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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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祭りの終わり

『以上をもちまして、今回の文化祭の全てのスケジュールは終了となります』

 夕方に差しかかり、教室で後片付けを行っている最中にアナウンスが流れる。


「終わったー!」

 大きな声で誰かが放った一声で、長かった一日が、ようやく終わったのだと実感する。

 俺達一年の教室では、机を片付けながら、疲れ切った声と笑い声が入り混じっていた。


『なお、一時間後に今回の売り上げの公表と、後夜祭を始めます。任意ではありますが、どうぞご参加下さい』

 続けて後夜祭のアナウンス。講堂の方ではバンド演奏、グラウンドでは花火等をやるらしい。中学の時は無かったな。


「売り上げの公表だってよ!うちら良いとこまで行くでしょ!」

「ていうか、一位狙えるでしょ!ねぇ脇阪くん!」


「そうだな、まぁチャンスはあるんじゃないか?ちゃんと売り切れたし」

 結局の所、二日目も和風喫茶の品はしっかりと売り切れた。スープは少し残ったが、初日よりは多めにした筈の具材の方が底を尽いたのだ。


「企画者なんだから、勿論、後夜祭来るよな?」

 企画者って言われてもな。実際の所、和風喫茶が形を成したのは、クラスメイトが頑張ったからだ。裏方の俺は基本料理してただけなんだが⋯⋯

 

「考えとくよ、とりあえず休ませてくれ」

 それに後夜祭とか、疲れそうな行事への参加は他の奴に任せたい。


「分かった!じゃあ後でな!」

 そう言い放ち、学生らしくテンションが高い奴らは、先にグラウンドへと飛び出していった。⋯⋯まだ外に行った所で何もしてないだろ。


「⋯⋯さてと、家庭科室でも向かうか」

 片付けも一段落し、教室でやれる事はある程度終えた。後夜祭に参加するにしても、まだ一時間もあるのだ。わざわざグラウンドや講堂に赴く理由はない。

 家庭科室に入ると、誰もいない室内に逆に安心する。賑やかな所も嫌いではないんだが、この空気感が俺は好きなんだと実感する。置かれているのは少し残ったスープの鍋だけだ。


「⋯⋯作るか」

 腹も減ったので、何気なしに冷蔵庫を開ける。中にはスープが余った時に、作ってみようと思い買っておいた、豚ミンチと豆腐がある。


(分量は、適当で良いか)

 いつもならある程度の分量は測るのだが、疲れているのである程度省略する。

 ミンチを炒め、豆板醤と甜麺醤で味を付けてから、鶏ガラスープと豆腐をフライパンにぶち込む。本来なら豆腐も下茹でするのだが、それも省略。型崩れしようが味は同じだろう。


「あ、やっぱりここにいた」

 調理を進めていると扉が開き、家庭科室に夏希が入ってきた。


「脇阪くん。後夜祭、始まっちゃうよ?」

 そう言いながら、いつもの定位置にストン、と座る。夏希まで俺に後夜祭に参加しろというのか?


「なんだよ?後夜祭は自由参加だろ?」

 フライパンを揺らしながら、夏希の問いに答える。


「私達のクラスの売り上げが良さそうだって、みんな盛り上がってる。功労者がいないと始まらないって脇阪くんの事探してる」

 企画者の次は功労者ときたか。随分と大袈裟な言い方だ。まぁ悪い気はしないが。


「そりゃ嬉しい話だな。景品あるなら貰っといてくれ」

「行かないの?」

「俺がそういうの行くと思うか?」

 夏希なら分かるだろ、俺がそういうの得意じゃないって事くらい。


「そうだね⋯⋯あんまりイメージないかも」

 夏希が小さく笑う。否定でも肯定でもない声色が妙に落ち着く。


「じゃあ、私も行かない」

 その返答に、少しだけ手が止まる。


「俺に付き合う必要ないだろ」

「ここにいるのが迷惑だったら、行ってくるけど」

 ⋯⋯迷惑なんて思うわけがないだろ。だなんて、言える気がしない。


「お前、段々ずる賢くなってないか?」

「そうかな?⋯⋯そうかも」

 自覚あるのかよ。厄介だな。これから先も、夏希に振り回される時が来るかもしれないな。


「⋯⋯ねぇ脇阪くん。今日一緒に文化祭、回ったのって⋯⋯」

 少しの沈黙の後、夏希が俺に話しかけてきたが、聞きにくい事なのか言葉が途中で止まる。


「⋯⋯なんでもない。今日楽しかった?」

 逡巡した後、夏希が俺にそう語りかける。⋯⋯夏希が何を考えていたのか、なんとなくは分かる。

 だが、それを確認出来るほど、俺も夏希にも勇気がなかった。


「おかげさまで、楽しかったよ」

 気を取り直して、楽しかったか?という夏希の問いに本音で返す。色々と問題もあったが、それを差し引いても、今日という日は充実した物だったろう。


「そっか、私も、楽しかった」

 夏希からの言葉を聞いて、少し胸が緩むのを感じる。彼女が俺と同じ感情を抱いてくれた事が、少しだけ嬉しかった。


「んじゃ、これは今日の感謝の気持ちな」

 フライパンから皿に移し、夏希の前に今作った料理を置く。


「⋯⋯美味しそう」

「スープが余ってたからな。マーボー豆腐が作ってみたかったんだよ」

 本来は水を入れて作る所を、鶏ガラスープにすると美味いらしい。それをしてみたかったのだ。


「抜け目ないなぁ」

 笑い混じりの声に、嫌味は一つも感じない。


(⋯⋯楽だな、こいつといるのは)

 だからこそ、こうして一緒に食事が食べられる。文化祭の喧騒で忘れていた距離が、再び戻っていくのを感じた。


「⋯⋯ちょっと辛いね」

「お子様舌か?この辛さが美味いんだよ」

「そんな事言うなら、脇阪くんは飲み物飲まなくて良いよね?」

「俺は自分がお子様舌だって認めてるから、飲んで良いんだよ」

 明日からはまた、同じ距離に戻るだろう。またこの場で、何の気兼ねもなく、笑いながら食事をとる。それは魅力的な話だ。


「⋯⋯これ食ったら行くか、後夜祭」

 だけど、今日までは、この文化祭の熱に当てられても構わないだろう。


「行くの?無理しなくても良いと思うけど」

「前田さんがここに来なかったら、行かなかったかもな」

 冗談めかして言うが、本当の事だ。夏希と一緒じゃなければ、俺は行かなかっただろう。


「二日間、ちゃんと付き合ってくれたお礼だよ。後夜祭行きたいなら、俺も付き合うよ」

「そういう事なら、私に付き合ってもらおうかな?」

 食事を終えたら、二人で一緒に講堂へと向かおう。周りからどれだけ茶化されたとしても、今日は彼女と共にいよう。


(⋯⋯この気持ちは、結局なんなんだろうな)


 ――夏希とは昔からの幼馴染。彼女の事は誰よりも知っている筈なのに、それ以上に、今までずっと一緒だったのに、何も進展しなかったという現実が、一つの感情を抑えこんでしまっている。


「一緒に行ってくれますか?夏希さん?」

 こうやって、軽口にしなければ、未だに名前すら呼べない。

「⋯⋯うん。それじゃ行こっか、ゆうくん」

 彼が彼女に対しての自分の気持ちに気付くのは、まだ先の事だった。

第二章終了です。長い二日間だった!

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