表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/17

第4話 支払いは軽い

支払いは、

思っていたよりも軽かった。


最初は、

YESを押すたびに

ほんの少し身構えていた朝倉も、

数日も経つと、

深く考えなくなっていた。


朝、

支度をしながらアプリを開く。


> 支払い内容:15分




通勤時間で消える程度だ。


YES。


胸の奥が、

かすかに空く感覚。


それだけ。


仕事は、

相変わらず順調だった。


問題は起きる前に消え、

面倒な調整は、

誰かの判断で先回りして片付く。


朝倉が何か特別なことを

しているわけではない。


ただ、

「そうなる流れ」に

乗せられているだけだ。


高瀬課長は、

最近やけに機嫌がいい。


「助かってるよ、朝倉。

 正直、

 君がいないと回らない」


そう言われて、

悪い気はしなかった。


評価も、

少しずつだが、

確実に積み上がっている。


昼休み、

白石と並んで資料を確認する。


彼女は、

相変わらずメモを取りながら、

時折、不安そうに眉を寄せる。


「この工程、

 本当に省いて大丈夫でしょうか」


「問題ないです。

 影響出る前に、

 修正入るはずなので」


言い切った瞬間、

自分でも少し驚いた。


――なぜ、

――そう言い切れる?


だが、

白石はその言葉に、

ほっとしたように頷く。


「分かりました。

 朝倉さんがそう言うなら」


信頼。


その感覚が、

静かに胸に落ちる。


その日の午後、

懸念されていた工程は、

上層部の判断で

正式に削除された。


何も、

問題は起きなかった。


帰り道、

朝倉は歩きながら考える。


支払っているのは、

時間と金。


減っている実感はあるが、

生活に支障はない。


むしろ、

増えているものの方が多い。


評価。

信頼。

余裕。


――これで、

――何が悪い?


アプリを開く。


> 支払い内容:30分




少し増えた。


だが、

今日の成果を考えれば、

安い。


YES。


その夜、

白石から連絡が来る。


「今日は、

 本当にありがとうございました」


短いメッセージ。

それだけなのに、

妙に温かい。


朝倉は、

簡単に返信する。


「お疲れさまでした」


それ以上は、

何も付け加えない。


距離は、

適切なまま。


それが、

心地よかった。


スマートフォンが震える。


> 支払い完了

返却:300分




三十分が、

五時間。


時間だけじゃない。


――安心感も、

――確実に増えている。


朝倉は、

ソファに深く腰を下ろした。


怖さは、

ほとんど感じなかった。


代わりに、

「うまくいっている」という

実感が、

静かに広がっている。


支払いは軽い。


少なくとも、

今のところは。


画面には、

いつもの文字。


> 次の支払いを、選択してください。




朝倉は、

それを見ながら、

迷わずスマートフォンを伏せた。


明日でいい。


そう思えるくらいには、

この力は、

もう日常になっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