開店と、嬉しい誤算
――どうしてこうなった?
「またお客さん入って来たよ!ニ名様。セット注文」
「分かった、そっちでスープ用意してくれ、こっちで他準備するから」
慌ただしくも、焦らずに食事を準備する。まだ昼時ではないというのに、何故みんなしてお茶菓子だけでなく水炊きも頼む?
「脇阪くん!もうスープなくなっちゃいそう!」
そんな事を考えていたら、スープの在庫が残り少なくなってしまう。予想しているよりも随分と早い。
「水炊きおかわり希望だってー!」
またか、まさかただの鶏鍋がここまで人気があるとは知らなかった。
「分かった、誰か!家庭科室から追加分とってきてくれ」
話している間にも、別鍋から一人前の具材を取り出し、器に入れる。将来飲食店は絶対しないと心の中で強く決めた。
どうしてこうなった!?
手を止める事なく、頭の中で開店前の情景を思い浮かべる。
――何故に、既に列が出来ている?
夏希に促され、廊下を見れば、そこには長蛇とまでは行かなくても、一度のサイクルでは回らない程度の学生が並んでいた。
「まぁそうなるよなぁ、俺等のクラス結構本気だったし」
接客担当の男子がボソリ、と呟く。確かに周りを見てみると、他のクラスよりも頑張っているのかもしれない。
内装は凝っている方だし、世の中の男子はみんな和服美人が好きなのだと思えば、この行列も納得は出来る。
「とりあえず準備をしよう。カステラか団子か分からんから、両方とも用意しとくぞ」
自分を納得させ、とりあえず並んでいる人数を大体把握し、いつでも茶菓子が提供出来るように準備しておく。流石に朝から水炊きがポンポンと頼まれる事はないだろう。
「初のお客さん、セット注文だって!」
そう思っていたのに、来た客は何故かみんなセットを頼んでいった。
後から聞いた話ではあるが、どうやら俺のクラスが随分本格的な物を作っている、と話題になっていたらしい。
そうして現在に至る。
「脇阪くん、スープだけおかわり出来ないかって」
夏希も必死に接客をしている。忙しそうではあるが声が弾んでいる。案外楽しそうだ。
「いや別に無理ではないけど⋯⋯じゃあ100円で」
「分かった。じゃあメニューに追加しとくね」
そう言いながら、夏希が黒板に「スープおかわり100円」という文字を追加する。
「100円ならもう一回頼んでみる?」
「そうだな、じゃあスープおかわり!」
⋯⋯値段設定を間違えた気がする。100円ならもう少し飲んでみよう、などと思う物好きが結構いるんだな。
「カステラだけ持ち帰り注文かかった!出来る?」
「悪いけどそれは無理だな、量に限りがあるし、文化祭の提供物は原則持ち帰るのは禁止だ」
カステラの評判も上々。先生も説明に加わってくれている。
「手作りなんだってこのカステラ」
「料理部監修だってさ、料理部なんて学校にあったんだ」
料理部としての活動も問題なく周知できたのは僥倖だろう。
「やっべぇ美味いよな、これ」
「鶏肉って興味なかったけど、これは良いな」
血気盛んな男子達にも好評のようだ。この年なら普通は牛肉が一番好きだろうに。
(⋯⋯もう、認めるしかないか)
意味もない言い訳を探すのが面倒になってきた。ここにいる学生達は、全員がそうではないと思うけど。
「ご馳走様!凄い美味しかった!」
「文化祭でこんな本格的なの食べれると思ってなかったよ!」
みんな、俺が作った料理を食べに来ている。それを事実として受け止めた時、随分と気分が良かった。
「脇阪くん!スープとご飯だけ追加したいって!ねこまんましたいんだって!」
「これ以上ややこしくしないでくれ⋯⋯」
ただし、これ以上忙しくなるというのは、勘弁してほしかった。




