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魔断の剣1 碧翠眼の退魔師  作者: 46(shiro)
第7章 邪妖の宴

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第7回

「おい! 大丈夫か!?」


 エセルの腕の中で目を見開いたまま硬直していたセオドアの萎えていた手が、ゆっくりと彼の袖をつかむ。


「あ……あ。だいじょうぶだ……」


 力も感情もない、ただの棒読みになってしまっていることにも気付かない様子でセオドアは目を閉じる。

 エセルの


「何を視た?」


 との問いに、セオドアは答えようとしなかった。

 セオドア自身、それはいまだつかみかねるイメージだったからだ。


 今はただ、自分の理解の度合いをはるかに上回っていたことに、じんじんと痛むこめかみに手をあてる。


 いきなり、だった。いや、来ると用心し、構えてもいたのだが、息を吐いて吸う、その、ほんのわずかな隙をついて、強引に入りこまれてしまったのだ。

 あまりに突然すぎて、対応しきれなかった。乱暴でもあったし、何より量が多すぎた……。


 しかし、あれは何だったんだ? 与えられた情報の整理に重点をおき、フル回転しようとする頭の注意を強引に結論へと向けさせる。


 ほんの一瞬だったが、視えたことは視えた。確かに。でも、あり得ない。こんなのは、1度も聞いたことがない!


「……見間違いだ。あくまでもイメージだし、取り違えたんだ。そうに決まっている。

 あんなもの、この世にあるはずがない。あるはずがないんだ……」

「おいこら。何を言ってる? 一体どうしたんだ」


 腕の中、まるきり自分の存在を無視して1人考えこんではぶつぶつとつぶやいているセオドアの、その危ういほどあざやかな碧翠色した瞳がようやく自分の姿を映したと思った途端。セオドアはむくりと上体を起こした。


「セオドア?」


 もう1度視よう。

 さっき視たものが真実か、はっきり確かめなくては。


 壁へと手を伸ばす。

 その横を、目もくらむばかりの白い閃光が衝撃となって貫いたのは、次の瞬間だった。




 庇って手を伸ばしたエセルの体ごと、声を上げる暇もなく、もの凄い勢いですぐ横の壁へと全身を叩きつけられる。


 押しつけてくる風圧、それ自体が襲う力であるかのように壁の2人を翻弄する。床に落ちていた宝石が鋭利な刃物と化し、柔な肌を容赦なくえぐった。


 まっすぐ光の貫いた、小部屋の入り口の正面にある壁が宝物の並んでいた棚ごと吹き飛んで、大きな黒い穴を開けているのが見える。

 もうもうと天井まで立ちこめる粉塵の中、場所にしてちょうど部屋の中央辺り。人の形をした影のように見えたそれが、怒りに身を白く輝かせた漣であると分かったとき。セオドアは、竜心珠の結界すら短時間の足止めにしかならなかったことに、心底から戦慄した。


「おのれ……下劣な、たかが人間ふぜいが、この私を(あざむ)こうなどと……。

 私に、このような屈辱を……ええい、許さん!!」


 告げる声、口調。全身から噴き出す力全てが先までのものとはまるで違っている。

 余裕綽々、自分達を無能力者と見下して、常に口の()に浮かべていた嘲りは、もうどこからみ見つけられない。


 それだけに、分かるのだ。自分へと向ける漣の、凄絶な憎悪が。


 笑みを完全に消し去り、屈辱に堪えるように強く噛みしめられた口元。激しい感情が濃く渦巻き、煮えたぎった闇の目がセオドアをとらえる。

 それだけで、恐怖にこの場に打ちひしがれそうになる。


 必死にそれを隠そうとするセオドアに、ぎらぎらと照り返った目を向けて、漣は熱く告げた。


「きさま! 私を倒そうなどと、およそ身のほどをわきまえぬ愚行であったと今こそさとり、わが力の前に消え去るがいい!!

 その身を形成する細胞一片に至るまで赦しはしない!

 ……おお、赦すものか。私をあのような目にあわせたその(むく)いとして、おまえなど極限の苦痛に醜く喘ぎ、苦しみぬいて死ぬがいいのだ!!」


 猛々しい宣告とともに、セオドアを捉えた漣の両眼が強く見開かれる。

 その鬼気迫る迫力の中、憎悪を塗り固めたかのごとき途方もない力を感じ取った刹那。


 せき止められていた巨大なものが一気に噴出したように漣の全身が純白に強く輝き――次の刹那、周囲は一瞬で、何物をも凍らせる凍気のみが支配する空間へとその容貌を変えたのだった。

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