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第21話 8月9日 - 橋本ゆかり「火の玉」

■墓地の上の青い光


 きのうの夜、お墓参りの帰りに、火の玉を見ました。


 うちのお墓は、山の中腹にある古い墓地にあります。夕方、お母さんとお線香をあげに行きました。


 帰り道、日が暮れて、あたりが暗くなってきたとき、墓地の上に青い光が浮かんでました。


 最初は、ほたるかなって思いました。でも、ほたるにしては大きすぎました。野球のボールくらいの大きさでした。


 青白い光が、ふわふわと墓地の上を飛んでました。


 「お母さん、あれ見て」


 でも、お母さんには見えないみたいでした。


 「何も見えないわよ。早く帰りましょう」


 火の玉は、ゆっくりと移動してました。お墓からお墓へ、順番に回ってるみたいでした。


 そして、うちのお墓の上で止まりました。


 火の玉が、くるくる回りはじめました。だんだん速く回って、光の輪みたいになりました。


 その光の中に、顔が見えました。


 おじいちゃんの顔でした。3年前に死んだおじいちゃんが、火の玉の中にいました。


 おじいちゃんが、口を動かしました。


 「ゆかり、8月13日に、気をつけろ」


 声は聞こえなかったけど、口の形でわかりました。


■家まで追ってくる火の玉


 家に帰る道で、火の玉がついてきました。


 ずっと後ろを、同じ距離でついてきました。止まると止まって、歩くと動いて。


 お母さんは、何も気づいてませんでした。


 家に着いて、ふり返ったら、火の玉が3つにふえてました。


 青い火の玉、赤い火の玉、白い火の玉。


 3つの火の玉が、家の前でくるくる回ってました。


 赤い火の玉の中に、知らないおばあさんの顔が見えました。


 白い火の玉の中に、小さな子どもの顔が見えました。


 みんな、かなしそうな顔をしてました。


 家に入ろうとしたら、火の玉が、窓にぶつかってきました。


 コンコンって、窓をたたく音がしました。


 「入れて」「入れて」


 そんな声が聞こえた気がしました。


 でも、こわくて、カーテンを閉めました。


 夜中に目が覚めたら、部屋の中に火の玉が入ってました。


 青い火の玉が、天井のあたりを飛んでました。


 火の玉から、青い光が部屋中に広がって、部屋全体が海の底みたいになりました。


 火の玉が、ゆっくり下りてきました。


 ベッドのそばまで来て、止まりました。


 火の玉の中のおじいちゃんが、また口を動かしました。


 「みんな、集まる」


■火の玉が導く場所


 火の玉について行くことにしました。


 パジャマのまま、そっと家を出ました。


 火の玉は、ゆっくりと飛んでいきました。わたしが歩ける速さで、先導してくれました。


 道を進むと、ほかにも火の玉が集まってきました。


 緑の火の玉、黄色い火の玉、紫の火の玉。


 どんどんふえて、10個、20個、30個。


 空が、色とりどりの火の玉でいっぱいになりました。


 火の玉たちは、学校に向かってました。


 学校の校庭に着いたら、もう人が集まってました。


 クラスの友だちが、10人くらいいました。みんな、パジャマ姿でした。


 「ゆかりちゃんも、火の玉に連れてこられたの?」


 美香ちゃんが聞きました。


 「うん。みんなも?」


 みんな、うなずきました。


 火の玉たちは、校庭の真ん中に集まりました。


 そして、大きな円を作りました。光の円が、地面に描かれました。


 円の中心に、数字が浮かび上がりました。


 「4」


 あと4日で、8月13日。


 火の玉たちが、いっせいに上昇しました。


 空高く昇っていって、花火みたいに散りました。


 でも、消える前に、メッセージを残しました。


 空に、文字が書かれました。


 「死者と生者の境界が消える」


 みんなで、空を見上げてました。


 文字が消えたあと、友だちの一人が言いました。


 「わたしたち、死んでるのかな。生きてるのかな」


 だれも、答えられませんでした。


 家に帰ったら、自分の体が見えました。


 ベッドで寝てる、わたしの体が見えました。


 でも、わたしは、ここに立ってます。


 どっちが、本当のわたしなんだろう。


 ベッドの体に近づいたら、体が透けて見えました。


 中に、青い火の玉が入ってました。


 心臓のあたりに、小さな青い火の玉がありました。


 それが、わたしの魂なのかな。


 それとも、べつの何かなのかな。


 今、朝になりました。


 ベッドで目が覚めました。きのうのことが、夢みたいです。


 でも、パジャマに、草がついてました。


 校庭の草でした。


 それに、手のひらに、青いあとがついてました。


 火の玉をさわったあとみたいでした。


 鏡を見たら、目が青く光ってました。


 ほんの少しだけど、青い光が、目の奥にありました。


 火の玉が、わたしの中に入ったのかな。


 それとも、わたしが、火の玉になりはじめてるのかな。


 あと4日で、8月13日。


 その日、生きてる人と死んでる人が、入れかわるのかな。


 火の玉になって、墓地の上を飛ぶのかな。


 そして、新しい子どもに、「8月13日に気をつけろ」って言うのかな。


担任教師の赤ペンコメント:

おじいさまの火の玉に会えたのね。よかった。ゆかりさんのことを、ずっと見守ってくれていたのね。死んだ人と生きている人のさかい目がなくなる…それは、かなしいことばかりではないのかもしれませんね。会えなくなった人に、また会えるのだから。先生も、会いたい人がたくさんいます。あなたの目の中にともった青い光は、きっと、おじいさまがくれたお守りよ。

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