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信頼と信用

 他の冒険者の戦闘に割り込むのが良くないってだけで、複数人でチームみたいなのを組んでダンジョン探索すること自体はそう珍しいことではない。

 というか冒険者組合としては、寧ろ複数人での探索を推奨しているくらいだ。


 そうした方が単純に戦力が上がるし、生存率も高くなるからな。

 俺だって出来るものなら一人で潜らず、誰かと組みたいとは常々思っている。

 問題は一緒にダンジョンに潜ってくれるような間柄の人間が皆無ということだ。


 まず前提として冒険者になるには、保有魔力量や術式、スキルの有無といったある程度の素養が必要だ。

 だから、友人同士で冒険者の試験を受けた結果、自分だけしか冒険者になれなかったってケースも少なくないし、そういった人間は、一緒にダンジョン探索する仲間を見つけるまでの間だけ上層に分類されるような浅い階層に潜ることが多い。

 上層なら出てくるモンスターは一人でも倒せる程度の奴らばかりだし、比較的周りに他の人もいるおかげでピンチになっても助けてくれる可能性が高いからだ。


 ……って、そんなことは今はどうだっていい。


「お前……それ、マジで言ってんの?」


 急展開する話に俺は困惑する。

 恐る恐る訊ねれば、


「うん、本気だよ」


 天頼は即答する。


「私は……君と真面目にバディを組みたいと思っているのです」


 ……いや、普通に意味が分からん。

 どう考えたって俺なんかと組むメリットなんざ向こうには無いだろ。


「天頼ほどの冒険者が誘ってくれることは光栄だけど……なんで? 俺、Eランクなんだぞ。Aランクのお前とじゃ実力が釣り合わないだろ」


「ランクとか実力は関係ないよ」


 頭を振って、天頼は、


「わたしがきみと組みたいのは、きみが最も信頼できて、信用できそうだから」


「……え、それだけ?」


「うん。他にも理由はあるけど、それが一番。”信頼と信用”がとっても大事だってことは、剣城くんも知ってるよね?」


「そりゃ、な」


 ダンジョンゲート同様、それも講習会で習ったことだからな。

 冒険者にとっては一般常識だ。


 ダンジョン探索中に起こることは全て自己責任だ。

 例え裏切りや謀略によって命を落とすことになったとしても。

 だからそうならないよう、冒険者がチームを組む際の合言葉として用いられるのが”信頼と信用”だ。


 どんな状況でも互いに背中を預けられる信頼。

 コイツは絶対に自分を裏切らないという信用。


 ”信頼と信用”の形はなんだっていい。

 友情や絆、恩義に筋、金と契約に基づくもの——なんであれ、そういった類のものが築けなければ、ソロで潜った方が断然マシだ。

 おかげで余計にぼっちが加速しているわけで——いや、俺の話はよそう。


 無論、冒険者としての実力の有無や性格、戦闘スタイルの噛み合わせとかも滅茶苦茶大事な要素ではあるが、いずれも”信頼と信用”以上に優先されることはない。


 ——だからこそ、余計に分からなくなる。


「……俺のどこに”信頼と信用”要素があんの?」


「へえ、そういうこと女の子の口から言わせちゃうんだ」


「真面目に答えてくれ」


 真剣に訊ねれば、天頼は柔らかく微笑みながら、


「……簡単なことだよ。君は、わたしを助けてくれた。あれだけ遠く離れた場所から、何の見返りも求めることなく。多分その時の君は、自分の身を守るだけでも精一杯だったはずなのに。だから思ったんだ。剣城くんは、損得を無視して人を助けることができる人なんだって。——それが、わたしが君を信じられる理由」


 なんか妙に過剰評価を受けている気がするが、一応ちゃんとした理由はあるみたいだ。

 それはそうと、こうも面と向かって言われるとちょい照れるな……。


「そんな剣城くんだからこそ、バディを組みたいんだ。それに……剣城くんって、わたしのことにあまり興味もなさそうだし、それも丁度いいなって」


「ん、興味ないって、どういう……?」


「あ、悪い意味じゃないよ。良い意味で! だって、わたしに興味があったらわざわざ嘘ついてまで関わらないようにしないでしょ」


 くすくすと天頼は笑いながら言う。


「……悪かったな」


「ううん、いいよ。全然気にしてないから。それにおかげで面白いものも見れたし。ね、ちゅるぎくん?」


「そっちはどうか忘れてくれ……マジで」


 あの噛みまくり&きょどりまくりの大根芝居は、人生最大の黒歴史確定だ。

 出来ることなら今すぐに記憶から消し去りたいし、天頼にも忘れてもらいたい。


「……まあ、いいや。そっちの事情は大体分かった。ところで……俺をこんな所まで連れてきたのは、この話が関係してるのか?」


 バディを組んで欲しいって提案するだけなら、別に家の前でも良かったはずだ。

 なのになんでわざわざ警戒区域なんかに向かっているんだ?


 ……やっぱり、美人局なのか?


「剣城くん、何か失礼なこと考えてない?」


「……いいや、特に、何も」


 顔を逸らしながら答えると、天頼はじっと胡乱な眼差しを向けていたが、


「きみに来て貰ったのは、わたしの事務所に案内したいからだよ。ボスがきみにお礼をしたいんだって」


「俺にお礼……?」


「うん、詳しくは聞いてないんだけど、渡したいものがあるとか言ってたよ」


「ふーん」


 それから警戒区域内に足を踏み入れ、しばらく歩き続けた後、


「もうちょっとで着くよ。ほら、あそこがわたしの事務所」


 天頼が前方に見える三階建てのビルを指差した。

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