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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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幼馴染の弟のお願い

「先輩、これ美味いよ!やるじゃん先輩のクラス」

 そう言いながら、晴は夏希が提供した料理を勢いよく頬張る。クラスメイトは少しずつ増えてきた客の方に対応してくれている。


(美味そうに食うなぁ、こいつ)

 近くで自分の料理を食べている人を見るのは、夏希と家族以外では初めてだが、こんだけ食いっぷりが良いと嬉しくなるな。


「そりゃ嬉しいね、料理人冥利に尽きるってもんだ」

「え?これ先輩が作ったの?」

 スープを飲み干し、お茶菓子に手を伸ばした晴の手が止まる。


「まぁ、一応料理部だからな」

「すげぇ⋯⋯先輩って何なら出来ないの?」

 人を完璧超人みたいに言うんじゃない。出来ない事の方が多いわ。咄嗟に思い付くだけでも⋯⋯


「料理以外の家事全般出来ないな」

 掃除なんてもっての他だ。というか料理の後の洗い物すら面倒でやりたくない。


「そんなの俺も出来ないよ。やっぱ凄いよなぁ先輩。勉強も出来て、料理も出来て、足も速くて⋯⋯」

 尊敬してくれるのは嬉しいんだが、そこまで慕ってくれるのもどうなんだ?盲目になってる気がするぞ。


「⋯⋯先輩って、もう陸上やらないの?」

 少し間を置いてから、晴がそう聞いてくる。聞いて良い事なのか、少し悩んだんだろう。


 それにしても、陸上か⋯⋯

「どうだろうな、機会があればやる事あるかもな」

「辞めたわけじゃないの!?」

 随分と驚かれる。それもそうか、料理部に入ってる時点で、陸上には見切りをつけたと思われていたんだろう。


「まぁ中学の時程やる気は出ないけど、晴に誘われたら出場くらいはするかもな」

 だが、別に走る事そのものは嫌いというわけじゃない。もし本当に同じ高校になれるようなら、考えてやっても良いだろう。


「じゃあ俺、頑張るよ!この高校に入れたら、先輩の事誘うからね!」

 それ普通は逆だろ、と思い笑ってしまう。だけどそれは少し、魅力的だと思った。


「じゃあ兼部って形になるな、俺、今は料理部辞める気はないから」

「へぇ、そうなんだ。そんなに料理好きなんだ」

「家で料理作るのが面倒だってだけだよ」

 後で話す事になっても面倒なので、手短に自分の事情も話しておく。親が家を空けてる事が多い、くらいのニュアンスだ。

 

