表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/28

時計の針が、思ったよりは早く進む

「いやぁすまんな遅れて!教師って職業は忙しいんだよ」

 早朝からコソコソと隠れていた教師を引っ張りだす。

「忙しいって言うんだったら、廊下で覗き見する時間もないでしょ」

 何してんだこの人は。とも思うが、ある程度の奇行は無視する事にする。せっかく早くに来ても、この人を相手にしていたら時間が無駄になる。


 鶏ガラを一旦湯通しする所から始める事にする。作る量が多いので、下処理する鶏ガラも結構な量になる。

「んじゃ前田さん、お湯通したあとこっちに鶏渡してくれ」

「分かった。どれくらい?」

「結構適当。ニ、三分くらいで良いだろ」

 ある程度の内臓や血合いは昨日のうちに取り除いておいたが、一度湯通しすれば臭み等もある程度落とせる。


 夏希から渡された鶏ガラの汚れをある程度取り除いて、ガラを砕く。こうすることで骨から味が出やすくなるらしい。

 後は簡単で、臭み取りの野菜とともに、強火でガラを煮ていくだけだ。まぁこんなデカい鍋でした事はないから、上手く出来るかは少し不安だが。


「案外簡単だろ?あとは時間がかかるだけだ」

 煮込み時間はかかるが、まぁ和風喫茶が始まるのは9時頃だ。問題はないだろう。


「ふむ、じゃあ基本は二人だけで問題はないか?一応私も他の教室の確認をしておきたい」

 文化祭という特殊な行事だ。教師としての立場としてやる事も多いのだろう。


「別に構いませんけど、大丈夫なんですか放っておいて」

 家庭科室使用の許可はもらってはいるが、長時間火を使う事になる。

「そんな事言っていたら、いつも家庭科室で一人でさせてる方が問題だろ」

「それはまぁ⋯⋯確かに」


 担任は一応の顧問ではあるが、殆ど部活動に顔は出さない。信頼されていると言えば聞こえは良いが、丸投げという言い方も出来るな。


「そういう事だ。じゃあ一旦離れるが、頑張れよ」

 そう言って、先生は俺の肩を叩く。

「何か進展あったら、先生にこっそりと教えてくれよな」

 いつも通りアホな発言を残して。

 何の進展だ、と聞く前に、アホ教師は家庭科室から出ていった。


「なんか、脇阪くんって先生に振り回されてるイメージだよね」

 夏希が頼んでもいないのに、下茹でした鶏ガラを砕こうとしている。危なっかしいな。


「あの人、変な事言ってから出ていくんだよ。」

 だが折角手伝ってくれてるというのに、止めるのも失礼だろう。仕方なく隣に立って作業を続ける。

 家庭科室には鶏ガラの骨を砕く音だけが響く。⋯⋯なんというか華がないな。女子と二人で鶏ガラ処理するってシュール以外の何物でもないだろ。



 あと、シンプルに

(気まずい⋯⋯!)

