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魔断の剣1 碧翠眼の退魔師  作者: 46(shiro)
第1章 幻 聖 宮

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第10回

 その夜、セオドアはなかなか寝つけずにいた。


 消灯の時間がきて、とりあえず寝台にもぐりこみはしたものの、冴えた目では閉じていることさえ苦痛で、じっと暗い天井を見据える。


 なんとまあ、驚きの続く1日だったことか。

 おかげで今日は丸一日、調子がガタガタだった。朝の一件を思い出すたびに失敗の連続で、なのにまともな言い訳もできずに教え長たちからいら立ちと不評を買う始末だ。


 今日に限らずいつものこと、とはいえ、そう思われることを望んでいるわけではない。

 一番良い方法を取ろうと彼女なりに気を配ってはいるのだが、どうもそれは彼らの求めるものとは違っているらしく、必ずどこかにズレが生じてしまうのだ。


 それは、うまく相手の意向を汲み取ることができない自分が悪いのだ、とは思う。


 今日の失敗も、体の調子が今ひとつで、とか何とか軽い嘘をついて苦笑いの一つも見せれば雰囲気も和み、気にするなとだれもが口にしただろうが、それをその場で思いつくことができず、結果、沈黙したセオドアと他の者たちとの関係は、さらに悪化の一途をたどるわけだ。


 せめて諦め、誤解されようが陰で何を噂されようが関係ないと、割り切って考えられればまだマシなのだが、そこまで思い切れず、言いようのない、真っ黒な自己嫌悪が胸に重く澱む。


 マシュウにはなれない。


 つくづく思う。

 彼女は華やかで、いつだって自信にあふれていて、どんなときもたくさんの人に囲まれている。

 今日だって、あれだけのやりとりをしながらプレッシャーも感じずに平然といつものように振る舞える強さを持っている。


 おそらくこの感応式の持つ意味も、聡明な彼女はとっくに悟っていたに違いない。

 感応すれば間違いなく大国フライアルの王都の退魔師になれる、というのも、考えてみれば、どこの国のどんな場所へ赴任させられるかも分からない補充組にとっては、おそろしく魅力的な話だ。


 きっとあさっての感応式でも、彼女は平然と、そして当然のように感応してしまうのだろう。


 蒼駕は自信を持たせてくれようとしてくれたが……こんな自分に、どうやって自信を持てというのだ。そんなもの、この2年の間に粉々に砕けて穴の中、だ。上から土までかけて、ときおり花でもそなえてやれば慰められる……そんな、とうに化石化したものを掘り起こすことなどできるわけがない。


 あのときは蒼駕の言葉に勇気付けられはしたものの、やはりあれは親が持つ、子に対する過剰な期待とかいうものと同じで、なんら根拠のないものだと思うし……自分を可哀想に思うあまり、こればかりは普段聡明な蒼駕も判断を狂わせてしまったんじゃないだろうか?


 蒼駕の言葉を信じたい気持ちと、そんなことはありえないという思いが交互に襲ってきて、とても心穏やかにはいられない。


 できることなら逃げ出したい。あさってという日が怖くて、心の底から恐しくて、考えるだけで震えがくる。

 こんなこと、1度もなかった。怖くて、恐ろしくて、そして少しだけ期待して、喜んでいる自分……。


 セオドアは寝返りを打つと、横になる前に枕元に置いておいたそれに、そっと指を這わせた。


 青藍色の盛装衣。そして聖布(せいふ)

 当日着るように、とやはり蒼駕から手渡されたものだ。


『それも悪くはないけれど、2年前のものだからやはりサイズが少し合っていないようだね。作りも幼くて地味だし、色のほうも君の瞳と比べてちょっと()せているようだ。

 これを着てみなさい』


 そうして渡されたこの盛装衣は、体のラインを強調するような今風のデザインだった。

 背ばかり伸びて、胸と尻は今ひとつ未発達の、決して女らしい体をしているとは言い難いセオドアにはコンプレックスを刺激されるような服なのだが、左胸を中心にすえて同色の糸で保護呪が織りこまれた模様が刺繍されているだけの、華やかな飾りといったものが一切ないところは前と同じで、その落ち着いた色合いも好みだ。


 それとも、蒼駕は気付いているのだろうか? この色が、もっとも自分の瞳の色に近いものであると。


 母の形見の他に、これを渡したかったのもあったのだろうと思う。朝、あの服を出したものの、駄目だったときを考えてこの服を渡そうと、自分に来るように言ったのかも……。


 その他にも、何かあるような気がするが、機を逃してしまった以上、もう蒼駕から言ってはくれないだろう。あの人はどうも物事がスムーズに運ばないと、それは最初から縁がなくて、天神が必要ないことだと言っているのだとしてすっぱり諦めてしまうようなところがあるから……。


 事実、あのあと彼から何も言葉はなかった。それはつまり、宮母との話の前に必要だったことなのだろう。けれどできなかったということは、もうそれを詮索するのはいけないことのような気がする。


 誰よりも大切な蒼駕……。


 朝、平気で年ごろの娘の部屋に入って寝ているのを起こすなどという行動に表れているとおり、彼の中には前操主から託された娘という、被保護者に対する慈しみ以上のものはないと分かっていても、やはり彼が自分と組んでくれたらと思わずにいられない。


 もっとも、こればかりは魔導杖との相性も関係することで、自分一人で選べることではないが、それでもこの気持ちは少しは作用するはずだと思いたい。

 せっかく申し出てくれた他の3人には悪いけれど、蒼駕以上の存在はどこにもいないのだから……。


 ああ、本当にそうなればいいのに……。


 そう、心の底から強く願い、昼のマシュウとの意味深気な視線のやり取りを無理やり思考の向こうに押しやりながら、枕元の服を抱き寄せた瞬間――。


 セオドアは、何者かに強く呼ばれた気がして身を起こすと、周囲を見回した。

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