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第13話 選択肢から外れる

朝倉は、

朝か夜かを

区別できなくなっていた。


眠っているのか、

起きているのかも、

曖昧だ。


だが、

アプリの通知だけは、

正確に届く。


> 支払い内容:480分




八時間。


一日分。


それを見て、

朝倉は

初めて笑った。


――やっと、

――追いついたな。


YES。


何かが

ごっそり抜け落ちる。


恐怖も、

後悔も、

執着も。


感情が

剥がれ落ち、

残ったのは

静かな理解だけだった。


世界は、

相変わらず

回っている。


白石は、

完全に

一人で立っていた。


判断し、

失敗し、

修正し、

成功する。


そのどれにも、

朝倉の名前は

出てこない。


それでいい。


彼女の人生は、

彼女のものだ。


朝倉は、

それを

遠くから

“知っている”。


それだけの存在になった。


街を歩く。


人は、

彼を避ける。


ぶつからない。

視線も合わない。


ただ、

誰も

不自然さを

感じていない。


朝倉は、

歩道橋の上で

立ち止まった。


夕焼けが

きれいだった。


きれいだと

感じているのが、

誰なのかは

分からない。


スマートフォンが震える。


> 支払い完了

返却:4800分




八時間が、

八十時間。


白石の三日以上。


その数字を見て、

朝倉は

確信した。


――もう、

――俺は

――選ばれない。


誰かの判断肢に、

自分は

含まれない。


使うか、

頼るか、

覚えておくか。


そのどれにも、

該当しない。


アプリを閉じる。


そして、

気づく。


次の通知が、

来ない。


> 次の支払いを、選択してください。




その表示が、

消えていた。


朝倉は、

スマートフォンを

見つめる。


初めて、

選択肢が

提示されない。


――終わったんだ。


何が、とは

言えない。


ただ、

“選ぶ側”でも

“選ばれる側”でも

なくなった。


それだけだ。


ベンチに

腰を下ろす。


少し、

疲れている。


通り過ぎる人々の中に、

白石はいない。


もう、

探す必要もない。


時間が、

ゆっくりと

折り畳まれていく。


朝倉は、

自分が

老いていく感覚を

予感していた。


一気にではない。

ゆっくりと。


名前を

使わないまま。


役割を

持たないまま。


誰かの人生の

“下書き”として

消費されきった存在として。


――これで、

――いい。


それが、

最後に残った

選択だった。


遠くで、

誰かが

支払いを選ぶ。


別の誰かが、

YESを押す。


世界は、

次の便利な存在を

見つけるだろう。


朝倉は、

それを

妬まない。


ただ、

静かに目を閉じる。


そして――

第0話の老いた男が、

そこにいた。


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