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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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尾行を撒く方法

 気のせい、というには少しだけはっきりしすぎていた。

 壁の向こうに隠れるようにして消えた、人影。


「……どうかした?」

 夏希が、ストローから口を離してこちらを見る。


「いや、なんでもない」

 本当に、なんでもないはずだ。

 文化祭の廊下は相変わらず人で溢れていて、さっきまで誰かがいたとしても不思議じゃない。教師でも、生徒でも、たまたま通りかかっただけの可能性がもある。


 人影として見えたのは、二人。一人は生徒として扱うには体格が大きく見えたので、教師である可能性が高いだろう。

(まあ、なんとなく察しは付いてるんだけどな⋯⋯)

 残りのデスソースたこ焼きを、別の二年生から新しく購入したドリンクで流し込みながら、思案を続ける。


 付けられている理由も、相手も察しはつく。だが、確証は欲しかった。

 そう思い携帯を開いて、一つの連絡先の通話ボタンを押す。俺の予想が正しければ⋯⋯


「〜♪」

 丁度人影が隠れた位置あたりで、軽快な着信音が鳴り響いた。⋯⋯やっぱりか。


「ぎゃ!?誰よこんな良いタイミングで電話かけてくるの!」

「森下!なんでマナーモードにしておかない!スニーキングスキルが足らんぞ!」

 俺達を尾行していた人物。その名は『森下琴音』と担任教師。ラブコメ厨共である。


(何してんだよ⋯⋯)

 いやまぁ、あの二人がやっている事なんて容易に想像がつくんだが。⋯⋯これ訴えたら俺勝てるよな?


(さて、どうするか⋯⋯)

 夏希とここで別れる、というのも選択肢には挙がるが、それはそれで負けた気分になる。

 だからといって、このまま付いて来られるのも鬱陶しい。というかシンプルに教室に戻って仕事して欲しいのだが。


 なら、どうするか。ある程度の選択肢の中から選ばれたのは。

「⋯⋯撒くか」

 追いつかれないように、走って撒くという案。力技だが、ここから大回りしながら走り抜ければ、恐らく追いつかれないだろうし、失敗した時はした時で、追いついてきた所を捕まえれば良いだろう。


「前田さん、一旦人気のない所に行こう」

「ど、どうしてかな!?」

 どうしてと言われても、この人混みの中じゃ上手く走れないんだよ。


「後ろ、森下達に尾行されてる」

「⋯⋯あー⋯⋯うん。大体分かった」

 夏希側からも確認出来たようで、二人の奇行に呆れた様子だった。


「私と脇阪くんの何が面白いんだろうね?」

「さあな、楽しみが少ない人生なんだろ」

 夏希はカプ厨達の生態を理解出来ていないようだった。個人的には色恋沙汰が好きなのは分からなくもないが、現実でやってほしくはないな。


「さてと⋯⋯前田さん、俺友達と約束してて、今から演劇見に行くんだよ」

 ある程度開けた場所に出たので、一応の説明をしておく。


「そっか、それは私も付いていっても良いやつ?」

「別に付いて来ても良いけど、その場合は後ろの奴らを撒いてくれ」

 人も少なくなり、隠れる場所も少ないというのに、カプ厨達はカサカサと後ろを付いてきている。


「別に、ちょっと怒れば反省すると思うけど」

「それは後で良いだろ。今は時間がない」

 このまま森下達の方にいき、二人を叱るのは簡単だ。だがそれは時間のロスを意味する。後でみっちりと叱れば良いだろう。


「そんなくだらない事で、時間使うの勿体ないだろ」

「そう、だね。折角の文化祭だもんね」

 勿体ない、という言葉を聞いた夏希はどこか嬉しそうに返事をする。


「脇阪くんの方が心配だけど?ちゃんと走れる?」

 ほう?舐められたもんだな。これでも昔は夏希よりも速かったんだぞ?

 それにしても、夏希から煽られるとは思っていなかったな、随分と機嫌が良さそうだ。


「なんで嬉しそうなんだ?」

 疑問を素直に投げかけてみる。

「なんだろ?言葉にするの、難しいけど」

 トントン、と足の調子を確かめながら、夏希が答える。


「脇阪くんが、私との時間、大切にしてくれたからかな?」

 その返答には、少し心を揺さぶられるのであった。


「⋯⋯日本語って難しいのな」

 もう少し違う言い方あるだろ。こいつわざとやってないか?


「気を取り直して、講堂まで競争な。ちゃんと撒いてくれよ?」

「私の方が早く着いたら、何か奢ってくれる?」

「良いぞ、肉まんでもアイスでも、なんでも奢ってやるよ!」


 そう言い放ちながら、計画通り二手に別れて講堂を目指す。

「うわっ!別れたよ先生!どっち追おうか!?」

「悩むな森下!直ぐに見えなくなるぞ!」


 全速力で駆ける。久しく行っていなかったが、やはり爽快感があるものだ。チラリと後ろを確認すると、撒くことには成功したようで、隠れたような人影が見当たらなかった。


(それじゃ、このまま走って向かうか)

 このまま走ったその先で、夏希と待ちあわせている。その現実は、なんとも足取りを軽くさせた。



「なんで⋯⋯そんな早いんだよ⋯⋯」

「やっぱり抜け道あるの、知らなかったんだ。約束だから今度何か奢ってね?」

 二人を撒いて向かった先に、悠々と髪を纏めている夏希を見つけて、その差が、思っていたよりも少しだけ悔しかったのは、また別の話だ。


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