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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第一章、切れてるようで、繋がっている関係

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3/18

母がいない家は、少し広い

 家に帰ると、電気がついていなかった。


「ただいま」

 そう自然に言ってしまう自分に苦笑する。分かっている。

 母は、今日も病院だ。父は……今は、ここにはいない。


 玄関で靴を脱いで、静かな廊下を歩く。

 台所に入っても、鍋もフライパンも、冷えたままだ。


 少し前までは、当たり前に母の背中があった場所。


 今は、何もない。


 


 夏希は、制服のまま椅子に座った。目を瞑り、少し前の自分を振り返る。


 夕飯を作らないといけないのは分かっている。

 でも、どうしても体が動かない日があった。


 冷蔵庫を開けても、作り置きなんてほとんどない。

 陸上部で遅くなると、余計に億劫になる。そんな毎日で心が折れそうだった。



 ――明日も、ちゃんと学校に行こう。


 今そう思えるようになったのは、ある場所が頭に浮かんだからだ。



「前田、親の事は先生知ってるからな。何かあったら言ってくれ」

 先生はそう言ってくれたけれど、その優しさを受け取る余裕すら、当時の私にはなかった。


「親の事、言いたくないのは分かるけど、助けてくれる友達も必要だろう?クラスに知ってる友達はいないのか?」

 先生が本当に心配してくれてるのが伝わってくる。でも、私は本当は先生にだって言いたくはなかった。私が頑張ればそれでなんとかなるって思ってたから。だから、私の事情を知ってる人なんて……


「……脇阪くんなら、知ってると思います」

「脇阪?前田は脇阪と仲良かったか?」

 先生が不思議そうな顔をしている。それもそうだろう。私と彼は高校では殆ど話した事もない。


「えっと、家が近所で、親が仲良かったので……」

「あー!なるほど!、確かに住所は近かったかもなぁ」


 私の返答に納得した少し思案した後、先生が「なら丁度良いじゃないか」と言いながら私の手を引く。何処に向かうのか、と聞くまでもなくその場所に着いてしまった。……まさか!

「先生!待っ」

「脇阪、こいつに飯食わせてやれ」

 怪訝な顔をする脇阪くん。でもそれ以上は何も言わず、彼は黙々と料理を始める。強引な先生の行動一つで、私と彼の奇妙な関係が始まった。



 まだたった2日しか経ってないからか、鮮明に思い出せる。


 家庭科室。幼馴染、脇阪悠斗のいる場所。


 彼は、あまり喋らない。

 でも、黙って温かいご飯を出してくれる。


 それだけで、少しだけ、安心できた。


 


 水炊きの湯気を思い出す。


 同じ鍋をつつく距離。

 向かいで、静かに鍋を見ている横顔。


 ――あれは、少し近すぎる。


 分かっているのに、行くのをやめられなかった。


 


 朝目を覚ましたら、夏希は制服を着替え、ジャージを羽織る。


 家を出る前、誰もいない台所を一度だけ振り返った。


「……行ってきます」


 返事はない。


 


 でも、あの家庭科室には、いる。


 あまり喋らない幼馴染と、温かい料理。


 それが今の夏希にとって、

 この家よりも「帰る場所」になりつつあった。

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