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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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当たり前の中にあったもの

「ずっと見てたよ、ゆうくんが頑張ってるとこ」


 俺にとっては当たり前だった。勉強をするのも、部活の練習をするのも、それを凄いと、認めてくれる人がいる。なんとも不思議な感覚だ。


「⋯⋯もうそろそろ、良いんじゃないかな」

 少しの沈黙の後、夏希が再び声を上げる。鍋の方を見ると、白濁としたスープが完成の近さを物語っている。


「⋯⋯そうだな、ちょっと味を見てみる」

 さっきの事は一旦忘れる事にする。頭を振り意識を鍋に向ける。少量のスープを皿にとって、味見してみる。


「少し味が薄いな、塩足して、もう少し煮詰めてみよう」

 そう思い、指先で量を確かめながら、塩をふたつまみ程落としてもう一度味見する。


「さっきよりは塩味は大分良くなったな。あとはもう少し煮詰めればスープは完成で良いだろ」

 確認のために夏希にも少し味見させてみる。


「⋯⋯うん、美味しいよ。脇阪くん、どうやったらこうやって、味を決められるようになるの?」

 夏希はそう聞いてくるが、どうやってって言われても回答に困る。


「こんなん誰でも出来るようになるよ、主婦のみなさんだってやってるたろ?」

 最近は主夫もいるか、全国の料理してるお父さんごめんなさい。


「じゃあ脇阪くんからしたら主婦って頑張ってないの?」

 なんという事を言うのだこの娘は。そんな事言ったら炎上するわ。


「そういうわけじゃない。他にも掃除とか洗濯とか⋯⋯色々あるだろ」

 料理以外の事も沢山あるだろう。それを毎日こなしているんだ。俺には想像もつかない。



「そうだよね、でも脇阪くんがそれも出来るようになったら、これくらい普通だって、言うと思う」

「いや、そんな事⋯⋯」

 ない、⋯⋯とは言い切れないかもしれない。必要に駆られれば、それが俺の中の「普通」になってしまう。そうなった時の自分はなんと言うだろうか。


「私は、ゆうくんの考え方は悪くないって思ってる。でもね⋯⋯」

 夏希が一呼吸置いてから、もう一度話す。


「私はあんまり、自己評価を低くしないで欲しいとも思ってる。良い事も沢山あるけど、ゆうくんの考え方は、人を傷つけちゃう事もあるんだよ」

 ⋯⋯それもそうだ。自分が苦しいと、大変だと思っている事に対して、「その程度の事は当たり前だ」と返されたらそれは不快に思うだろう。



「そっか、そうだな、気を付けるよ」

 それに、夏希も俺の言葉に傷つく事があるのかもしれない。それはなんとなく、嫌だと思ったから。


「説教されたのなんていつ以来だろうな」

「説教って程じゃ⋯⋯お母さんには怒られないの?」

 そう言われて思い返すと、母に本気で怒られた記憶はあまりない。


「そうだな、親に迷惑かけたくないから、無理してる所もあったんだろうな」

 周りからの、悠人くんは手がかからなくて羨ましい、との声が、少し俺を背伸びさせたんだろう。そう言われた時の母は、どんな顔をしていたんだろうな。



「まぁ、代わりに幼馴染に怒られるけどな」

「これくらいので良いなら、何回でも怒ってあげるよ。私の方がお姉さんなんだから」

「そういや、そうだな⋯⋯俺は冬生まれだから⋯⋯夏希の方が年上だな」

 落ち着いてきた雰囲気に乗せられたのか、緊張が解けて睡魔が襲う。


「急に眠そうだね、昨日は何時に寝たの?」

 代わりに夏希が鶏肉を一口大に切ってくれる。何時に寝たか?

「⋯⋯寝てない。鶏ガラの下処理してた」

 自分としてはあまり考えてなかったが、失敗したくない気持ちが強かったんだろう、下処理には随分時間がかかってしまった。



 視界の隅で夏希の手が止まる。何かあったのか?とも思ったが確認するのが億劫だな。


「⋯⋯寝なさい」

 夏希にしては迫力を感じる声に少し驚く。


「え、いや駄目だろ、まだやる事が」

「ちょっと経ったら起こすから!ちょっと寝てなさい!」

 担任を除けば、二人しかいない校舎に夏希の声が響く。こんなに大きな声を聞くのは初めてだ。

 夏希の顔を見てみれば、頬を少し膨らませて俺を睨んでいる。⋯⋯怒っている様にも見えるか?


「なんだ、可愛い顔して」

 頭が回っていないのか、思った言葉が口に出てしまった。


「か、可愛いって⋯⋯」

 カッと顔が赤くなったが、直ぐにさっきの表情に戻る。


「私は!今!怒ってるの」

 やはり怒ってたらしい。過保護なお姉さんだな。


「分かった、分かったよ、じゃあ仮眠とるけど、何かあったら起こしてくれよ?」

 このまま作業を続けたら、さらに夏希に怒られそうだ。文化祭前に喧嘩っていうのはあまり良くないだろうし⋯⋯


「ここまで頑張ってきたんだから、失敗したくないんだよ」

 何より、今までやってきた努力が、眠らなかったせいで、報われないのは嫌だからな。


「⋯⋯そうだね、でも脇阪くん、頑張ったからこそ、ちょっとは休まなきゃ」

 そう言って夏希は微笑む。瞼を閉じると、直ぐに夢の中へ旅立つ。


 料理部として、クラスの一員として、自分に出来る事をした。だから当然の事をしただけ。そう思っていた。

 

(⋯⋯良い気分だ)

 だけど、俺は案外頑張っていたらしい。自分を認めてやれた事は素直に喜ばしい。


 

「⋯⋯お疲れ様、ゆうくん」

 微睡みの中、夏希の声が聞こえた気がした。


(ありがとう⋯⋯おやすみ、なっちゃん)

 夢の中でそう呟く。こんなに充実した気持ちで眠るのは、初めてだった。

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