 今まではある程度の話のネタがあったから話せていたが、今日はこれから長時間夏希と二人でいることになるのだろう。

 俺の会話デッキではそこまでの時間は稼げない事は、過去の記憶からも証明されている。時計を見ても時間は進まない。気まずい時というのは時間の流れが遅く感じる物だ。


「なんかさ、昔はこんな感じだったよね」

 夏希が耐えきれなくなったのか、沈黙を破る。

「昔って、いつ頃の話だよ」

「小さい頃の話かなぁ。覚えてる?初めて会った時の事」

 昔話か、と言っても、あまり夏希との思い出に良い物はないと思うが。


「覚えてるよ。前田さん、ずっと下向いてたよな」

「し、仕方ないんだよ!今よりも人見知りだったんだよ」

 お互い内向的な性格は今でも変わらないが、随分とマシになったもんだと思う。


「二回目に来た時は、脇阪くん漫画持ってきてさ、私の相手せずにずっと漫画読んでた」

「仕方ないだろ、何話せば良いのか分からなかったんだよ」

 母親に強制的に引っ張られて連れて行かれて、そこで会った女の子とどう遊べというのか。時間潰しのために漫画を持っていった。


「そうだね⋯⋯でも、それが楽だった。脇阪くん、黙って私に漫画見せてくれたよね?」

 思い返すと、そんな事もしたような気もする。ただ単に読み終わった漫画を夏希に貸しただけだが。


「脇阪くんのおかげで、随分少年漫画読む事になったよ」

「悪かったな、少女漫画は基本男の子は読まないんだよ」

「ううん、感謝してるんだよ。⋯⋯私の事、みんな気にしてた。可哀想な娘だって、同情されて疲れてたのに」

 ⋯⋯興味がなかっただけだ。夏希の親がどんな状況であろうと、関係ないって思ってただけなんだよ。


「そんな時に、何も言って来なかった脇阪くんとの時間が、私は好きだったよ」

 なのに、そんな俺との時間が、彼女を救ってくれていたんだとしたら、それはとても誇らしい事に思えた。


「お母さんにたまに聞いたよ?次はゆうくんはいつ来るのって」

 誇らしい気持ちになっていたら、急にハンマーで頭を殴られた気分になる。


「お、おま⋯⋯ゆうくんって⋯⋯」

「昔は、私、脇阪くんの事、ゆうくんって呼んでたよね」


「それ言ってて恥ずかしくないか?」

「別に、今でも呼べるよ?」

 何を言ってるんだいこの子は!?


「⋯⋯ゆうくん」

 心臓が跳ねる。作業する手が止まる。


「ねぇ、ゆうくんは昔、私の事なんて呼んでたっけ?」

 心臓がどくどくと脈打つ感じがする。言わないと駄目か?これ?


「⋯⋯なっちゃん。だったと思う。殆ど呼んでなんかないけどな!」

 もはやヤケだ!なんだこの変な空気は!?先生帰ってきて!?

 


「そうだったね。ゆうくんって私の事『おい』とか『ちょっと』とか言って呼んでくれなかったし」

「それは、悪かった⋯⋯子供の頃は恥ずかしかったんだよ」


「じゃあさ、今なら、恥ずかしくない?」

 今日の夏希さんなんか強くない???



「呼ばないよ!そういうのはもっと親しい人に取っておきなさい!」

「ゆうくん、お母さんみたい」

「うるせぇ!そのゆうくんってのも辞めなさい!」

「なんで?別に私は恥ずかしくないけどなぁ」

「俺が恥ずかしいの!」

 むず痒くなるような会話が続く。時間を見ると、時計の針は随分と進んでいた。



「もう、こんなもんで良いだろ⋯⋯」

「ゆうくん呼びの事?」

 それもあるけど!

「鶏ガラ!充分砕いたから!鍋に入れるぞ!」


 砕いた鶏ガラを鍋に移し、強火で煮込んでいく。鍋の中で泡が弾け、家庭科室に鶏ガラの匂いが広がる。

 作業としては手間な事はなく。大した事ではない筈なのに

「なんかどっと疲れた⋯⋯」

「無理してるんだったら、寝てても良いと思うよ。私見とくし」

 ⋯⋯誰のせいで疲れたと思ってるんだ?


「たまには休まないと、倒れちゃうよ」

「そんな過労死するほど働いてないわ」

 それに、まだやる事も結構あるのだ。夏希だけに任せるわけにもいかない。


「そこら辺もさ、変わらないよね」

 何の事か知らないが、人はそんなに簡単に変わらないもんなんだよ。


「中学の時なんて、脇阪くん凄かったんだから」

 中学の時?別に何かをした覚えはないが⋯⋯


「あの時から、脇阪くんの中の努力の考え方は、人と違ったんだね」

 ⋯⋯努力ね。努力や頑張りって話になると、思い出せるのは一つの記憶。



――中学三年の夏。


 ゴールラインを駆け抜けたあと、空を見上げていた。

 息は上がっていたが、胸の奥は不思議と静かだった。


(まあ、こんなもんか)


 タイムは悪くない。けれど、総体に届くほどでもない。

 周囲が悔しさや達成感で騒いでいる中で、きっと自分だけが、夏の終わりを「軽い」と感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