「ふーん、じゃあ親の勤務が普通に戻ったら、料理しなくて良いんだ」

 それはそうだな。母が完全に日勤になれば、その時は料理部は廃止に⋯⋯

「いや⋯⋯どうだろうな」

 頭の中で夏希の姿がチラつく、彼女の問題が解決しなければ、料理部をなくすなんて事は考えられない。

 だが、俺と夏希の問題が解決して、晴がこの高校に来たとしたら、料理部は廃部になるのかもしれない。


「そうだ!先輩連絡先交換しようよ!俺先輩の持ってないんだよ!」

 考え事をしていると、晴の言葉が思考を遮る。⋯⋯まぁ、先の事は深く考えないようにするか。


 携帯を取り出し、晴と連絡先を交換する。

「必要なら、連絡してきても別に良いぞ」

「必要じゃなかったら駄目なの?」

「冗談だよ、まぁ勉強に困ったら呼んでも良いぞ」

「本当に!?先輩が教えてくれるなら百人力だよ!」

 俺の言葉に一喜一憂する後輩が面白くて笑ってしまう。

 俺も案外、晴とまた走れる日を、楽しみにしているのかもしれない。



「そういや先輩、姉ちゃんの連絡先は知ってんの?」

 連絡先の交換を終えた後、携帯を弄りながら晴が変わった質問をしてくる。夏希の連絡先なんて、そんなもの当たり前に⋯⋯


「いや?必要なかったからな」

 持ってるわけないだろう。


「じゃあ教えてあげよっか?」

 なんて事を言うんだこのガキは、勝手に人の個人情報を晒すな。


「いらんよ、必要になったら自分から聞くから」

「ふーーーん、先輩って必要にならなかったら、連絡先交換しないのか、可哀想な姉ちゃん」

 可哀想って⋯⋯連絡先なんてそんなもんだろ。


「じゃ、俺そろそろ帰るよ先輩。あ、店員さーん!ご馳走様でした!」

「⋯⋯ご来店、ありがとうございました」

 夏希はジト目でこちらの方を一瞥し、他の机の清掃に戻っていった。



「なんか、姉ちゃん昔よりも遠慮なくなってるね」

 晴が席を立ち、教室の出口へ向かっていく。ここまできてら、最後まで見送ってやる事にする。


「そりゃあお前がいるからだろ?」

「それもあるけど、中学の時とか、先輩と姉ちゃんってほとんど話さなかったじゃん」

 思い返すと、確かに晴が間にいた時ですら、夏希とは業務連絡くらいでしか話をしてなかったな。



「なのに今日は随分と先輩の近くまで来てたじゃん。先輩、なんかあったの?」

「なんかあったと言えば、なんかあったな」

 放課後に一緒に食事をとっている、なんて言ったら面倒そうなので内容は伏せておく。


「え、先輩まさか、姉ちゃんと⋯⋯」

「お前が想像してるような事は一つとして無い、とだけ言っておこう」

 結局邪推されるので、隠しても良い事は起きていないかもしれない。


「でもさ、良かったよ、姉ちゃんが案外元気そうで」

 晴は夏希の方を見ながら呟く。その表情は本当に安堵している様子だった。


「先輩は、姉ちゃんの事情知ってるんだよね」

「ある程度はな、安心しろ、誰かに言いふらすような事はしてないぞ」


「知ってるよ、先輩がそんな事する人じゃないって事は。多分、俺が一番知ってる」


 晴がこの手の話に信頼を置いているのは、俺が晴の話を誰にも話していないからだろう。


 晴は確かに夏希の弟ではあるが、別居している父親の方で暮らしている。夏希も父親とは折り合いがつかないようだが、弟とは仲良くやっているようだ。

 だが、奇異の目を避けるために、基本的に夏希の弟である、という事は隠している。かくいう俺も弟だと知ったのは晴が入部して半年経った後だった。


「別に、お前が誰の弟か、なんてどうでも良いってだけだよ」

 流石に、幼馴染に弟がいた事を中学まで知らなかった事には驚いたが。


「そういう所が、カッコいいんだよ先輩は」

 俺も片親がほとんどいない状態なので、少しは晴と夏希の気持ちが分かるというのもあるかもしれない。それがカッコいいとまで言われるのは、些か気恥ずかしいが。


「⋯⋯姉ちゃんさ、前にあった時はかなり塞ぎ込んでたんだよ。だから今日も心配して見に来た所もあったんだ」

 ついこの間までの夏希は、確かに、少し無理をしていただろう。あの頃に比べれば、確かに今は元気になったと言える。


「けど大丈夫そうだね、きっと先輩のおかげだよ」

「俺は何もしてない、あいつが強いだけだよ」

「確かに強いけどさ、なんか折れやすい所もあるんだよ。だから、姉ちゃんの事、支えてあげてよ」

 ⋯⋯支えて貰ってるのは、俺の方も同じなんだけどな。


「善処させてもらうよ」

「ありがと先輩。じゃあそろそろ本当に行くね」

 話も一区切りつき、晴が廊下に一歩踏み出す。


「あ、そういや先輩、俺が前に言った事覚えてる?」

 そのタイミングで、何かを思い出したかのようにこちらに振り向く。その顔は随分とニヤけている。⋯⋯前に言った事?いつの話の事か分からんな。


「先輩と姉ちゃんが結婚してくれたら俺は一番嬉しいって話⋯⋯」

「黙れ小僧」

 最後まで話を聞かずに廊下に放り出して、ピシャリ、と扉を閉めてやった。馬鹿な後輩の扱いなどこんなもんで良いだろう。


「随分楽しそうに話してたね。どんな話してたの?」

 振り返ると、夏希がいつの間にかすぐ近くまで来ていた。なんの話をしていたか、と言われると返答に困るな。


「お姉さんをよろしくお願いします、だってよ」


 冗談めかしてそう返すと、夏希は一瞬だけ、目を丸くした。それから、ふっと視線を逸らす。


「……なにそれ」


 声は軽かったが、どこか、ほんの少しだけ照れたようにも聞こえた。


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