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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第一章、切れてるようで、繋がっている関係

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なぜ俺は、ここで料理をしているのか

 夏希がやってきた翌日の放課後。


 家庭科室には、今日も俺一人だった。


 火にかけた鍋が、グツグツと音を立てる。

 タイマーをセットしながら、俺は少しだけ時計を気にした。


 運動部の練習が終わる時間だ。


 ……いや、別にアイツを待っているわけじゃない。ただ昨日、約束した感じになったからだ。だから気になるだけだ。


 窓から外を見ると、夏希が先輩達に頭を下げているのが見えた。運動部はあれが大変だと思うが、社会人としては必須スキルだろうな。


「料理部が作れて助かったな」

 文化部で、それも1人で居られるのは気が楽だ。


 

 俺が料理部に入っているのは、料理が好きだからというより、都合がいいからだ。

『悪いな悠斗、父さん金稼いでくるわ!』

 何事にも豪快で大雑把な父親は、今、中国に単身赴任している。


『ごめんねゆうちゃん、でもお母さん仕事もお家の事も頑張るから!』

 母親は頼まれると断れない人で、今は三交代制の工場で働いていて、夜勤と午後勤の日は家にいないような物だった。


『別に問題ないよ。高校生になったんだし、多少の事は自分でするよ』

 そう言ってしまう俺の性格は母に似たんだろうか。そんな理由で家に帰っても、夕飯は自分で何とかしなきゃいけない日が多かった。


「脇阪、部活は決まんないのか?中学は陸上やってたんだろ?」

 ある日、部活動を決めないままのらりくらりと過ごしていた時に、担任に捕まった。

 あるあるな話だが、昔陸上部に入ったのは、中学だけはちゃんと運動部に入っておけと親から言われたから、入っていただけだ。


「ええ……俺家で飯作んないといけませんし……」

 嘘は言っていない、俺は毎日忙しいんですよ先生。

「あー、そうか家庭が少しややこしいんだったかぁ」

 分かってくれますか先生!


「だったら、学校で作った方が楽じゃないか?」

「………はい?」

 これが、おれが創設させられた料理部という部活だ。


 結果、部員は俺一人。

 顧問は担任、俺が自分の飯を作っているのを知っていて、黙認している。「部活動としての報告だ!」という理由でたまに作った食事を食べにくる。


 この家庭科室は、俺にとって「部室」よりも「台所」だった。


 


 ガラッ、とドアが開く。


「……お疲れ」


 夏希が、少し息を切らして入ってきた。


「お疲れ」


 それだけで、二人の会話は終わる。無言で歩いてきた夏希がストン、と近くの席につく。フワリと香った匂いは汗の匂いとは思えなか……俺は慌てて考えるのを辞めた。


 


「今日は何?」

 昨日の今日でまさか催促の言葉が出るとは……意外と食いしん坊なのか?


「水炊き」

「……えっと、うん。昨日美味しかったよね」

 今人間性が見えたな。……いや普通か。いくらなんでも2日同じ鍋はないだろう。


「……のスープですが、これにかえしを使います」

「かえし?」

 夏希は少しだけ首を傾げる。まぁ知らない事もあるか。女性はあまりラーメンとかに興味ないだろうし。



「ラーメン嫌いかねお客様」

「……嫌いじゃない」

「それは良かった」

 まあ一応、昔一緒にカップラーメンを食べていた記憶があったので、大丈夫だとは思っていたが。⋯⋯好き嫌い等を考え始めると、他人に料理を振る舞う難しさを感じる。


 ラーメン鉢にかえしを入れ、その中に昨日別で作っておいた水炊きスープを入れる。そこに別鍋で茹でた麺、自家製鶏チャーシュー、ネギを乗せたら完成だ。


「すご……お店みたい」

「そりゃどうも」

 淡々とこなす様を見てか、夏希は少し驚いた様子だった。箸を渡すとしっかりと「いただきます」と言ってから食べ進める。箸を使って少しずつだが、同級生に見られながら食べるのは恥ずかしいのだろう。


「家で、作らないの?」


 夏希が箸を止め、ふいに聞いてきた。今俺がここにいるのが自分のせいだと思ってるんだろう。


「母さん、今日は夜勤」

「……そっか」


 それだけで、話は終わる。伝わってしまう。親の仲が良いって言うのはそういう物だ。本人達が知らない所で要らない情報も流れてくる。


 そしてたぶん、分かっているのだと思う。

 俺も、俺の家族もあまり家にいない人間だということを。


 


 同じ食事を食べながら、俺は思う。


 夏希は、母親がいなくなって、

 俺は、殆ど父親と母親がいなくて。


 だから、こうしてここにいる。


 ……ただの偶然のはずなのに、

 そう思ってしまう自分が、少しだけおかしく感じた。


「替え玉いる?」

「……お願いします」

「そういえば三交代ってどんな勤務なの?」

「日勤、午後勤、夜勤を二回ずつあって、どっかで休む感じだな」

「ええ……大変そう」

「慣れるとそうでもないらしい。個人差あるだろうけどな」

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