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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
近いようで、遠い距離

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51/59

楽しいかは内容次第

「そういえば、なんで急に燻製なんてやろうとおもったの?」

 食後に洗った皿を布巾で拭いて、棚に戻しながら、何気なく聞いてみる。


「別に、急ってわけじゃないけどな」

 脇阪くんが少し考える仕草をしてから、さらりと答える。


「先々週の金曜、テレビで映画やってただろ?」

「映画?」

 そういえばやっていたかもしれない。アニメ映画だったと思う。昔の映画ではあるが、人気作のため何度もテレビで放映されている。


「有名だろ?ベーコン食べるシーン」

 確かに映画の中で、子供がベーコンエッグを頬張るシーンがあったかもしれない。

 

「めちゃくちゃ美味そうだった」

 話している脇阪くんは少しだけ目が輝いているように見えた。子供っぽい表情を見せた事に少し驚く。


「⋯⋯理由それだけ?」

「それ以外に理由が必要か?俺は料理部だぞ?」

 本当にそれだけらしい。凝り性な彼からすると、理由なんてそんな物で良いのかもしれない。


「影響されやすいね」

「否定はしない」

 スポンジに泡を立てながら、脇阪くんは苦笑する。


「それに、普通は憧れても、一からは作らないと思うよ?」

「いや、まさかここまで手がかかるとは思わなかった」

 カラカラと笑う脇阪くんは、大変だったと言うが、一種の達成感があったのか、嬉しそうな表情たった。


「ベーコン作るのって、一週間以上かかるんだな。塩漬けして、水抜いて、乾燥させて……」

「一週間……」

 そこまで手が込んでいる物を、惜しげもなく私にも食べさせて良いんだろうか。


「まあ、料理ってそんなもんだよ。時間かけると、そのままで食うのとは別物になるよな」

 向こうは全く気にも止めていないようだし、気にしない事にしとこう。


「美味しかったよ、ありがとう」

 代わりに感謝だけを伝えておく。


「美味かったんなら良かったよ。お礼なら映画にしといてくれ。今回作る理由はそこだったしな」

 機嫌よく脇阪くんが軽口を放つ。


「映画か……」

 その言葉を聞いて、ぽつりと言葉が漏れる。


「脇阪くんって、映画は家で見る派?」

「いや、出来れば映画館かな」

 そうなんだ。私は案外どっちでも良い派なんだけど。


「音も画面も、あの迫力は家じゃ出せないだろ」

「……そうだね、それはそうかも」

 その話にも納得は出来る。確かに良い映画館で観る映画は、値段に見合った体験が出来ると思う。


 映画館。暗い空間。並んだ席。琴音の声が、ふっと蘇る。

『映画館デート!良いよねぇ……』

 ⋯⋯これは、ただの確認だ、話題がそっちに向かったから聞くだけだ。

「……脇阪くんはさ」


 別に、深い意味はない。本当に、何となく。

「ん?」

「私と映画行ったら、楽しいと思う?」

 聞いた。


「⋯⋯そうだなぁ⋯⋯」

 悩む素振りを見せる彼を見て、余計な事を聞いてしまった、と沈黙の中で後悔する。

 時間にしては数秒だったろう、蛇口からの水音だけが響く。ほんの一瞬の時間が、不思議と長く感じた。水で濡れただけの手が、不思議と汗ばんで感じる。


 脇阪くんは少しだけ考えてから、

「映画の内容によるんじゃないか?」

 と、いつもの調子で言った。


「趣味合わなかったら、つまんないだろ」

「……そっか」

 彼ならそう言うだろう。分かりきっていた答えに安心する。でも、ほんの少しだけ、胸に引っかかるものが感じた。


(⋯⋯何期待してるんだろう、私は)

 もし、彼が「一緒観れたら嬉しい」なんて答えても、困るくせに。少し残念だと思ってしまった。そんな感情は知られたくない。彼に顔を見られないように、タオルで水気を拭く。


「前田さんはどんな映画が好きなんだ?」

「⋯⋯え?」

 そんな時、彼から発せられた言葉は、意外な一言だった。軽い質問から、まさかあんな風に話が続くなんて、思ってもみなかったんだ。


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