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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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軽い失敗と、助け舟

「悪いけどな。文化祭って場では、生に近いものは提供できないんだよ」

 ローストビーフ案を却下した先生は理由も語ってくれる。なるほど確かに、ただの学生のイベントで食中毒でも出たら大変だろう。


「基本的な条件で、料理をするなら完全に火が通ってる物じゃないと許可はおりん。流石にローストビーフを完全に焼き上げたら別物だろう」


「なんだよ、期待して損した」

 一度盛り上がってしまった空気が、少しずつ冷めていくのを感じる。……これは少々応えるものがあるな。


「……振り出しか。じゃあ、何する?」

「もう冷凍物で良いんじゃない?色々面倒そうだし」

 教室が再びざわつき始めた、その時だった。


「ちょっと、いいかな?」

 控えめに、夏希が手を挙げる。


 今更ではあるが、夏希は学年という括りで見ても顔が良い方だ。

 セミロングの黒髪は綺麗に手入れされており、目鼻立ちは整っている。そして基本的には引っ込み思案な所も相まって、「お淑やかなヒロイン」というような評価を受けている。

 そんな、普段はそこまで主張しない彼女が発言をしようとしている、という状況にクラスの雰囲気が少し変わった。


「せっかくの文化祭なんだから、その……冷凍物とかじゃなくて、一つくらいは何か作って見ても良いと思う」

 夏希はあくまで淡々と話す。だがそれは強がっているだけだろう。


「別に、メイドカフェって決まったわけじゃないんだよね?」

「まあ、そうだけど」

 声は落ち着いていたが、指先が少し震えているのが見えた。彼女も俺と同じで、こんな大人数の前で話せる人間じゃない。なのにどうして……


「じゃあさ。料理の内容から先に決めちゃおうよ」

 決まっているだろう。俺のためだ。以前家庭科室で「一緒に考える」と言った。さっきの用紙に書く時に話した「手伝ってもらう」という俺の言葉を聞いてだ。


「脇阪くん。何が出来そうだと思う?」

 だから彼女は動いた。助け舟だった。それも、かなりありがたい部類の。


(しばらくは、頭上がらないな)

 心の中で夏希に礼をしつつも、何が出来るか考える。


 文化祭で、料理部として絡めて、値段も安めで、衛生面も問題ない。

(頭を回せ!考えろ!何かないか?)

 せっかく夏希が頑張ったというのに、それを不意にはしたくない。

 そう考えているうちに、ふと、夏希が初めて家庭科室に来た時のことを思い出す。


「……水炊きなら、用意できるかもしれない」

 少々時間がかかるのがネックではあるが、完全に火が通っている料理だ。


「水炊きって、鍋のポン酢で食うやつ? あれって料理か?」

 ああ、やっぱりそう来るか。九州以外の地域では、水炊きの印象はどうしても薄い。

「違う違う。簡単に言えば、鶏ガラスープで食う鍋だ。南の方じゃ、案外高級料理なんだぞ」

「そんなもん、作れんのかよ?」

 別の男子からも野次が飛ぶ。まぁその意見が出るのも分かる。


「案外簡単だぞ? 二時間も煮出せば、スープはできるし」

「それは……簡単って言わないんじゃない?」

 誰かの素朴なツッコミに、教室が少し笑った。

 ――でも、悪くない反応だ。


「必要な物もシンプルだ、鶏ガラと鶏肉、野菜は……キャベツとネギあれば十分だろ」

 まぁ他にも昆布出汁程度は必要だろうが、材料費はその程度で済む。かなり安い部類だろう。


「先生、寸胴鍋とかは」

「あるな、昔豚汁作ったクラスがあって、備品として残ってる筈だ」

 鍋もあるのか。買う手間が省ける。

「俺んち農家だから、野菜なら用意出来るぜ」

「へぇ、それは助かるな、鍋に突っ込むだけだから不揃い品を安くくれると嬉しい」

 すらすらと内容が決まっていく。


「でも、まずは試食会だな、こんだけはしゃいで不味かったので売れません、じゃ意味ない。明日準備するから、放課後集まれる人は家庭科室に来てくれ」

 これが、今決められる事の及第点だろう。


「じゃあ一旦料理は水炊きで検討って事で!他の事決めてこうか」

 委員長の一言でまた雑多な雰囲気が戻る。それと同時に一気に疲れが出て、机に突っ伏す。


「なんとかなったな……」

「良かったね、脇阪くん」

 夏希も安堵した様子で声をかけてくる。何言ってんだか、一番の功労者が。


「助かったよ本当。俺一人じゃこうはならなかったろうな」

「そう?私役に立てた?」

「いや、本当に助かった。試食会ではたっぷりと食わせてやろう」

「本当?楽しみにしとくね」

 気が抜けた反動で、気持ちが緩んだんだろう、いつもの放課後のノリで話す。


「ええ……何この空気?お前らって付き合ってんの?」

 ……教室の中で。しかも馬鹿の上原の目の前で、である。

 一旦周囲を見渡すが、今の会話を聞いていたのは上原だけのようだ。いや、まず別に悪い事は一つもしてないんだがな。


「なんでも恋愛に繋げようとするなって」

「えー!でも良い感じだったじゃーん!」

 良い感じも何もあるか、あの空気感で付き合えるんだったら、とっくに付き合える事になるわ。


「そういうのは前田さんに迷惑になるんだから辞めとけ。というかお前ももう少し役に立てよ」

「そんな事言わないでよワッキーくーん!」

 馬鹿の相手をする事で、夏希の方を見ない事にした。今彼女がどんな表情をしているのか、なんとなく、見たく無かったから。

 


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