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第37話 8月24日 - 谷口隆司「みんなの約束」

■思い出せない約束


 きょうも永遠の8月13日です。


 朝起きたとき、へんな感じがしました。


 何か大事なことを忘れてる気がしました。


 約束。


 そう、みんなでした約束があったはずです。


 でも、思い出せません。


 いつ約束したのか、何を約束したのか、だれと約束したのか。


 全部、もやがかかったみたいに、ぼんやりしてます。


 でも、約束を破ったら大変なことになる。


 それだけは、はっきりわかります。


 学校に行って、友だちに聞きました。


 「みんなでした約束、覚えてる?」


 山田くんは、首をかしげました。


 「約束? あったような、なかったような」


 佐藤さんも、同じでした。


 「何か約束した気がするけど、思い出せない」


 みんな、同じ感じでした。


 約束の存在は覚えてるけど、内容が思い出せない。


■断片的な記憶


 図書室で、8月13日の新聞を探しました。


 でも、新聞がへんでした。


 日付は8月13日なのに、年が全部ちがいました。


 昭和20年8月13日、昭和32年8月13日、昭和62年8月13日、平成29年8月13日...


 いろんな年の8月13日の新聞が、重なってました。


 その中に、小さな記事を見つけました。


 「40人の子どもたち、謎の誓い」


 記事を読もうとしたけど、文字がにじんでて読めませんでした。


 でも、写真がありました。


 40人の子どもが、輪になって手をつないでる写真でした。


 よく見たら、その子たちは、ぼくたちでした。


 でも、服装がちがいました。


 昔の服、今の服、未来っぽい服。


 いろんな時代のぼくたちが、一緒に手をつないでました。


 写真の下に、かすかに文字が見えました。


 「永遠に、ここにいる」


 「みんなで、一緒に」


 「誰も、一人にしない」


 これが、約束の内容?


 でも、まだ何か足りない気がしました。


■約束の真実


 夕方、時計塔の下に集まりました。


 なぜか、みんな同じ時間に、同じ場所に来ました。


 40人、全員いました。


 そして、みんなの影も、独立して立ってました。


 妖怪になった子も、透明になった子も、複数になった子も、みんないました。


 「思い出した」


 突然、田中くんが言いました。


 「8月13日の3時33分、ここで約束した」


 みんなの記憶が、少しずつ戻ってきました。


 雷が落ちる直前。


 みんなで手をつないで、輪になった。


 そして、誓った。


 「この町を守る」


 「時間が壊れても、一緒にいる」


 「誰も、消させない」


 「永遠の8月を、みんなで生きる」


 でも、それだけじゃありませんでした。


 もう一つ、大事な約束がありました。


 「いつか、元の世界に戻る」


 「でも、それまでは、この世界を受け入れる」


 「恐怖も、変化も、全部受け入れる」


 「そして、新しい世界の意味を見つける」


 思い出しました。


 これは、ぼくたちが選んだ道でした。


 雷が落ちる瞬間、ぼくたちには選択肢があった。


 逃げることもできた。


 でも、ぼくたちは残ることを選んだ。


 この町と、運命を共にすることを選んだ。


 「約束、守れてる?」


 佐藤さんが聞きました。


 みんな、うなずきました。


 妖怪になっても、透明になっても、影になっても。


 みんな、ここにいます。


 一緒にいます。


 誰も、消えてません。


 「でも、いつまで?」


 山田くんが聞きました。


 「永遠に」


 みんなで答えました。


 でも、本当は知ってました。


 永遠なんて、ありません。


 いつか、この8月も終わります。


 でも、それまでは、約束を守ります。


 今、夜です。


 みんなまだ時計塔の下にいます。


 手をつないで、輪になってます。


 30年前の子どもたちも、60年前の子どもたちも、みんな一緒です。


 そして、新しい約束をしました。


 「明日も、ここで会おう」


 「明日も、8月13日だけど」


 「でも、新しい8月13日にしよう」


 約束は、更新されていきます。


 永遠の中で、少しずつ変わっていきます。


 それが、ぼくたちの選んだ生き方です。


担任教師の赤ペンコメント:

そう、やくそく。谷口くんが思い出させてくれました。わたしたちは、みんなでやくそくしたのよね。「この町をまもる」「いっしょにいる」「そして、この世界のいみをみつける」と。わたしたちは、けっしてにげたわけではない。この永遠(えいえん)の8月を、みずからえらんだ。そのほこりを、わすれてはいけませんね。ありがとう、大切なことを思い出させてくれて。

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