妥協案を、探す
「水炊きってこんな感じの料理だな、本場ではまずはスープを味わう」
放課後、集まれる奴だけ集めての試食会が始まった。昨日の内に準備しておいた食材で、鍋一つ分を作った。
「すっごい美味しい!なんかお店の味って感じ!」
そう言いながら、女子がスープを飲み干してくれる。ふむ、手応えは悪くなさそうだな。
「これって、何で味ついてんの?」
「塩と、昆布出汁の素」
「へー、塩だけなんだ。どれくらい入ってんの?」
「この鍋だと、小さじ1くらいだな」
「そんだけ!?煮込むだけなら俺でも出来るな⋯⋯」
男子の反応も悪くなさそうだ。料理に興味を持ってくれることも中々嬉しいもんだ。
「どうだよ高藤、美味い?普通?」
上原がそう言いながら、さっき俺を冷やかしたつもりだった男子(高藤というらしい)に感想を求める。
「⋯⋯うめぇよ。特に肉が美味い。こんなに柔らかい骨付き鳥食った事なかった」
ほう、これはかなり嬉しい。明らかに嫌われている筈の人間を味で負かしたのだ。
「そりゃどうも、強火で1時間も煮込めばこれくらいにはなるよ」
自身の料理をここまでの人数に振る舞うというのは初めての経験だったが、悪くない時間だと思った。
「夏希的にはどう?」
「うん⋯⋯なんか安心する味がする」
幼馴染様の反応も上々。周りから「安心⋯⋯?」みたいな反応が上がっているが気にしない。
(んじゃ、後は⋯⋯)
担任を許可を取らなければならない。後ろで生徒達に混ざって試食をする先生に声をかける。
「先生、味の方はどうですか?」
「いやぁ美味いな!一応本場でも食った事あるが、こんな感じの味だったと思うぞ?」
カラカラと笑う担任も、味そのものには納得している。
「じゃあ、料理部として、クラスの出し物としてどうやって提供する?」
だが、ここからが本番だ、その場の思いつきではなく、自ら練った案で先生を納得させるのだ。
「提供方法としてはやっぱ水炊きなんで、スープと具材は別に提供したいですね」
ここは譲れない点だ、そのため器は二つ、スープ側の器を小さめの断熱紙コップにでもすれば、値段もそこまでかからないだろう。
「完全に火を通した具材とスープを、家庭科室で調理してから、鍋に移して、教室では卓上IHで保温します」
「なるほど、家庭科室で提供するってのは考えないのか?」
「考えましたけど、風情がないでしょ。教室の方がみんなやる気出るだろうし」
飾り付けの事も考えると、授業で使う予定の家庭科室ではそれも難しくなる。
「保温温度は?」
「スープは沸騰手前で管理ですかね。具材についても同じくらいの温度で考えてます。」
聞かれた点について素早く答える。詰まりでもしたら計画が頓挫してもおかしくはない。
「よし、じゃあ守る点を先生から上げよう。教室では保温のみで、75℃以上を維持しろ。あと具材は骨なしにしとけ」
あまりにも真面目な提案だ、本当にいつもの雑な先生か疑うレベルだな。
「ええ!?骨付き肉だから美味いんじゃないっすか!」
反論をしたのは高藤、そんなに美味かったのか?
「子供や老人も来るかもしれないからな、危険は避けた方が良い」
「まぁ仕方ないだろ。具材としての肉はモモ肉と鶏つくねで考えとく。それなら問題ないでしょ?」
手羽先や手羽元が使えないのは残念だが、スープの味は鶏ガラを使えば十分に出る。
「そうだな、後一つだけ言っておくと」
残り一つ、これさえ超えれば、許可が降りる。ここまで来たからには、面倒だと思う感情よりも成し遂げたい気持ちが勝つ。
「脇阪、お前の事は信用してるし、多分、問題はないだろう」
そう思いながら身構えていると、先生は突拍子も無いことを言い出した。
「だがもしも問題が起きたとしたら、ちゃんと私を頼れ、先生ってのは、生徒を守るために存在するんだからな」
やだ、先生カッコいい⋯⋯
「やってみろ、お前が思い付くことを、な」
「⋯⋯ありがとうございます」
こうして無事に(?)に文化祭での出し物が決まった。一仕事、終わったな。
「じゃあ料理内容決まったことだし、何をコンセプトにするか決めないとね」
⋯⋯ああ、そういやそうですね⋯⋯
一仕事終わったつもりだったが、ここまで疲れて、まさか本当に一つしか問題が解決していないとは思っていなかった。
「そういや値段を聞いていなかったな、幾らで売るつもりだ」
「米と茶菓子セットで千円でどうですか」
「高い!文化祭だし400円くらいだろう」
「⋯⋯800」
「金の亡者かお前は」
「じゃあせめてワンコイン!単品五百円で!」
「案外金にがめついんだな、お前⋯⋯」




