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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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軽い夏の終わり

中学3年の夏。記憶に残っているのはうだるような夏の暑さ。


 中学最後になるかもしれない夏の記録会。三年間、色々な競技に出たが、最終的には100メートル走に出る事を決めた。理由は短距離が結局一番楽だということと、単純にタイムが良かったからだ。


「せんぱーい!頑張れー!」

 後輩の応援に適当に手を振り返す。調子は悪くない。上手く行けば、夏季総体の基準の標準記録を超える事は出来るだろう。


 スターティングブロックを自分の足に調節する。緊張する事もない。いつも通り走るだけだ。


「位置について」

 アナウンスとともにクラウチングスタートの形を取る。⋯⋯自身の感情はいたって普通だが、周りの選手達はそうではなさそうだ。いつも以上のひりつきを感じる。


「よーい⋯⋯」

 パァン!というピストルの音が響くと同時に、思いっきり足を蹴り出し、加速していく。この瞬間が短距離の中で一番好きな瞬間だった。


 80、70、60⋯⋯一瞬にしてゴールが近づいていく、たった一瞬で、少しのタイム差で、中学の夏が終わるかが決まるのだ。なんとも儚い競技である。


(問題はないな。いつも通りだ)

 息を少し切らせながらも、走る。先頭ではないがニ、三位程度の位置で隣の男と並走する形で走っている。


 だからこそ、横目で見てしまった。全力で走る男の顔を。負けられないと、必死で、この先を掴み取ろうとしている人間を。


 手を抜いたつもりはなかった。自分としては全力で走ったつもりだった。だけど

(ああ⋯⋯これは、勝てないな)

 そう、思ってしまったんだ。


「脇阪先輩、俺、記録見てきたよ」

 走り終わった後、部内のテントで休んでいると、後輩の晴が声をかけてきた。その顔は苦悶の表情という表現が正しいだろう。

 

「顔見りゃ分かる。そうか、駄目だったか」

 悪い事をしてしまったなと思う。自分で見ていれば、後輩にこんな顔をさせずに済んだだろう。


「先輩!ずっと頑張ってたじゃんか!学校で測った時は、標準記録も超えてたんだよ!」

 学校は学校。正式な記録じゃない。そんな事、晴も分かっているだろう。


「なんで、そんなに普通そうにしてるんだよ⋯⋯」

「そんなもんなんだよ。俺の実力が低かっただけだ」

 自分自身の努力が足りなかっただけなのだ。⋯⋯いや、今日の周りを見ていると、自分が今まで本当に努力していたかも分からない。



「ありがとな、腑抜けな先輩のために泣いてくれて」

 そんな情けない先輩のために泣いてくれる。優しい後輩の頭を撫でてやった。


(終わり、かぁ)

 これで、夏が終わった。晴から話を聞いたが、どうやら俺のタイムはあと0.1秒速ければ、夏の総体に出れるタイムだったらしい。惜しいといっても結果は結果だ。それに対して思う所はないし、


(まあ、こんなもんか)

 という気持ちが大きい。そんなものなんだろう、俺に取っての陸上という競技は。

 子供の頃からある程度の事は卒無くこなしてきたと思う。だけどそのせいか、今まで本気で熱中した物がない。

 陸上についても親に強制的に入らされた物で、ある程度は練習しただろうが、本気でやってる人間に負けるのも当然だろう。


(野球部なんかと違って、記録が出ないだけで夏が終わるのは気楽で良いな)

 連帯責任など存在せず、個人だけで全てに片がつく陸上というのは、やはり向いていると感じる。



 そんな事を考えながらグラウンドを散歩していると、同じ陸上部である夏希を見かける。


(⋯⋯少しは話、してみるか)

 自分にとっては最後の夏だが、夏希にとってはどうかまだ知らない。軽く話をしようと近づくと。


 涙を流しながら、張り出された記録票を見つめていた。


 夏希も俺も、総体に出れるかどうかはギリギリのラインだったため、その表情を見るだけである程度の想像は出来てしまった。彼女もまた、全力で挑み、敗れた側の人間なのだ。


(凄いな、あいつ⋯⋯)

 浮かんでくる感情は尊敬だった。彼女はただの部活で、結果が出なかっただけで、泣けるほど辛いのだ。


(俺のような、半端物とは違うんだ)

 自身にない熱意を感じても、自分にはそこまで必死に努力なんて出来ないと、思ってしまった。



「脇阪さん。君に陸上でスポーツ推薦の話が出てるんですけど、どうします?」

 大会が終わってしばらく経った後、中学の担任から推薦の話があがった。


「それって、枠いくつあるんですか?」

「まぁ、そんなに多くはないですね」


「俺は推薦いらないですよ。⋯⋯もっと、真剣な奴に譲ってやって下さい」


 スポーツ推薦なんかで入ったら、陸上部に入るのは確定だろう。高校に入った所で、本当にその部活を選ぶかなんてまだ分からない。


(推薦なんて、荷が重い)

 全力で取り組むことなんて、俺にはきっと、一生無理なんだから。


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