後輩及び、幼馴染の弟
「先輩!久しぶり!元気だった?」
そう言いながら、夏希の弟、中学の時の後輩である前田晴が手を振っている。適当な相槌を済ませて、同じ席につく。
教室は今は少し落ち着いているし、多少は晴の話に付き合っても良いだろう。
「まさか文化祭に来るとは思ってなかったから、驚いたよ」
「上手くいけば、進学するかもしれない高校の文化祭だよ?先輩もいるしそりゃ見に来るって」
晴は受験生なので、確かにここに入る事も考えられるが⋯⋯
「なんだここ受けるのか?お前ってそんな頭良かったっけ?」
この高校は偏差値は高い方だ、晴はあまり賢いイメージはないんだが。
「ひでぇ言い方!とりあえず姉ちゃんよりは頭良いよ!」
「それは比較対象が悪いだろ。あいつそこまで頭は良くない⋯⋯」
ガチャ!っと机の上にお茶が置かれる。
「⋯⋯ごゆっくり、どうぞ」
ジト目の夏希様がお茶を持ってきてくださったらしい。そんな目で見るなよ、事実しか言ってないぞ俺は。
「おー、怖い人がいるんだねぇ。駄目だよ先輩怒らせちゃ」
晴もなんとなくこちらの事情を察しているようで、自ら夏希が姉だと吹聴する真似はしないらしい。というより、晴が夏希の弟だと知っているのは、中学の時でもほんの一握りだった。
「ねえ、さっきから先輩って言ってるけど、脇阪ってなんの部活やってたの?」
夏希の奇行によって話の腰が折れていた所を、近くのクラスメイトが拾ってくれた。
「陸上部ですよ、先輩言ってないの?」
「別に言う必要ないからな」
補足として、中学からの同級生もこの高校にいるのはいるが、そこまでの接点はないし、同じクラスになった事もなかったので、俺が陸上部だと知っている奴は本当にごく一部だ。
「あー、だから脇阪って足速いのか。料理部なんて入ってるから、文系だと思ってたのにな」
「僕らの代じゃ、一番凄かった選手なんですよ」
「おい、盛るな」
凄くはなかっただろう。三年はボロボロの結果だったんだぞ。
「盛ってないよ、短距離も長距離も速かったし、幅跳びとか三段跳びも記録良かったじゃん」
確かに大体の種目はやったが、どれも記録は標準記録は超えなかったんだよ。
「姉ちゃんだってずっとそう言ってたよ?脇阪くんは一番凄いんだって」
夏希が?横目でチラリと夏希の方を見ると、パクパクと口を開ける夏希。何か言い返したい様子だが、ここで晴に口を出すと、姉だということがバレてしまいそうだ。
「へー、じゃあお姉さんも陸上部だったんだ」
晴は周囲と夏希の様子を見て、独りでに納得すると、ニヤリと笑った。
「そーなんですよー!聞いてくれます?姉ってば部活に脇阪先輩が来てないと、いっつも僕に脇阪くんは?って聞いてきて⋯⋯」
夏希が反応出来ない事を良い事に、あること無いこと吹聴しようとしているなコイツ。良い性格してるな。
そう思っていたら、バン!と大きな音を立てて夏希がメニュー表を叩きつけた。
「ご注文、取ります」
「え、いや良いよ。今良いところだから⋯⋯」
「ご注文は!?」
圧倒的な圧を感じる。これが、あの夏希だと?凄いなぁ家族って。
「あ⋯⋯じゃあ水炊きセットで」
「脇阪くん、水炊きセット用意してくる」
注文を取ったかと思いきやすぐさま厨房(?)の方に向かっていく。余計な事を言うな、という圧を振りまきながら。
「こっわ⋯⋯あんなん見たことねぇよ」
安心しろ晴。俺も見たことないから。
「あー⋯⋯ごめんね後輩くん。夏希には面白くない話だったのかも」
話の腰を二度も折られたというのに、別のクラスメイトが話を振ってくれる。良い奴らだな。
「脇阪くんにそんな仲良い女の子がいたって聞いて、嫉妬しちゃったんだよ」
あ、違うわただのカプ厨だわ。なんかニヤニヤしてるもん。
だがしかし、なるほど、夏希視点からすれば、自分の話をある事無いこと吹聴されて激怒しただけなんだが、晴が夏希の弟だとバレていないと、周囲からは夏希が嫉妬したように見えるのか。
「いえいえ、大丈夫ですよ。⋯⋯夏希さんって先輩の彼氏なんですかー!?」
夏希にまで聞こえそうな、わざとらしい大声である。このクソガキやべぇな。ガシャン!と、夏希が向かった厨房側の方で大きな音が聞こえた気がするが、気にしないでおこう。
「えー?どうなんだろ?どうなの脇阪くん?」
周囲までニヤニヤしてやがる。このクラス終わってない?
「んなわけないだろ⋯⋯釣り合わないだろそんなん」
とりあえず一旦否定しておく。それもあまり意味ないだろうけど。
何故こんな流れになったのか分からないが、とりあえず、ここ数日はクラスでネタにされそうだ。




