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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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文化祭の朝は早い

「終わったー!」

「うちらでも、やれば出来るもんだねー」

 家庭科室に甘い匂いが充満している。少し焦げた物や、殻が入って怪しい物を除いても、結構な量を作ることが出来た。試食もしてみたが安物よりは美味い。程々の市販品と同程度の味はするだろう。



「ありがとね脇阪くん、色々やってもらっちゃって」

「いや、こっちこそ助かった。これで料理部の活動がサボれる」

 今回作ったカステラを切り分けた後、衛生面を踏まえて小袋に入れる。そこに小さく「手作りカステラ 料理部監修」と文字を入れてもらった。


 これで、俺の今日の業務としては大体終わった。後は明日の準備をするだけだ。


「のれんってこんな感じで良いかなぁ?」

「座布団足んないんだけどー!」

 教室の方を見ると、前日というのもあって忙しそうだ。


「悪い!ちょっと部活の方で顔出したいんだ!行ってきてもいい?」

 演劇部の上原の様に部活動が本番、という奴もいる。


「まぁ良いんじゃないか?俺から言っとく」

「悪いな、ちょっと行ってくるわ!」

 バタバタと目まぐるしく変わる光景を見て、文化祭という物が近づいて来ている事を実感する。


 それと同時に

(明日はやっぱ一人でやるか)

 という考えが浮かぶ。やる気のなかったクラスメイトも、頼まれて渋々、という感じだったが働いているし、他も文化祭を成功させようと頑張っているのだ。  なら、自分も出来る事はしなくてはならないだろう。


「先生、ちょっと今良いですか?」

「おう、なんだ脇阪」

 まぁ流石に長時間火を使う事だし、担任にだけは許可を取っておく。


「明日なんですけど、水炊き作らなきゃならないんで、早めに出て準備させて下さい」

「それは構わないが⋯⋯もしかして、一人で済ませようとしてないか?」

 随分と察しが良いことで。


「一人じゃないですよ、先生が付き合ってくれるじゃないですか」

 教師を利用するのだって、学生の特権の一つだろう。


「そうか、ふむ⋯⋯そうだな、よし!先生に任せとけ」

 先生は少しだけ考えた後、気の良い返事をしてくれた。変な暴走をしなければ、単純に良い先生なんだよな。


「頼みましたよ先生。じゃあ明日の4時くらいから始めます」

「本当に早いな」

「まぁ一応やる事もあるので」

 鶏ガラを炊くだけの工程も、案外下処理が面倒なのだ。


「分かった。じゃあ今日は先に帰っとけ。無理して倒れてもらっても先生が困る」

「いや⋯⋯でもみんなまだ準備してますし」

 この状況で帰るのは少々気まずい。


「脇阪、お前仕事してもそう言って残業しそうだな」

 いや、流石に仕事ではしないと思うが。無駄な残業とかはしたくないもんだな。


「まぁ、今日は他の奴らに甘えて帰っとけ。みんなには先生から言っとくから」

「⋯⋯分かりました」

 あまり何度も逆らうのも意味はないだろう。言いだすと頑固な所も感じる教師なのだ。


「それでは、お先に失礼いたします」

「そうそう、社会人ってそんな感じだぞ。お疲れさん」

 一応の許可を貰って、明日の準備のために放課後残らず帰る。校舎を見ると、どこの教室にも灯りがついていた。

 高校初めての文化祭が、始まる。



「くぁ⋯⋯眠い」

 文化祭当日。幾重にもセットしておいたアラームを何度も止め起き上がる。二度寝どころか四度寝くらいしたかもしれないが、起きれたので問題はないだろう。


 準備を終えて外に出ると、早朝の澄んだ空気を感じる。誰もいない通学路を歩くと何か気分が良い。深夜テンションという物があるのなら、早朝テンションというのもあるのだろうか。

 

 そんなくだらない事を考えていたら、家庭科室の前まで来ていた。担任が先に来ていたんだろう。家庭科の扉が少し開いている。


「早いですね先生。助かりますよ」

 ガラリ、と扉を開けると


「⋯⋯私に脇阪くんの先生は務まらないかなぁ」

 目の前に、何故か夏希の姿があった。



「あ、先生は一旦鍵だけ開けて職員室行ってるよ?」

 補足どうも。⋯⋯何故ここに夏希がいるのかを考える。昨日は確かに、先生に頼んだが

『よし!先生にまかせとけ!』

 と言っていた筈だ。⋯⋯自分が行くとは一言も言っていない。


(あのラブコメ教師!やりやがったな!)

 大方、あの担任が「明日、脇阪一人で準備するらしい」とでも夏希に吹聴したんだろう。


「一応言っとくけど、私が先生に聞いて、手伝いに来たんだよ?」

 そうでは無いらしい。夏希側から聞いたんだとしても、担任のニヤけ顔は容易に想像できるな。


「それと私、ちょっと怒ってる」

 ついでで言うには随分と物騒な言葉だな。なんだか最近、夏希のご機嫌を俺が傾けてる気がするな。



「昔から、そうだよ。なんでいつも一人でやろうとするの?みんな手伝ってくれるし、そんなに無理しなくても良いと思うんだけど」

 夏希からしてみれば、俺がまた周りから仕事を押し付けられている様に見えたんだろうか。

「無理なんてしてないけどな」

 だけど今回については自分の意思でやっているし、無理をしている自覚はまるでない。


「頑張りすぎだって、言ってるんだよ」

 俺達以外にまだ誰もいない、静かな校内で夏希は諭す。これは彼女の優しさだ。夏希は俺の事を心配してくれてるんだろう。


 だけど⋯⋯

「いや、俺は頑張ってはないだろ。頑張るってもっとこう⋯⋯必死になることだろ?」

 頑張りすぎなんて言葉は、俺には使えない。過労で倒れた事なんてないし、親がいないなんて事もない。

 

 ⋯⋯大会で結果が出なくて、泣くなんて事もない。

 

 だから、俺は頑張ってなんかいない。必死になっている人達を、見ているから。



「⋯⋯そう、良く分かった」

 夏希が目を伏せる。何か諦めたような感じだ。


「今の話で何が分かるんだよ」

「脇阪くんが変な理由」

「酷い言われようだな⋯⋯」

 変な人の相手してるんだから、お前も変な子って事で良いか?



「喋ってても始まらないし、とりあえず、準備を始めようかね。こうなったら文化祭中は付き合ってもらうぞ」

 そう言うと、何故か夏希は少し嬉しそうな顔をした。


「やっと、頼ってもらえて嬉しいかな。⋯⋯一緒に、頑張ろ?」

 こうして、早朝に何故か二人で準備をする事になってしまった。⋯⋯とりあえず、まずは扉の隙間から覗いているアホ教師を叩く作業から始めるか。

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