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第6話 ズレ

白石まどかは、

最近、眠れるようになっていた。


夜、布団に入っても、

明日の心配で目が冴えることが減った。


仕事は、

相変わらず忙しい。

だが、

「どうにもならない感じ」が薄れている。


理由は、

はっきりしていた。


朝倉がいる。


彼に聞けば、

すぐ答えが出る。

もしくは、

「今は決めなくていい」と

判断を先延ばしにしてくれる。


それだけで、

肩の力が抜けた。


「最近、

 調子いいね」


同僚にそう言われて、

白石は少しだけ戸惑った。


「そう、ですか?」


「うん。

 前は、

 もっと張り詰めてた」


言われてみれば、

そうかもしれない。


白石は、

自分が少しずつ

“できる側”に

移動している感覚を覚えていた。


一方で、

朝倉は、

自分の変化に

気づき始めていた。


白石が、

以前ほど

こちらを見なくなっている。


質問は、減った。

確認の回数も少ない。


それ自体は、

良いことのはずだった。


彼女が、

自立してきている証拠だ。


だが、

胸の奥に、

小さな引っかかりが残る。


昼の打ち合わせ。


白石が、

自分の判断で話を進めていく。


朝倉は、

補足する機会を失っていた。


「じゃあ、

 その方向で進めます」


白石がそう言い、

会議が終わる。


誰も、

困っていない。


それなのに、

朝倉は、

自分の椅子に

少しだけ深く沈み込んだ。


――俺、

――今、何もしてないな。


スマートフォンを見る。


> 支払い内容:60分




増えている。


理由は、

分かっている。


支払っているのは、

白石のためだ。


彼女が困らない未来。

立ち止まらない流れ。


その“下支え”として、

朝倉は、

無意識にYESを押していた。


その日の午後、

白石が上司に呼ばれる。


少し、緊張した顔。


だが、

戻ってきた時には、

表情が違っていた。


「……褒められました」


そう言って、

小さく笑う。


「次の案件、

 私が主担当でいいって」


「それは、

 良かったですね」


朝倉は、

心からそう思った。


だが、

同時に、

胸の奥が

きしんだ。


白石は、

もう一人で

進める。


朝倉の補助は、

必須ではない。


――それで、

――いいはずだ。


帰り道、

白石は同僚と

楽しそうに話していた。


朝倉は、

少し離れて歩く。


以前なら、

隣にいた距離。


スマートフォンが震える。


> 支払い完了

返却:600分




一時間が、

十時間。


数字は、

正直だった。


白石の人生は、

確実に良くなっている。


代わりに、

朝倉の居場所が、

少しずつ

薄くなっている。


だが、

それを

“損”だとは

思えなかった。


――彼女が前に進むなら、

――それでいい。


そう思える自分を、

朝倉は

誇らしくさえ感じていた。


それが、

取り返しのつかない

ズレだとも知らずに。


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