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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第一章、切れてるようで、繋がっている関係

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脇阪悠斗は優等生(?)

朝の空気が少し冷たく感じる10月。


 「行ってらっしゃい!」と快活に手を振る母親に見送られ、今日も脇阪悠斗はいつも通りの時間に登校する。


 仕事で疲れている筈の母は、俺のためにと弁当だけは絶対に作ってくれた。

「別に無理しなくて良いって言ってるんだけどなぁ……」

 そう思っていたのだが、親の好意に素直に甘える事にした。……誰もが親の愛情を受け続ける事は、出来ないと知ったから。


 


 校門が見えてくると、少しだけ億劫になってくる。今日は平穏な1日になるのだろうか。


「ようワッキー!今日も元気なさそうだな!」

 教室の自分の席に座ると、クラスメイトが声をかけてきた。


「おはよう、悪かったなやる気なさそうで」

 冗談混じりでの会話、別段友人という程でも無いが、席が近いので普通に話はする。

 

「で?本題は?」

 こいつが朝話しかけてきた理由も検討がついている。

「宿題やるの忘れた!ノート写さして!」

 溜め息が出かける。何故勉学を疎かにするのか理解出来ない。


「今度からお前の事馬鹿1号って呼ぶわ」

「馬鹿1号で良いからノート貸してよワッキーくーん」

 今度は本当に溜め息が出た。馬鹿1号に仕方なくノートを貸してやる。


 ちなみに馬鹿1号くんは授業中に丸写ししただけの宿題内容を答えられずに撃沈した。



 脇阪悠斗は、基本的に成績がいい。


 自慢するほどではないが、提出物は期限を守るし、テストでも大崩れしない。

 先生から見れば、「手のかからない生徒」の部類だ。


 「脇阪くん、その……悪いんだけどさ」


 休み時間、クラスの女子に呼び止められる。


「これ、ちょっと運ぶの手伝ってくれない?」


 差し出されたのは、プリントの束だった。クラス用の配布資料を集めて、教師に渡しに行くところらしい。


「……俺?」


 「何で?」と声に出す寸前で止める。周囲を見渡しても、なるほど皆好き勝手に騒いでいる。1番暇そうにしている様に見えたのだろう。


「や、やっぱり良いや!私一人で……」

「良いよ、運ぶ」


 断らない。

 というより、断れない。


 自分でも分かっている。

 こういう役回りを押し付けられやすい顔をしていることも。


「え!?全部は良いよ!半分だけ持ってくれれば……」

 最後まで話を聞くこともなく、仏頂面のまま資料を受け取り、職員室に向かうのだった。


 


「あ……脇阪くん、ごめんね!ありがとう!」


 資料を担当の教師に渡して戻ると、クラスメイトから礼を言われる。


「助かったよ、ほんと」


「……どういたしまして」


 嬉しくないわけじゃない。

 でも、毎回こうだ。

 


 放課後。


 自身の机で教科書を整理していると、教室が少しざわつく。


「えー、今日掃除当番いないの?」


「委員会で呼ばれてるらしいよ」


 黒板の前で、数人が困った顔をしている。


 ……面倒だ。やるメリットなんてない。



「誰か代わりにやってくんないか?」

「えー?でも部活動あるし」

 溜め息が出る。他人に対しても自分に対しても、だ。椅子から立ち上がり、黒板前に集まっている連中に近づく。


「俺がやっとくよ」

「え?いやでも……」

 五月蝿い奴らだ。少しイラッとする。自分がやろうと言えない癖に、他人に押し付ける勇気も出せんのか。


「すぐ終わるから、みんな忙しいんだろ?俺1人でやっとくよ」

 そう言うと、クラスメイトは多少の逡巡をしてから教室から出ていく。



「何やってんだか、馬鹿だろ俺」

 黒板を掃除しながら文句を言うが、手は止まらない。性格上の話なのだ、他人が面倒と思う事を断れないし、頼めない。昔からだ。


その時だった。


「……脇阪くん」


 後ろから、控えめな声がした。


 振り返ると、前田夏希が立っていた。

 鞄を肩にかけたまま、少しだけ困ったような顔をしている。


「……部活じゃなかったのか」


「その、掃除……一人でやってるって聞いて」


 誰から聞いたんだよ、と思いながらも、言葉にはしなかった。


「別に、すぐ終わるから」


「でも」


 夏希は一歩、教室の中に入ってくる。

 箒が立てかけてあるのを見て、少しだけ視線を落とした。


「私も……手伝う」


「……いいって」


 反射的に言った。


 理由は、自分でもよく分からない。

 一人の方が気楽だからか、迷惑をかけたくないからか。


 それでも。


「私、まだ時間あるし」


 そう言って、夏希は箒を手に取った。

 拒否される前提じゃない声音だった。


 

 結局、二人で掃除をすることになった。


 夏希は無言で床を掃く。動きが無駄にきれいだった。



「……昔も、こんな事あったよね」


 夏希が唐突にそんな事を口にする。


「え?」

「いや、中学校の時。掃除当番サボった人の代わり」


 一瞬考えてから、思い出す。変わらない自分の行動がおかしくて小さく笑った。


「脇阪くん、文句言いながら全部やってた」


「……覚えてるから言うな」

「言う」


 即答だった。


「私は見てるよ、脇阪くんの優しい所」

「……そりゃどうも」


 いつもよりもはっきりと意思を持った夏希の言葉を聞いて、胸の奥が、少しだけざわついた。

 気まずさで顔を背ける。教室は、もうすっかり静かだ。

 窓の外は夕焼けに染まり始めている。


 

 ――変わってない。


 そう思う。


 嫌そうな顔で、結局全部やる。

 昔も、今も。



 違うのは。


 隣に、夏希がいることだけだった。

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