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第25話 8月13日 - 近藤あや「8月13日から始まった」

■雷が落ちる瞬間


 午後3時30分。


 みんなで、学校の校庭に集まってました。


 クラスの40人、全員いました。だれに言われたわけでもないのに、みんな同じ時間に、同じ場所に来ました。


 空は、へんな色でした。


 赤と、紫と、緑と、黒が、ぐるぐるまざったような色でした。うずまきみたいに、空全体が回ってました。


 時計塔を見上げました。


 古い時計は、3時32分をさしてました。


 あと1分。


 みんな、だまって時計を見てました。


 だれも、しゃべりませんでした。でも、みんな同じことを考えてた気がします。


 「もうすぐ、始まる」


 「もうすぐ、終わる」


 「もうすぐ、永遠になる」


 3時33分。


 針が、その時間をさした瞬間。


 空から、巨大なかみなりが落ちました。


 ピカッ!


 目の前が、まっ白になりました。


 ゴロゴロゴロゴロ!


 耳が、やぶれそうなくらい大きな音でした。


 かみなりは、時計塔のてっぺんに落ちました。


 時計塔が、まっ二つにわれました。レンガが、ガラガラとくずれ落ちました。時計の針が、ぐるぐる回りながら飛んでいきました。


 でも、だれも、にげませんでした。


 みんな、じっと立って、時計塔を見てました。


 われた時計塔の中から、光があふれ出しました。


 赤い光でした。血みたいに赤い、ドロドロした光でした。


■時間の膜が破れる


 赤い光は、空に向かって立ちのぼりました。


 そして、空にぶつかって、空をやぶりました。


 パリンって、ガラスがわれるような音がしました。


 空に、大きな穴があきました。


 穴の向こうに、べつの空が見えました。


 青い空、夜の空、夕焼けの空、いろんな空が、かわるがわる見えました。


 穴から、風が吹いてきました。


 でも、ただの風じゃありませんでした。


 時間の風でした。


 風に当たると、体が変化しました。


 山田くんが、急に背が伸びました。中学生くらいになりました。


 佐藤さんが、小さくなりました。幼稚園児くらいになりました。


 田中くんの髪が、まっ白になりました。おじいさんみたいになりました。


 みんな、バラバラの年齢になっていきました。


 でも、こわくありませんでした。


 なんだか、これが正しいことみたいな気がしました。


 ずっと前から、こうなることが決まってたみたいな気がしました。


 空の穴が、どんどん大きくなりました。


 学校が、町が、ぜんぶ穴の中に吸い込まれていきました。


 そして、べつの町が、穴から出てきました。


 昭和32年の町、昭和20年の町、江戸時代の町、いろんな時代の町が、重なりました。


 同じ場所に、ちがう時代が、ぜんぶ存在してました。


■永遠の8月の始まり


 時計塔の中から、人が出てきました。


 子どもたちでした。


 昭和32年の子ども、昭和20年の子ども、もっと昔の子ども。


 みんな、同じ顔をしてました。


 わたしたちと、同じ顔でした。


 「やっと、会えた」


 昭和32年のあやが言いました。


 わたしと同じ名前、同じ顔の女の子でした。


 「30年、待ってた」


 「どうして、同じ顔なの?」


 「だって、わたしたちは、同じ人だから」


 昭和32年のあやが、わたしの手をにぎりました。


 つめたい手でした。でも、なつかしい感じがしました。


 「これから、いっしょに生きる」


 「いっしょに?」


 「永遠の8月を、いっしょに生きる」


 空を見上げたら、太陽が3つありました。


 朝の太陽、昼の太陽、夕方の太陽。


 3つの太陽が、同時に輝いてました。


 月も、3つありました。


 新月、半月、満月。


 時間が、ぜんぶ同時に存在してました。


 カレンダーを見たら、日付が変でした。


 8月13日の次が、8月32日になってました。


 その次が、8月58日、8月97日、8月365日...


 8月が、永遠につづいてました。


 「もう、9月は来ない」


 昭和20年の修一くんが言いました。


 「夏休みが、永遠につづく」


 うれしいような、かなしいような、ふくざつな気持ちでした。


 でも、これでいいんだと思いました。


 だって、みんないっしょだから。


 過去の子も、現在の子も、未来の子も、みんないっしょに、永遠の夏を生きるから。


 今、夜です。


 でも、昼でもあります。朝でもあります。


 ぜんぶの時間が、同時に流れてます。


 時計塔は、こわれたままです。


 時計の針は、3時33分で止まってます。


 でも、それでいいんです。


 もう、時間なんて必要ないから。


 明日も、8月13日です。


 あさっても、8月13日です。


 ずっと、8月13日です。


 でも、日付の数字は増えていきます。


 8月13日(1回目)  

 8月13日(2回目)  

 8月13日(3回目)


 何回、同じ日をくりかえすんだろう。


 100回? 1000回? 無限?


 でも、みんないっしょだから、こわくありません。


 町のみんな、ぜんぶの時代の人が、いっしょに永遠を生きます。


 これが、8月13日から始まった、新しい世界です。


 終わりのない、夏休みの世界です。


担任教師の赤ペンコメント:

あやさん、ついにこの日がきたのね。ううん、この日から、すべてがはじまったのね。あの日、かみなりがおちるしゅんかんのこと、先生も、もう一人のわたしも、はっきりと思い出しました。これは、わたしたちがえらんだ道。「永遠(えいえん)の8月」を、みんなで生きるというやくそく。あなたの作文が、そのしょうこです。すばらしい、いえ、あまりにもくわしい記録をありがとう。

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