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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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悪い癖を見抜かれる

「とりあえずやる気のある人達が集まってるんだし、このままある程度決めちゃおっか」

 そう言いながら、委員長がスープをよそう。⋯⋯俺おかわりして良いって言ってないんだけど?


「⋯⋯まぁ、流石に水炊きだけってわけにもいかないしな。他にも出来る物を考えよう」

 気を取り直して、何が提供出来そうか考える。


「水炊きってなると、和風寄りだろうな⋯⋯

水炊きとご飯、お茶菓子、ほうじ茶あたりの三点セットが収まり良いんじゃないか?」

 提供数は多いが、まぁクラスの人数を考えたら不可能じゃないだろ。


「はーい!内容的にメイド喫茶じゃなくて、和風喫茶だと思いまーす!」

 挙手しながら女子が声を上げる。まぁ確かに。メイドがグツグツと煮えたぎった汁を持ってくるのはなんか違うか。


「それでさ!着物とか着ようよ!それなら茶道部の子たちから借りられるし!着物くらいなら、接客できるって子も増えるでしょ!」


 昨日見た通り、文化祭には、積極的に絡みたい人間と、できれば距離を置きたい人間の二種類がいる。

 そう考えると、メイド喫茶はハードルが少し高い。


「着物くらいなら、まぁ⋯⋯」

 だが、着物を着る和風喫茶なら――そのハードルも、幾分か下がるだろう。


「メイド喫茶が良かったなぁ……」

男子の夢は潰えたが、

「まあ、そう言うなよ。和服着た女子にお茶でも入れてもらうってのも、悪くないだろ?」

「……それはそれで、なんかエッチじゃね?」

 コイツこれが言いたいだけだろ。


「あと、着物なら男子にも接客させられるよねー」

「はあ!?持ってねえよ着物なんて!」

「家探せばどこかにはあるでしょ、頑張ってねー」

 別の場所では痴話喧嘩が始まっている。あいつら仲良いなあ。付き合って⋯⋯いかんいかん、俺もカプ厨になる所だった。


「話ちょっと戻るけど、茶菓子はカステラでいいか? 値段もそんなにかからないし」

 和風喫茶で着物を着るんだったら、ある程度の準備も考えておかなければならないだろう。


「それはいいと思うけど……カステラって、結構高くない?」

「そうでもないだろ。原価としては、案外安いもんだぞ?」

 一瞬、家庭科室の空気が止まる。


「……確認なんだけどさ、脇阪くん。それ、作るつもり?」

 その一言で、ようやく気づいた。

「⋯⋯悪い、市販品だよな。忘れてくれ」

 自分と周囲の認識の差に、少しだけ気まずくなる。


「確かに少し高いな。団子とかにしとくか」

 安物のカステラでも良いかもしれないが、個人的に安いカステラは軽くてあまり味が良くないイメージがあるのだ。


「前日もしくは当日焼成なら多分通るぞ脇阪!」

 いややらないよ先生?よく考えたら、当日の水炊きの仕込みだけでも大変なんだよ?


「脇阪くんがやるって言うんだったら、やってみても良いんじゃないかな」

 今まで会話に混じっていなかった夏希までそんな事を言い出す。


「いや、でも大変だろ」

 文化祭のカステラをどれだけ焼くことになるか分からないが、とても一日で終われる量じゃない。


「そうだね、一人じゃ無理だと思う」

 言われて初めて気付く。これは文化祭だ。なのに俺は、基本一人で作る事ばかりを考えている。


「人を頼れない所って、脇阪くんの悪い癖だよ」

 前に言われた。「ちゃんと見てる」と、だから夏希は、俺が一人でやろうとした事に気づいたんだろうか。


「作るって言うんだったら、接客担当と料理担当で一旦分けようか!」

 委員長が指揮を取ってくれている。


「接客しなくて良いなら⋯⋯ちょっと人苦手だし」

 理由はなんにせよ、料理担当側で手が挙がる。


「文化祭だろ!ちょっと味悪くても手作り感あって問題ねーって!」

 上原⋯⋯友人も、俺を手伝ってくれる。それが不思議と嬉しかった。


「手伝わせてくれよ!友達だろ?」

「⋯⋯こりゃ、参ったね。」

どうやら想像よりも、俺には味方が多かったらしい。


「⋯⋯あんまり不味い物作ったら、全部お前に食ってもらうからな」

「料理部監修なんだろ?そうしたら全部ワッキーのせいになるな」

 言っとけ。分量守れば、誰でも美味く作れるって事教えてやるよ。



 感動的な話だ。涙が出るな。

「私も手伝うよ」

 夏希も手を上げる。

「いや駄目だろ」

 速攻で拒否する。


「な、なんで?私そんなに頼りないかな?」

 まぁ正直、料理と勉強という点に置いて夏希の事は信用してないんだが⋯⋯


「いや、前田さんは接客担当だろうなって思っただけだけど」

「わ、私結構人見知りだけど?接客向いてそうに見える?」


 向いてるか向いてなさそうかで言えば

「向いてるだろ、美人だし」

 着物を着れば、和風美人という言葉が似合うだろう。文化祭、という点を見れば接客の高さよりも見た目だと思うんだ。 


「⋯⋯⋯⋯え?」

 何か意外だったのか。夏希は固まっている。

 周囲から「うわぁ⋯⋯タラシだ」とか「脇阪くんって、そうなの?」みたいな声が聞こえてくるが、事実を言っているまでなんだが。


「看板娘にすれば客寄せになるだろ」

「⋯⋯⋯ああ、うん、知ってた」

 夏希は随分と脱力している。そんなに接客嫌なのか?

 周りから「最低だ⋯⋯」とか「セクハラでしょあれ」とか聞こえてくる。え?セクハラなのこれ?



「じゃあ今日はここまで!ごちそうさま脇阪!美味かったぞ!」

 最後の最後で、なんとも言えない空気感の中、先生が解散を合図を出す。

 退出する際に、先生が肩を叩きながら労いの言葉を

「良いラブコメだったぞ脇阪、先生満足」

 なんか馬鹿な事を囁やきながら出ていった。二度と来ないで欲しい。




「お疲れ様」

 みんなが解散してしばらくすると、夏希がいつも通りの様子で家庭科室に帰ってきた。


「本当にな、まぁある程度決まったし良かったって事にしよう」

 いつもの席に座る夏希に、取り置きしておいた鶏肉を渡す。⋯⋯いつもよりも落ち着きがないようにも見えるな、何かあったか?


「今日は賑やかだったね」

「そうだな⋯⋯毎日は勘弁願いたいな」

 試食の余り、少しだけ残ったスープにご飯と卵を入れる。ラーメンも悪くないが、雑炊というのもまた乙な物だ。


「⋯⋯ねぇ、今日言った事って、本当?」

 夏希の目の前にお椀を置いた時、不意に小さな声が聞こえた。今日言った事?

 

「どれの事だよ?」

「私の事⋯⋯なんでもない」

 ⋯⋯ああ、美人だって話か。別に今思った事じゃない。なんなら子供の頃から、可愛かったと思う。


「そんなの、クラスのみんな思ってる事だろ」

 だけど、二人きりになった部屋では、そんな遠回しな言い方しか、俺には出来なかった。



「⋯⋯着物、見たい?」

「⋯⋯以下同文」

「分かった、じゃあ、頑張る」



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