暴れる者、支える者、備える者
目の前に立ちはだかるモンスターを蹴散らしながら、どんどん階層を下っていく。
ダンジョンに突入を開始してからまだ一時間足らず。
にも関わらず、俺たちはもう既に十層を突破するどころか、もう十五層に到達しようとしていた。
後ろ脚の筋だけを槍で斬られ、動けなくなった魔獣の群れを躱し、毒沼と化した平原を駆け抜ける。
——凄えな、綺麗に機動力だけ奪ってる。
隊を先導する征士郎さんの戦闘技術の高さに、思わず感嘆させられる。
俺たちが少人数でここまで速い進撃を可能としているのには、当然ながら幾つかの要因があった。
まず一つ——戦闘を最小限に抑える為、戦う対象は前方にいるモンスターのみに絞り、撃破ではなく行動不能にすることを優先している。
おかげでほぼノンストップでダンジョンを突き進むことが出来ている。
……つっても、言うは易く行うは難し。
そんなやり方が通用するなら、最難関ダンジョンなどと呼ばれてない。
机上論とも言うべき強攻策を実現可能にしていたのは、征士郎さんの桁外れな戦闘能力があってこそに他ならない。
阿南さんと二人で前衛に立っているが、実質的にモンスターと戦っているのは、征士郎さんだけだ。
けれど、別に阿南さんが動いていないわけではない。
征士郎さんがたった一人で全て片付けてしまっているからだ。
モンスターの動作を完全に見切り、巧みに槍を操ることで、あっという間に場を制圧し進路を見出す。
繰り出す槍術は、まさに絶技——陸奥森征士郎をSランク冒険者たらしめる所以が十全に示されていた。
しかし、だ。
この快進撃は、征士郎さんの無双だけで成り立っているわけではない。
征士郎さんの死角をカバーする阿南さんの献身的なサポート、それから中衛の二人——天頼と二階堂さんの術式による支援によるものが大きい。
そして、それが二つ目の要因でもあった。
「征士郎さん、阿南さん! 今、道を作ります! ——壁巌!」
天頼が地属性の術式で、進路上にある毒沼を渡る為の足場を生み出し、直線で進めるようにする傍ら、
「——フラッシュ・バン。ブラインド・ヘイズ」
二階堂さんは、左右から迫り来るモンスターに向かって光の爆弾と暗闇の靄を放つ。
光の爆弾がモンスターの眼前で炸裂すると、強烈な閃光と爆音で視界と聴力を麻痺させ、霧散する暗闇がモンスターに纏わり付き、動きを大きく鈍らせる。
「すげ……!」
魔力の消費を抑える為、どちらも使っている術式は初歩的なものであり、やっていることは進路の確保と敵の一時的な足止めだ。
だから未だにモンスターは一体も撃破できないでいるが、それでも役割は十二分に果たせていた。
アウトブレイクの影響で、ダンジョン内も大量発生したモンスターで溢れかえっている。
そのせいで階層を突っ切るのは、敵の大軍のど真ん中に飛び込むのと同義と言っても過言じゃない。
幾ら前方にいるモンスターとの戦闘のみに留めるといっても、四方から攻められることになる。
けれど、二人の援護のおかげで、征士郎さんは目の前の敵にだけ集中できていた。
自分が前に出ればエースアタッカー、後ろに回れば名サポーター。
——本当に汎用性に優れたスキルだよな、属性魔術ってやつは。
勿論、二人の実力があっての話ではあるけど。
とまあ、こんな感じで大群を貫いて奥へ進んでいるわけだが、前で活躍している四人と比べると、俺と東仙さんの出番は本当に少ない。
俺は一応、天頼と二階堂さんが唯一対処できないダークネスカオススライム系統のモンスターを狩る役目があるが、東仙さんの場合、降下の際に術式を発動させた後は、身体強化にしか魔力を使っていないというが現状だった。
だけど……これで構わない。
そもそも、こうやって俺たちが力を尽くしているのは、東仙さんの魔力を少しでも温存させるためなのだから。
今回のダンジョン突入における俺たちの総大将は、紛れもなく東仙さんだ。
全員が消耗した状態で下手に囲って戦うよりも、万全の状態の東仙さんがタイマンを挑んだ方が勝率が高い。
なので、東仙さんに何も役割が回ってこないというのは、俺たちが順調に作戦を進められている証拠でもあった。
(——それにしても……遠隔斬撃が拡張した場合の能力ってなんだ?)
周囲を警戒しつつも、俺は思考を回す。
俺のスキル——遠隔斬撃について。
前の四人が奮闘してくれているおかげで、そうするだけの余裕があった。
東仙さんは、こう表現していたな。
親父が拡張した遠隔斬撃は、必殺の斬撃——不可避の一太刀だ、と。
(……何をどうしたらそうなるってんだ)
仮にも何年も使い込んできた自分のスキルだからこそ、確信を持って言える。
不可避の一太刀なんて、まず放てない。
放てるわけがない。
だが、親父はそれをやってのけた。
必中の一撃に昇華してみせた。
じゃあ、親父はどうやって斬撃を対象まで伝播させた——?
はっきり言って、答えが見つかる気配はない。
それでも直感がうるさいくらいに告げる。
蛇島の元へ辿り着くまでに、遠隔斬撃を拡張させろ、と。
その為に思考を止めることなく、俺はダンジョンを突き進む。




