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母がいない間だけ、幼馴染が俺の料理を食べに来る  作者: bonta
第一章、切れてるようで、繋がっている関係

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結局無理する幼馴染

憂鬱な月曜、気だるげな体を奮い立たせてベッドから立ち上がる。


 下に降りると、昨日異常なまでの荒ぶりを見せていた母は、寝室でぐっすりと眠っているようだ。テーブルを見るといつもの様に弁当が置いてあるのを見て苦笑する。あれだけ酔っ払っていても、母は弁当だけはきっちり作ってくれる。


「ありがとう、母さん」

 本人に直接言うのは気恥ずかしいので、寝ている母にこっそりと感謝を告げる。その後は歯を磨き、顔を洗う。

 鏡に映った自分の姿は相変わらず目つきも悪く無愛想だ。寝癖だけはある程度整えて、制服に着替えた俺は、いつもよりほんの少し早く家を出た。



 早朝に学校に着いたら、職員室で鍵を貰い、足早に家庭科室に向かい、昨日の買い出しである程度の物を買い込んでおいた物と、家にあった余った食品を冷蔵庫に雑にぶち込んでいく。学校の冷蔵庫だというのに、授業がない時にはもはや私物と化している。


 無造作に食品を入れていると、ふと手が止まる。

(なんか、いつもより多いな)

 完全に埋まる程の量ではないが、食材の数がいつもより不思議と多い。

(……まあ、来るか来ないか、どっちか分かんないからな)

 心の中では意味もなく言い訳を探す。もう来ないかもしれないと思っているのに、無意識に二人分の用意をしようとしている事が、可笑しくて仕方なかった。

 


月曜日の午前中。

 校庭に白線が引かれる。体育の授業は長距離走だった。


「だり〜、走ったって何も良い事ねぇよ。サッカーとか野球やろうぜ?」

 ぶつぶつと文句ばかり垂れている奴らを無視して準備運動を終える。


 正直、走る事は嫌いじゃない。息が苦しくなる感覚も、足が重くなる感覚も慣れている。

 元陸上部だから、というほど大層なものでもないが、人よりは抵抗はなかった。


「文句言ってても意味ないぞ、ほら、頑張れ」

「んな事言ってもよー」

(……ふむ。やる気出させてやるか)

 俺は球技の方が圧倒的に嫌いなので、長距離走が嫌いな理由はあまり分からんのだが、ウダウダと準備運動をしているクラスメイトの火を付けた方が面白そうだと感じた。


「知らんのか?足が速いやつはモテるんだ」

 嘘ではない。というかシンプルに運動は出来る奴のが結局世の中モテるよな。


「そ、そんなもんでモテるのは小学生までだろ!……ほ、本当に?」

「たまに思わないか?何故、世の中のスポーツ選手は結婚出来る?見た目パッとしない男が何故美人と結婚しているのか!?」

 スポーツ選手の皆さんごめんなさい。


「理由はただ一つ!強いからだ!世の中は強者が得をし、弱者は淘汰される物なのだ!だが、強さを証明するために暴力は時代遅れなのだ!」

 ならば力を証明するために必要なのはスポーツしかなかろう!だから走れ!お前達の存在価値を示すのだ!


「嘘じゃないんだろうな!信じるぜお前の言葉!」

「アーホントホント、ガンバッテー」

 あからさまな嘘と冗談が混じっていると気づいているだろうに、男子達は無駄にやる気を出していた。


「何あれ、男子っていつまで経ってもガキだよねー」

 ⋯⋯⋯俺は何も聞かなかったぞ。頑張れ男子。


「じゃあ始めるぞ、よーい……」

 パァン!と小気味良い音と共に、クラスの半分がスタートした。残り半分は記録がかりだ。


 一定のペースで呼吸を整えながら、随分気合いの入った、前を走る生徒たちの背中を追う。ペース配分ミスってるな、とも思ったが、やる気があるのは良い事だ。


 自分が煽ったせいで爆走している男子がいる事を面白く思いながら走っていると、視線の先に、夏希の姿があった。

 流石に現陸上部だ。短距離がメインと言っても、走る姿勢は整っているし、自分のペースで走れているように見えるが……


(調子、悪いのか?)

 少し、ペースが落ちている。

 気のせいかと思った次の瞬間、夏希の体がわずかに揺れた。足がもつれ、前のめりになる。

 反射的に、手が伸びていた。


「……大丈夫か」

 腕を掴むと、細い体が一瞬だけこちらにもたれかかる。

「ご、ごめん!」

 すぐに夏希は体勢を立て直し、息を荒くしながら前を向く。

「へ、平気だから!」


 本当に平気な声じゃない。顔も赤そうだし、足だっておぼつかない。

 けど、追及するような空気でもない。


 走っているクラスメイトに聞こえないように、俺は少しだけ声を落として言った。

「……飯、ちゃんと食えてるか?」


 一瞬だけ、前田の視線が泳ぐ。

「食べてるよ。ちゃんと」

 返事は即答だった。それが、逆に怪しかった。


「ほら!バテてるんじゃない!自分達の限界を引き出せ!」

 これ以上どう声をかけようか悩んでいると、先生の笛が鳴り、前方でバテている男子達を叱咤している。

(これ以上は話す事もないか)

 俺は夏希に「じゃあ先行くわ」とだけ言って、ゆっくりと前に出た。

 無理をしているに決まっている人間に、なんて声をかければ良いか分からなかった。


「お、おい脇阪!お前、前田さんにタッチしてただろ!どこ触ったの!?」

「脇阪!お前まだまだ走れそうじゃないか!やっぱり陸上、やってみないか?マラソン興味ない?」

 走り終えた後には、鬱陶しいクラスメイトと暑苦しい教師に迫られて、彼女の事を考える余裕はなかった。




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