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エピローグ それから
白石まどかは、
ふと、足を止めた。
理由は、
分からない。
夕方の街。
仕事帰り。
いつもと同じ道。
それなのに、
胸の奥が
一瞬だけ
ざわついた。
「……?」
振り返る。
誰もいない。
ベンチが一つ。
夕焼け。
それだけだ。
「気のせい、か」
そう呟いて、
歩き出す。
だが、
なぜか
スマートフォンを
握る手に
力が入っていた。
――何か、
――忘れている気がする。
名前か。
言葉か。
もっと小さな、
感覚か。
思い出せない。
白石は、
首を振る。
「ちゃんとしなきゃ」
それが、
今の自分の
合言葉だ。
彼女は、
前を向いて歩く。
その背中を、
誰も
見ていない。
だが、
夕焼けだけが、
少しだけ
長く
その影を
引き伸ばしていた。
---
朝倉は、
小さな部屋で
目を覚ます。
古い目覚まし時計。
鳴る前に、
自然と目が開いた。
体は、
重い。
だが、
確かだ。
痛みも、
後悔も、
全部ある。
それでも、
逃げ場はない。
鏡を見る。
見知らぬ顔ではない。
だが、
好ましいとも
言えない。
「……行くか」
誰に言うでもなく、
呟く。
外に出る。
世界は、
優しくない。
だが、
奪おうともしてこない。
ただ、
そこにある。
朝倉は、
歩き出す。
支払うものは、
もうない。
返ってくる保証も、
ない。
それでも、
一歩ずつ。
――今度は、
――自分の足で。
夕焼けが、
少し眩しかった。
それだけで、
十分だった。
---
おわり




