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第38話 8月25日 - 篠原美穂「赤い風鈴の音」

■どこからともなく聞こえる音


 きょうも永遠の8月13日です。


 朝から、赤い風鈴の音が聞こえます。


 チリン、チリン。


 でも、うちに風鈴はありません。となりの家にもありません。


 音は、空から聞こえるような、地面から聞こえるような、不思議な響き方でした。


 山田くんが最初に見つけた、あの赤い風鈴の音に似てました。


 学校に行く道で、音が強くなりました。


 チリン、チリン、チリン。


 風は吹いてないのに、音は続いてます。


 みんなも聞こえてるみたいでした。


 「風鈴の音、聞こえる?」


 友だちに聞いたら、みんなうなずきました。


 「朝から鳴ってる」


 「だんだん大きくなってる」


 「何かを知らせてるみたい」


■時間が止まる瞬間


 学校に着いたとき、風鈴の音が急に止まりました。


 シーンと静かになりました。


 風も、音も、すべてが止まったみたいでした。


 そして、時計塔の上に、赤い風鈴が現れました。


 あの日、山田くんが見つけた風鈴と同じものでした。


 ガラスでできてるけど、さわれない風鈴。


 風鈴が、ゆっくりと鳴り始めました。


 チリン...チリン...チリン...


 音に合わせて、世界が止まったり動いたりしました。


 チリンで止まって、次のチリンで動く。


 まるで、風鈴が時間を操ってるみたいでした。


 「これが、すべての始まり」


 だれかが言いました。


 振り返ったら、30年前の子どもたちが立ってました。


 60年前の子どもたちも、90年前の子どもたちも。


 みんな、風鈴を見上げてました。


■それが近づく


 風鈴の音が、メッセージを伝え始めました。


 音の高さや長さで、何かを表現してるみたいでした。


 「ソレガ、クル」


 みんなには、そう聞こえました。


 それって、何?


 「時間の終わり」


 30年前の美穂が言いました。


 わたしと同じ名前、同じ顔の女の子でした。


 「でも、同時に始まり」


 風鈴が激しく鳴りました。


 チリンチリンチリンチリン!


 音に合わせて、空が割れました。


 パリンって、ガラスが割れるみたいに。


 割れた空の向こうに、別の空が見えました。


 青い空、普通の空、8月13日じゃない空。


 「あれが、元の世界?」


 「でも、遠い」


 「手が届かない」


 風鈴の音が、悲しい音に変わりました。


 チリン...チリン...


 まるで、泣いてるみたいでした。


 そして、風鈴に文字が浮かびました。


 「選べ」


 「永遠の8月」か「普通の世界」か。


 「全員一緒」か「バラバラ」か。


 「安全な檻」か「危険な自由」か。


 みんな、風鈴を見つめました。


 選択の時が来たんだと、みんなわかりました。


 でも、まだ決められません。


 だって、どっちも大切だから。


 永遠の8月も、みんなとの時間も、大切。


 でも、普通の世界も、成長することも、大切。


 風鈴が、優しい音を鳴らしました。


 チリン、チリン。


 「まだ、時間はある」


 そう言ってるみたいでした。


 「永遠の中の、一瞬かもしれないけど」


 今、夜です。


 風鈴はまだ時計塔の上で鳴ってます。


 みんな、それぞれの場所で、風鈴の音を聞いてます。


 明日、決めなきゃいけないのかもしれません。


 でも、明日も8月13日です。


 永遠に決められないのかもしれません。


 それとも、もう決まってるのかもしれません。


 風鈴だけが、答えを知ってるみたいです。


 チリン、チリン、チリン。


 「もうすぐ」


 「もうすぐ」


 「もうすぐ」


担任教師の赤ペンコメント:

赤い風りんがしめしたえらぶ道。えいえんか、かぎりがあるか。安全か、きけんか。とてもむずかしいえらびね。でも、美穂さんの言う通り、わたしたちはもうこたえを知っているのかもしれません。だって、わたしたちはもう「ぜんいん一緒」に「安全なおり」の中にいるのだから。ここから、どうやって新しいいみを見つけるか。それが、これからのわたしたちのしゅくだいなのでしょうね。

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