発覚する事実
貫かれた左肩に灼けるような激痛が走る。
少し遅れて、強い悪寒に見舞われ、全身から大量の汗が噴き出した。
「ぐっ……があああっ!!」
「SA!!」
「だ、大丈夫っす!! それよりも鬼垣を!!」
叫びながら俺は、傷口に過剰なまでの魔力を全力全開で流し込む。
こんなことをしたって解毒は出来ないし、そもそも意味があるかも分からないが、少しでも全身に毒が回るのを抑えたい一心での行動だった。
「クソッ!」
一瞬だけ俺に視線を飛ばした海良さんだったが、すぐに意識を鬼垣に戻す。
——が、このほんの僅かな隙が致命的となる。
蛇島が海良さんのすぐ目の前まで肉薄していたからだ。
「なっ……!?」
「余所見はいけませんね。この程度の距離、すぐに詰めれますよ」
海良さんが拳銃を向け迎撃しようとするも、それよりも早く蛇島の回し蹴りが飛んでくる。
結果、蛇島の右足が海良さんの頭部に叩き込まれる。
「が、は!」
攻撃をもろに喰らい、海良さんが勢いよく吹っ飛ばされていく。
その最中、海良さんは俺に空いた左手を向ける。
「——凪の羽衣」
術式が発動すると同時、完全の無音に包まれる。
今のは、周囲の音を俺に聞こえなくするものだ。
——海良さん、アンタ一体何をするつもりだ……!!
何度も床を転がり、倒れ込んだ海良さんは、ニヤリと唇を吊り上げると拳銃を天井に向けると、何かを呟いて引き金を引く。
刹那、手にしていた拳銃が自壊し、消音の術式を貫通する程の轟音と共に銃口から放たれた強烈な衝撃波が天井を穿った。
直後、俺に施された術式が解かれる。
海良さんは、力無く腕を床に落とすと、そのままぱたりと動かなくなった。
「海良さん!!」
「まだ死んではいませんよ。気を失っただけです。尤も、これ程魔力が充満している空間の中を無防備な状態で眠るのはかなり危険ではありますがね」
「くっ……蛇島ぁ!!」
どうにか力を振り絞り、蛇島に斬り掛かる。
振るった大小の刀は蛇島を両断するも、肉体を毒液化することでいなされてしまう。
——やっぱ実体を捉えられねえか……!
それでも即座に次の斬撃を繰り出そうと試みるも、
「——オ゛ェ゛ッ!」
急に立てなくなり、喉を不快な何か逆流する。
吐き出されたのは、ドス黒い血の塊だった。
「ハァ、ハッ……なんだよ、これ……!?」
「混入した毒が内側から肉体を破壊しているのです。象でも数十秒あれば死に至りますよ。……ですが、咄嗟に傷口周りへ過剰な魔力を流し込んだおかげでかなり進行を抑えられていますね。見事な判断です」
何を呑気に……!!
怒りを込めて睨め付けるも、蛇島は全く意に介することなく俺を見下ろしてくる。
「とはいえ、その状態を維持するのも大変でしょう。魔力による肉体強化を止めればすぐ楽になれますよ」
「だ、誰が……やるか、よ……ガハッ!!」
「強情ですね。しかし、嫌いではないですよ。あなたの父親も最期まで諦めようとはしなかった。本当に最後の最後まで……だからこそ、壊し甲斐があったものです」
——コイツ、さっきから何を言ってんだ……?
親子とか父親とか……まさか、気づいてんのか……!?
ハッと目を見開いた瞬間だった。
「てめえ、さっきはよくもやりやがったな!!」
拘束から解放された鬼垣に思いっきり顔面を蹴り上げられた。
「がっ、は!」
ちょっとだけ隠れていた視界が急に開ける。
蹴られた勢いで被っていたフードが外れたからだ。
そのまま仰向けに倒れると、
「オラッ! ふざけやがって! コイツはさっきのお返しだ! たーんと喰らい、やがれっ!!」
鬼垣に何度も顔を踏みつけられる。
抵抗しようにも毒のせいでまともに身動きがとれず、無防備なまま好き勝手に蹴られ続ける。
——チッ、毒さえなきゃ……!!
だが、俺の顔を見て何かに気づいたのか、ぴたりと蹴りが止んだ。
そして、鬼垣は俺をまじまじと見つめながら、
「お前……前に転移罠に引っかかったのに、そのまま上手く逃げ切ったガキじゃねえか。噂のSAの正体ってお前だったのかよ」
「おや、鬼垣さん。気づいてなかったのですか。そうですよ、あの時まんまと逃げた少年こそがサイレンスアサシンの正体です」
……知っていたのかよ。
あとやっぱ俺が転移罠を踏んだのは、コイツらに仕組まれてのことだったのか。
何となく予想は付いてたけどさ。
すると、鬼垣はぷるぷると肩を震わして呟く。
——嬉しいねえ、と。
「コイツとあの配信者のせいで、折角の魔力供給源を四つ取り逃しちまってよ……あれ以来、ずっと、ずーっとむしゃくしゃしてたんだ! てめえのせいで計画が大幅に遅れちまったじゃねえか!!」
「うぐっ……!!」
鬼垣は呼吸を荒くして目を血走らせると、更に鋭い蹴りを俺に浴びせてくる。
あまりにも頭ばかり執拗に蹴りつけてくるせいで意識が飛びそうになる。
——堪えろ、気を失ったら速攻で死ぬぞ!!
必死に自分に言い聞かせ、持っている魔力をありったけ肉体強化に注ぎ込み鬼垣の攻撃に耐えるも、それでもだんだんと意識が遠のき始める。
そして、遂に死を直感した時だった。
「——鬼垣さん、そこまでです。あなたの怒りたい気持ちも分かりますが、死ぬ前に彼には伝えておかねばならないことがあるので。その憤り、どうかお収めください」
「……チッ、分かったよ」
「ありがとうございます」
不服そうにしながらも鬼垣は、俺への攻撃を中断し、一歩下がる。
傍らで蛇島は、相変わらず柔和な笑みを浮かべて俺の眼前に移動する。
「な……なん、だ……よ」
「何、大したことではありませんよ。ですが、何も知らずに逝ってしまうのは可哀想だと思いまして」
言うと、蛇島は俺が持つ打刀と脇差それぞれを一瞥する。
「……そういえば、その二刀は龍谷が預かってましたね。偶然とはいえ、これも因果と言うべきか。いやはや、懐かしいものです」
「何、を……?」
「一つ面白い事をお教えしましょう。あなたが今手にしている刀に関することです」
勿体振るようにして、蛇島は言う。
「その大小の刀は、昔ある冒険者が使っていた物です。その人物は地を這い、どこまでも対象を追い続ける斬撃を飛ばすスキルをお持ちでした。そして彼は、そのスキルを極めた結果、冒険者組合の中で最強の証である”組合筆頭”の称号を手に入れた」
「……っ!? おい、ま、さか……!!」
「その刀は、先の大災害で帰らぬ人となった先代組合筆頭——岩代銀仁の愛刀です。そして、岩代銀仁は——私がこの手で殺しました」




