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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
近いようで、遠い距離

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打ち上げは盛大に

「えー、それでは!無事に文化祭も終わり、売り上げ一位も獲得出来たということで、乾杯の音頭を取らせていただきます!」


 文化祭が終わり、後夜祭での公表で、私達のクラスは二位と大差で売り上げ一位を獲得した。そのお金で今日は打ち上げだ。


「脇阪くんが!」

「⋯⋯はぁ?俺?」

 脇阪くんは急に話を振られて、あからさまに不機嫌な表情になっている。


「脇阪のおかげで一位取れたんだから、主役として頑張れよ」

「功労者を労るつもりでほっといて欲しいんだけど⋯⋯」

 そう言いながらもすぐに立ち上がる。結局、頼まれたら断われない彼の姿を見て苦笑する。


「えー⋯⋯そうだな、利益が結構出たって事で、こうしてみんなで焼肉に来れた事は嬉しく思う」

 全体に聞こえるほどの声量で話しているのを見ると、本当に人前が苦手な人なのか、少し分からなくなる。


「だが、俺は思うんだ!汗水垂らして稼いだ金よりも!人に奢って貰った肉の方が美味いと!」

 ⋯⋯なんか雲行きが怪しい気がする。


「差額は先生が出すらしい!一番高いコース頼むぞお前等!」

「「「うぉぉぉぉ!」」」

「ちょっ、脇阪!?勝手に決めるな!」

 ⋯⋯やっぱり、こういう所で、脇阪くんは脇阪くんなんだと思った。今回については悪い意味で。


「今日は俺が主役なんでしょ?俺の言う事は絶対だ!」

「牛タン食おうぜ脇阪!」

「よっしゃ頼め頼め!食べ放題だぞ食わなきゃ損だ!」

「ワッキー!焼肉は上手く焼けるのかよ?」

「焼き方なんか知らん!牛肉なんて色変わりゃ食えるわ!」

 嫌そうな顔から一変して、クラスの中心で騒ぎ立てている。傍目から見れば楽しそうに見えるだろう。


(⋯⋯無理してるなぁ)

 だけど、私から見れば、静かな時間を好んでいる彼が、空気を壊さないように努力しているように見えた。


「あっち、盛り上がってんねぇ」

 そう言いながら、友人の森下琴音(もりしたことね)が飲み物を持ってテーブルに帰ってくる。


「そうだね、流石に近寄れないよ」

 あの場に混じって盛り上がれるほど、私の胆力は強くないだろう。


「近寄れないって、誰に近寄りたかったのか詳しく」

 ⋯⋯友人としては好きなんだけど、正直色恋沙汰が好きな所だけは直してほしいな。


「琴音。しつこすぎると怒るよ?」

「おー怖い怖い。でも怒っても可愛いから問題ないね」

 私がどれだけ注意しても、カラカラと笑って流してしまう。その軽さが、誰かに似ている気がする。


「でもさぁ、真面目な話、脇阪くんの事、夏希はどう思ってんのさ」

 目の前でお肉を焼きながら、琴音がそう聞いてくる。


「どうって言われても⋯⋯仲良くはしてもらってるよ?」

 放課後の食事会については、私と彼だけの秘密だ。それを除いたとしても、今ではクラスでも程々に話す方だろう。


「じゃあ友達だと思うの?」

 友達?⋯⋯そう言われれば、そうなのかもしれない。

「どうだろ?本人に聞いてみないと分かんないかな」

 だけど、どうもしっくりこない。やはり「幼馴染」という言葉が一番当てはまるとは思う。


「ただの友達と、文化祭回るの?男女が?」

「うーん⋯⋯成り行きでそうなっただけって所もあるし」

 はっきり言って、今回文化祭を一緒に回る事になったのは、私を助けてくれるためだったのだ。

 私は妙に緊張して眠れなかったのも事実だけど、脇阪くんの方はまるで意識してなかったみたいだし、今回のこれは、結局デートなんかじゃなかったんだろう。



「⋯⋯仕方ない!言うか悩んだんだけど、私が夏希に発破をかけてあげよう!」

 私の返答に痺れを切らしたのか、琴音は何やら大きな発表をするみたいだ。


「そっか頑張ってね。あ、お肉焼けてるよ?」

 大体の場合は、大した話じゃない事が多いので話半分に聞き流している。


「脇阪くん、どうやら他の女の子と仲が良いらしいんだよね」

 ⋯⋯一瞬、思考が止まる。その情報は初めて聞いた。けれど、納得は出来る。脇阪くんならそういう相手もいるだろう。


「⋯⋯へぇ、そう、なんだ」

 だというのに、不思議と歯切れの悪い返答になってしまった。急な話に頭が追いつかないんだろうか?


「どんな子なの?私の知ってる子かな?」

「お?知りたいんですか夏希さん?」

 動揺を隠しながら、一応の確認をする。別に深い意味なんてない。ただ、悪い女の人に引っかかってないか心配なだけだ。


「私も情報は少ないんだけどね?同い年の幼馴染らしい」

 ⋯⋯幼馴染か、私以外にも、そういう子がいたんだ。私だけじゃ、なかったんだ。


「その幼馴染の弟とも仲良さそうでさぁ、つまり家族公認ってやつだよね、あれは」

 その現実が、妙に私の心をざわつかせ⋯⋯弟?


「琴音、確認しときたいんだけど、その弟って文化祭に来てた子?」

「そうそう!夏希も覚えてたんだ!⋯⋯どうしたの?」


「⋯⋯なんでもない。お肉食べよっか」

 琴音の返答を聞いてその場に突っ伏す。その幼馴染、私じゃないか。

 自身の感情に異様に振り回され、無駄に消費した疲れを、焼肉によって回復させるのだった。



「まぁそういうわけですよ夏希さん!脇阪くんに聞いたら、『嫌いじゃない』って言ってたし、追い抜かされちゃうかもよ?」

「嫌いじゃないって言ってたんだ」

「? そうそう、でもあの反応はそれ以上だと私は睨むね」

 琴音は楽しそうにそう言うけれど、私は曖昧に笑う事しか出来なかった。

 “嫌いじゃない”なんて、前に私にも言ったけど、彼らしい言い方だと思う。


「まぁ、個人的には幼馴染なんて負けヒロインポジションの人に、夏希が負けるとは思えないけどね!」

 ⋯⋯琴音の続く言葉が、少しだけ胸に刺さった。


「⋯⋯やっぱり、幼馴染って勝てない事多いよね」

「そうそう!どんだけ相手の事知ってても、最後に勝つのはメインヒロインよ!」

 琴音は豪快に笑っている。彼女は気づいていない。その言葉が、実は全部私の事だと言う事実に。


 幼馴染。

 恋愛物なら、いつも隣にいる存在。

 それだけで終わってしまう、便利で安全な位置の人。


「じゃあ、私はメインヒロインにはなれないかな?」

「何言ってんの!?夏希がなれなかったら誰ならなれんのよ!」

 理由は教えてあげない。だけど、全部琴音が言った通りだよ?私は何があっても、彼の幼馴染なのだ。

 私が彼の幼馴染だってバレたとしたら、彼女はどんな顔をするのか、それだけは少し楽しみだった。

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