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第40話 8月27日 - 今井千秋「最後の日」

■8月31日の出来事を8月27日に書く


 これは、8月31日の出来事です。


 でも、今日は8月27日です。


 おかしいでしょう?


 でも、本当なんです。


 8月31日に起きたことを、8月27日のわたしが知ってるんです。


 時間が、もうぐちゃぐちゃです。


 未来の記憶が、過去に流れ込んできます。


 8月31日、夏休みが終わるはずでした。


 カレンダーを見たら、8月31日の次に、9月1日がありました。


 何ヶ月ぶりかに見る、9月の文字でした。


 「やった! 9月が来る!」


 みんな喜びました。


 永遠の8月が、ついに終わるって。


 でも、違いました。


 8月31日の23時59分59秒。


 あと1秒で9月になるとき。


 時計が止まりました。


 そして、逆回転を始めました。


 59分58秒、57秒、56秒...


 時間が巻き戻っていきました。


 8月30日、29日、28日、27日...


 今日に戻ってきました。


 でも、記憶は残ってます。


 8月31日の記憶が、8月27日のわたしの頭にあります。


■カレンダーに9月がない理由


 本当のことを言います。


 カレンダーに、9月はありません。


 最初から、なかったんです。


 8月32日、33日、34日...って続いてるだけじゃなくて、8月31日の次は、8月1日に戻るんです。


 円です。


 8月は、円になってます。


 1日から31日まで行って、また1日に戻る。


 永遠にぐるぐる回る、8月の輪です。


 でも、今回は違いました。


 輪が、ねじれてきたんです。


 8月27日なのに、31日の記憶がある。


 8月15日の人が、8月3日の出来事を体験してる。


 みんなの時間が、バラバラにシャッフルされてます。


 「夏休みは永遠に続く」


 誰かが言いました。


 でも、それは嬉しい声じゃありませんでした。


 疲れた声でした。


 永遠に終わらない夏休みに、みんな疲れてきてます。


■最後の日は最初の日


 今、わかったことがあります。


 8月31日は、最後の日じゃありません。


 8月1日の、前の日です。


 つまり、最後は最初につながってる。


 終わりは、始まりなんです。


 これから起きることも、もう知ってます。


 8月28日、黒田くんの日記が真っ黒になります。


 8月29日、内田さんが白紙の日記を出します。


 8月30日、白井くんも白紙です。


 8月31日、北村くんが最後の一文を書きます。


 「先生、昭和62年の夏休みは、まだ終わっていません」


 そして、9月1日は来ません。


 代わりに、7月21日が来ます。


 山田くんが、また「ぼくの大冒険」を書きます。


 同じ冒険を、何度も何度も。


 でも、少しずつ違います。


 赤い風鈴の位置が、ちょっとずれてたり。


 セミの鳴き声が、違う言葉だったり。


 小さな違いが、積み重なっていきます。


 そして、いつか、大きな違いになります。


 もしかしたら、いつか、本当に9月が来るかもしれません。


 100回目の8月の後に。


 1000回目の8月の後に。


 それとも、永遠に来ないかもしれません。


 今、時計を見ました。


 8月27日の、午後11時59分です。


 もうすぐ、8月28日になります。


 でも、本当は8月31日かもしれません。


 それとも、8月1日かもしれません。


 もう、わかりません。


 ただ、一つだけ確かなことがあります。


 夏休みは、まだ終わっていません。


 これからも、終わりません。


 永遠に、8月の中を回り続けます。


 それが、わたしたちの選んだ道です。


 いや、選ばされた道かもしれません。


 でも、もう、どっちでもいいです。


 永遠の8月を、みんなで生きていきます。


 最後の日は、最初の日。


 終わりは、始まり。


 さようならは、こんにちは。


 また明日、8月■■日に会いましょう。


担任教師の赤ペンコメント:

千秋さん、未来の記おくをありがとう。そう、すべては円。おわりははじまり。あなたの言う通り、わたしたちはこれからも、なんどもこの夏をくりかえすのでしょう。でも、それはぜつぼうだけではない。すこしずつちがう夏を、新しいいみをみつけながら生きていく。そういうことなのですね。またあした、新しい8月であいましょう。

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