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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第二章 努力の程度は人それぞれ

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悩み事は絶えません

放課後、フライパンで鯛を焼く。

 正確に言うと鯛のアラだ。昨日の夜に手に入れた物だが、そこまで物が傷んでいる事もない。本当はグリルを使った方が焼き目も含めて楽なんだが、洗い物が面倒なのでフライパンで済ませる。


(今日は早くこっちに来るって言ってたな)

 部活に向かう前に、家庭科室に来た夏希が「今日はちょっと早く来れそうだから」と言っていた。夏希が来た時、待たせるのも悪いだろうといつもより少しだけ手際を意識する。


「お?なーんだ今日は魚か?良い事だな脇阪!肉ばっかりも栄養偏るからな!」

 ……だというのに、この人は本当に空気が読めない。


 家庭科室に入って来たのは俺にこの部活を作らせた担任だった。


「なんですか先生、見れば分かると思いますけど、今忙しいんですよ」

「硬い事言うなよ。焼き魚か、美味そうじゃないか」

 あと一応顧問も引き受けてくれている。する事といえば、たまに来て活動の確認と称して味見をする程度だが。部としての形をとる事が出来ているのはこの人のお陰ではあるので、頭は上がらない。


「味見は後にしてくださいよ」

 焼き上げた鯛を炊飯器に入れ、調味してスイッチを押す。


「鯛めしか、私は鯛めしでも酒は飲めるぞ」

「先生の酒事情は知りませんよ、つーか喋ってるだけなら手伝ってください」

「私が手伝ったら、部活動にならんだろうが。どうしてもお願いするんだったら手伝ってやらんでもないがな」

 ……相変わらずガサツな人だ。悪い人じゃないんだが、どちらかといえば苦手なタイプだ。あまり相手にはせずに先に手を動かす事にした。


 煮付け用の頭は湯を沸かし、さっと湯通しする。臭みを落とした後に醤油や味醂で煮詰める。

 骨の部分は弱火で煮出す。最後に塩で味を整え、豆腐を入れれば潮汁も完成だ。


「相変わらず手際が良いな」

「別に慣れたら普通でしょ」

 ある程度の調理を終えてから、先生が声をかけてきた。


「普通か、まぁお前がそう思ってるならそれでいいか」

 随分と含みのある言い方だな。


「というか、一人分にしては量が多くないか?やっぱ私の分も作ってくれたのか?」

 何言ってんだこの人は。

「一人分じゃないですよ」

 飯作ってやれって言ったのは先生じゃないか。


 そう思った矢先に扉が開き、夏希が部屋に入って来る。

「お疲れ様。あ、先生、こんにちは」


 担任の顔を見ると、夏希は礼儀正しく挨拶をする。優等生だな。見習うべきか?……いや、この人は雑に扱うくらいが丁度いい。

「おうお疲れ、前田は部活帰りか?」


 担任が一瞬、きょとんとした顔をする。

「何か脇阪に用があるのか?」

 何故夏希がここに来ているのか本当に分かっていない様だった。


(この担任本当に忘れてやがる!)

 心の中で悪態を吐く。元はと言えばあんたが言い出した事……

『脇阪、コイツに飯作ってやってくれ』

 ……考えてみると、毎日作れなんて、言ってないな。この人。



「……もしかして、この間私が連れて来てから、毎日ここに来てたのか?」

「えっと、毎日ではないですけど……タイミングが合う時には来てます」

 つまるところ、先生としては、あれは一種の気分のような物で一発ネタだったのだ。それをこっちが勘違いして、今の現状を作っている。


「そうか……ふむ……」

 急に黙り込んで考え事をしている。無性に嫌な予感がするので放っておく事にした。


「悪いな、先生が邪魔したからちょっと遅れてる」

 言い訳のつもりだったが、夏希は首を横に振った。

「私、別に急かしたくて早く来たわけじゃないよ?何か手伝おうと思って来てるんだけど」


「そりゃ失礼、じゃあ炊飯器の中からアラを取って、身をほぐしてくれ」

「分かった。やってみる」

 そう言いながら炊飯器を開けると湯気が上がり、夏希が一瞬だけ手を引っ込める。


「火傷すんなよ」

「だから、子供扱いしないでって」

「これは本当に心配してる」

 夏希は少し黙ってから、頷いた。

「それは……分かった、気をつける」

 

 指示を出し終え、夏希が黙々と鯛の頭から身を取り出している。俺も煮付けの仕上げをしようとするが。


「脇阪、ちょっと来い」

 先生がこちらを見て手招きをする。その表情は真剣だ。何か不味い事をしたのだろうか。この人のこんな顔は初めて見た。


「なんですか改まって」

「……誰にも言っていない事なんだがな」

 誰にも言っていない。そんな重要な話を今の俺にするのだとしたら。それはきっと今の状況の事だろう。辞めるべきだ、と先生は言うつもりなんだろうか。




「先生な……ラブコメが大好きなんだ」

「……………はい?」

 全く関係無かった。なんのカミングアウトだよ。


「毎日読み漁ってる」

 だからなんだ。そのニヤついた顔をやめろ。


「だからこう……分かるよな?」

 何も分からねぇよ。肩を叩くな。


「ハー!良い空気も吸った事だし、先生は一旦!職員室に戻るとするかな!」

 俺の頭が痛くなるような行動をした後、無駄に元気になった担任が業務に戻る為に扉に手をかける。


「あ、それと脇阪。文化祭、ちゃんと考えとけよ。一人でも文化部なんだから、何かはやってもらうぞ」

 最後に随分と面倒な事を言い残してから。


「はあ!?聞いてないですよ!?」

 ついでみたいに言ってるが、多分それを伝えに来たんだよな?


「今言った!まぁお前なら大丈夫だ!相棒もいるみたいだしな!」

 そう言いながら、ピシャリ、とドアが閉まる。……どうやら随分と、大きな面倒事が出来るらしい。


「脇阪くん、アラから取れる身ってこれくらい?……何かあった?」

「色々あったな……とりあえず食事にしよう」


 悩み事とは何故次々と生まれてくるのか、誰かに教えて欲しかった。

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