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第9話 7月28日 - 中村桜「ラジオ体操皆勤賞」

■朝6時半の神社


 毎朝6時に起きて、ラジオ体操に行ってます。


 場所は、近所の八幡神社です。大きなイチョウの木があって、その下でみんなで体操します。朝は、すずしくて気持ちいいです。


 きょうも、6時20分に家を出ました。神社まで、歩いて10分です。朝の空気は、ひんやりしてて、ちょっとしめってます。セミが、もう鳴きはじめてました。


 神社につくと、もうたくさんの人が来てました。おじいちゃん、おばあちゃんが多いけど、子どももいます。同じ学校の子も、5、6人います。


 でも、きょうは、いつもとちがってました。


 みんなの影が、へんだったんです。


 朝の6時半だから、太陽は東にあります。だから、影は西にのびるはずです。でも、みんなの影が、バラバラの方向を向いてました。


 おじいちゃんの影は、北を向いてました。  おばあちゃんの影は、南を向いてました。  友だちのまゆちゃんの影は、上を向いてました。空に向かって、影がのびてました。


 わたしの影を見たら、影が3つありました。


 1つは、ふつうの影。  

 2つめは、うすい影。

 3つめは、もっとうすい影。


 3つの影が、べつべつの方向を向いてました。まるで、太陽が3つあるみたいでした。


 「おはようございます」って、みんなにあいさつしました。


 でも、返事が、おかしかったです。


 「おはよう」  「おは」  「お」


 みんな、だんだん短くなっていきました。さいごの方の人は、口をパクパクさせてるだけで、声が出てませんでした。


■透明になっていく参加者


 6時30分になって、ラジオから音楽が流れました。


 「あたらしい朝が来た、希望の朝だ」


 ラジオ体操の歌です。みんなで歌いながら、体操のじゅんびをします。


 でも、きょうの歌は、へんでした。歌詞が、ところどころちがってました。


 「あたらしい朝が来ない、絶望の朝だ」  「永遠の朝が来た、くりかえしの朝だ」


 ラジオから、そんな歌詞が聞こえました。でも、みんな、気にしないで歌ってました。


 体操が始まりました。


 「腕を前から上にあげて、大きく背伸びの運動」


 みんなで、いっしょに体を動かします。でも、きょうは、みんなの動きがバラバラでした。


 ある人は、すごく速く動いてました。  ある人は、すごくゆっくり動いてました。  ある人は、ぎゃくの動きをしてました。


 そして、一番こわかったのは、何人かが、すけて見えたことです。


 となりにいた、おばあちゃんが、だんだん透明になっていきました。最初は、服がすけて、つぎに体がすけて、さいごには、ほとんど見えなくなりました。


 でも、影だけは、くっきり見えました。透明な人の、黒い影だけが、地面にありました。


 まゆちゃんに、「おばあちゃんが見えない」って言ったら、まゆちゃんは、「何言ってるの?ちゃんといるよ」って言いました。


 まゆちゃんには、見えてるみたいでした。でも、わたしには、見えません。


 体操が終わって、スタンプをもらいに行きました。


 スタンプカードに、毎日ハンコを押してもらいます。皆勤賞をめざしてます。


 でも、きょう押されたハンコが、へんでした。


 いつもは、「がんばったね」って書いてある、かわいいハンコなのに、きょうのハンコは、ドクロの絵でした。


 目のところが、まっ黒で、歯が、ギザギザでした。その下に、数字が書いてありました。


 「16」


 あと16日で、8月13日です。


■増え続ける幽霊参加者


 ラジオ体操が終わって、みんな帰りはじめました。


 でも、神社に残ってる人がいました。さっき透明になった人たちです。透明なのに、そこにいるのがわかりました。空気が、人の形にゆがんでるみたいでした。


 その透明な人たちが、何か話してました。声は聞こえないけど、口の動きが、空気のゆがみでわかりました。


 「マダ、ハヤイ」

 「8ガツ13ニチ」

 「ミンナ、アツマル」


 こわくなって、にげようとしました。でも、透明な手が、わたしの腕をつかみました。


 つめたい手でした。氷みたいにつめたくて、さわられたところが、しびれました。


 「イッショニ、イコウ」


 耳元で、声が聞こえました。でも、声じゃなくて、風みたいでした。風が、言葉の形になって、耳に入ってきました。


 「いや!」って、さけんで、手をふりはらいました。


 走って、神社を出ました。ふりかえると、神社には、だれもいませんでした。でも、影だけが、たくさん残ってました。


 10個、20個、いや、もっとたくさんの影が、地面にありました。人がいないのに、影だけがありました。


 その影が、みんな同じ形をしてました。両手を上にあげて、背伸びをしてる形でした。ラジオ体操の最初のポーズでした。


 家に帰って、スタンプカードを見ました。


 ドクロのハンコが、動いてました。目が、キョロキョロ動いて、口が、パクパク動いてました。何か言ってるみたいでした。


 よく見たら、ほかの日のハンコも、ぜんぶドクロにかわってました。


 7月21日、ドクロ。  

 7月22日、ドクロ。  

 7月23日、ドクロ。


 ぜんぶ、ドクロでした。


 そして、8月13日のところに、大きな×印がついてました。赤いペンで、ぐりぐりと×が書いてありました。


 お母さんに、スタンプカードを見せました。


 「がんばってるね。もう8個もスタンプがたまったのね」


 お母さんには、ふつうのスタンプに見えてるみたいでした。


 明日も、ラジオ体操に行きます。


 でも、明日は、わたしも透明になっちゃうのかな。


 それとも、影だけになっちゃうのかな。


 今、窓の外を見たら、神社の方から、音楽が聞こえました。


 ラジオ体操の音楽です。でも、今は夜の9時です。


 「あたらしい朝が来た」


 でも、その声が、だんだんおそくなって、低くなって、さいごには、うめき声みたいになりました。


 「あ゛ー、た゛ー、ら゛ー、し゛ー、い゛ー」


 こわくて、窓をしめました。


 でも、音楽は、まだ聞こえてます。


 頭の中で、ずっと鳴ってます。


 明日の朝まで、きっと鳴りつづけます。


 そして、また、ラジオ体操に行きます。


 行きたくないけど、行かなきゃいけない気がします。


 スタンプカードが、ぜんぶドクロになったら、何がおきるんだろう。


 8月13日に、皆勤賞をもらえるのかな。


 それとも、わたしが、賞品になっちゃうのかな。


担任教師の赤ペンコメント:

毎朝早起きしてラジオ体操、すばらしい! 皆勤賞(かいきんしょう)、先生もおうえんしています。ハンコがドクロの絵だなんて、少しこわいけど、それも夏の特別な思い出かしら。透明(とうめい)人間のお話は、桜さんのそうぞう力が作り出した面白い物語ね。先生も、そんなふしぎな体操に行ってみたいです。

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