大混乱
「発生したモンスターは、既に三千体を突破!! 現在進行形で数を増やしながら四方に散りつつ、先に出現したモンスターを足場にしたりして海岸に押し寄せている模様です! 恐らく、一時間もすれば上陸する見込みとのこと! それから飛行可能な種に至っては、既に陸上区域にまで到達し、戦闘が発生しているようです!」
「至急、近くの支部の人間を応援を向かわせろ!! 一匹たりともモンスターは生きて通すな!!」
「東京、神奈川、千葉、それから埼玉にいる全てのBランク冒険者……それとCランク以上の成人冒険者全てに出動要請をかけろ! 急げ!!」
「はあ!? 東京湾全体を結界で覆え、だと!? 馬鹿言うな! 現実的に考えて、そんなの出来るわけがないだろ!! 危険区域を覆うだけでも、十数人がかりで限界ギリギリなんだっつーの!!」
「代わりにアクアラインに沿うようにして防壁型結界を展開させると伝えておけ。東京湾全体を覆うのは無理にしても、結界術士を総動員すれば、直線十五キロならまだどうにかなる。モンスターが太平洋へ進出することを絶対に阻止したいのは、我々とて同じ考えだ」
「アクアラインより内側にある海浜公園や空港、埋立地に防衛拠点を設置する。場合によっては、長期戦になることも十二分に考えられる。二十四時間体制でモンスターの迎撃をできる体制を整えるんだ」
「海岸沿いの市区町村に避難警報を! 万が一に防衛線を突破され、市街地に流れ込みでもしたら、十年前の悲劇がまた繰り返されるぞ!」
「防衛ラインは東京方面を優先して固めろ! 千葉はモンスターが押し寄せそうな地点から順々に対策していけばいい!」
「遠距離攻撃が可能な冒険者を優先して現地に送るんだ。まずは侵攻速度を少しでも遅らせる。同時に警察、消防、自衛隊とも連携を取って、くれぐれも冒険者達の移動を滞らせるな」
「それより、ダンジョン内に突入する人員編成はどうする!? 中にある凝魔結晶を破壊しない限り、アウトブレイクは終息しないのだぞ!」
「少数精鋭にしろ大規模編成にするにしろ、まずは陸奥森征士郎を呼べ! 迅速に八十七層に向かうのであれば奴の力は不可欠だ! それと東仙に連絡を取って近くの支部に向かわせろ! まず奴がいなければ、蛇島は止められんぞ!」
* * *
蛇島の配信が終わってから十五分後。
この僅かな時間で都市部は、かつてないほどの混乱状態に陥っていた。
陸空海全ての交通機関が麻痺し、あちこちの道路で渋滞が発生。
SNSではトレンド上位はアウトブレイク関連の情報で埋め尽くされ、湾岸周辺を中心として、多くの人々が一斉に家族や友人の安否確認をしようとした為に、通信障害が引き起こされてしまっているという。
加えてフェイクニュースやデマ情報まで氾濫、交錯し、正確な現地の情報が入手し難くなっているというおまけ付きだ。
この感じだと恐らく、実際にこの目で確認しない限りは、ちゃんとした状況を把握できそうにないな。
「ボス、あとどれくらいで着きそうっすか!?」
「もうすぐだ。車を降りたら、すぐに屋上に向かえ。そこで輸送ヘリが待機しているはずだから、鋼理と四葉はそれに搭乗して現地に急行しろ」
「うす……!」
「分かりました!」
俺と天頼の声が重なる。
すると、ボスは俺をちらりと視線をやりながら、申し訳なさそうに、
「……悪いな、鋼理。病み上がりのお前を出させてしまって」
「気にしないでください。戦うことを決めたのは、俺自身の意志っすから。寧ろ、こうも早くリベンジするチャンスが来て嬉しいくらいなんで」
言って、俺は目線を下に落とす。
装いが制服から探索用のものへと変わっている。
ボスが万が一の状況に備えて、車の中に用意していたものだ。
おろしたての探索衣装——と言っても、大体は前のと一緒だけど。
変更点を挙げるとすれば、フードが外付けではなく一体型になったのと、顔を隠すアイテムが襟巻きからマスクになった二点か。
——にしても、よくこんなマスク見つけられたな。
装着したマスクを指先で触れながら、密かに思う。
顔半分をすっぽりと覆う何かの金属で作られたマスクは、触った感じは結構頑丈そうだったが、見た目に反してかなり軽い上に付け心地もそんなに悪くない。
呼吸も問題なくできるから、戦闘に悪影響を及ぼすこともないだろう。
蛇島、待ってろよ。
国内最長のダンジョンだろうが、前人未到の階層だろうが関係ねえ。
地の果てまで追いかけて、この身諸共——地獄に引き摺り下ろしてやるからよ。
それから数十秒後、冒険者組合支部の門を潜り、ビルの前で車が止まった。
停車するや否や、俺と天頼は飛び出すように車を降りる。
天頼も俺と同様、探索用の衣装に着替えてある。
こっちはボスに頼まれた水森が用意していたものらしい。
「剣城くん、行こう!」
「ああ……!」
建物に向かって駆け出そうとした時、
「四葉、剣城!!」
車の中で待機する水森が大きな声で呼びかけてくる。
「……どうか、無事に帰ってきて」
浮かない面持ちで祈るように言う水森。
そんな彼女を天頼は、優しく抱きしめて、
「大丈夫だよ、陽乃。私も、剣城くんも絶対に帰ってくるから」
「四葉……」
「それじゃ、行ってくるね」
そして、天頼が車から降りたのを確認してから、今度こそビルへと走り出した。




