻る。向かっているお店は、駅中にあるようだった。
「都会は便利だよな、ある程度の事は駅の周りで済む」
確かに、私達の地元では考えられない事だ。歩いて行ける距離に遊ぶ場所なんてほとんどないし、電車だって三十分に一本あれば良い方だろう。
「そうだね、でも住むなら都会じゃなくて地元かな」
賑やかな雰囲気も好きだけど、住むならもう少し落ち着いた場所の方がありがたいと思う。
「そうだな、俺もここに住みたいとは思わないな。⋯⋯っと、着いた、ここだな」
そうして、お目当ての場所に辿り着いたんだけど⋯⋯
「あー⋯⋯どうするか、これ」
お店の前には、結構な人数が座って待っている。
「結構並んでるね」
整理券を取って、時間になったら呼ばれるタイプなので、他で時間を潰す事になるだろうか。
「よし、帰るか」
⋯⋯第一声がそれなの?少しは我慢してみない?
「せっかくここまで来たんだし、待とうよ」
自分が行ってみたいと言っていたお店なのだ、少しくらい待ってみても良いと思うんだけどな。
「まぁそうだな。前田さんが良いなら待つか」
そう言いながら、整理券を発券するため、人数を入力していく。その様子を見て、内心ほっと胸をなで下ろす。私がいたせいで、彼がしたい事が出来なくなるのは、心苦しいから。
「ありがとな、助かったよ」
そう思っていたのに、脇阪くんから出るのは感謝の言葉だった。
「私、何もしてないけど?」
「いや、俺一人だったら多分帰ってる。待つの苦手なんだよ」
それは、なんとなく分かる気がする。脇阪くんは自分では、面倒事を嫌うタイプだと思っている。人の事になると、面倒でも色々助けてくれるのにね。
「映画館で並ばなかった分、ここで時間使っても大丈夫だよ」
「確かに、あそこで立って並ぶよりかは随分良心的だな」
苦笑しながら、整理券を取って待つための椅子に座る。整理券の番号を見るに、呼ばれるのは12番目くらいだろうか。
「というか逆に聞きたいんだけど、なんでみんなして当日チケット買いに並ぶんだ?面倒だし取れなかった時最悪だろ」
それは、確かにそうだ。並ぶまでは良くても、最終的に売り切れてたら困る。
「うーん⋯⋯カップルなら、並ぶのも楽しい、みたいな事があるのかもね」
「俺なら気まずくてやってられないね」
そう言いながら脇阪くんが見る先には、明らかに険呑な雰囲気で並んでいる無言の男女。⋯⋯まぁ、そういう人達もいるよね。
「そうかなぁ⋯⋯私は脇阪くんとなら、気まずくないと思うけど」
だけど、それは少なくとも、私には当てはまらないと思う。今だって待ち時間だけど、この時間がどれだけ続いたって、困ったりはしないだろう。
「⋯⋯⋯はぁ」
脇阪くんが大きな溜息をついている。体調が悪いのだろうか。
「大丈夫?疲れてるなら寝てても良いから」
「疲れてない。誰かさんの考えなしの発言に頭が痛いだけ」
「⋯⋯?」
誰かさん、というのは私の事だろうけど、可笑しい所はあっただろうか?本当の事を言っただけなんだけどな。
「じゃあお前は、俺となら何でも楽しいのか?」
なんだか皮肉めいた言い方に聞こえる。何故か拗ねてる様にも見えるし、実際皮肉なのかな?
「何でもって事はないと思うけど⋯⋯内容によるだろ?って、誰かさんが言ってた気がするし」
思った事を素直に話したら、彼は面を食らった顔をしていた。
「⋯⋯余計な事を覚えてるな」
「余計な事なんかじゃないけど?」
私にとって、彼との会話が余計に感じた事なんてないんだけれど。
「勉強は得意じゃないけどさ、私、脇阪くんとの思い出なら、脇阪くんより覚えてる自信あるよ?」
この記憶力を勉強に生かせたら良いのに、なんで勉強内容は覚えられないんだろう?
「……無自覚なのが一番厄介だな」
そんな事を考えていたら、ぼそり、と小声で何か呟いた言葉は、聞き取れなかった。
「じゃあどうせやる事ないんだし、俺とのエピソードでも教えてもらおうか」
「いいよ、じゃあ小さい頃に私がうたた寝したら黙って毛布かけてくれた所から⋯⋯」
「おい!?それお前ほぼ寝てるだろ!」
「脇阪くんのお母さんから聞いた話」
「いらん話をするなよあの馬鹿親⋯⋯!」
そうして時間は過ぎていく。30分もしたら席に呼ばれたけど、昔話をするには、ちっとも時間が足りなかった。




