変わらぬ日常の中で
アウトブレイクは、特に大きな被害を出すことなく無事に終息した。
一夜明けた今も尚、代々木ダンジョンは危険区域を含めて封鎖されているが、あと二、三日もすれば開放されるようになるだろう。
つっても、関係あるのはそこに用がある低ランク冒険者だけで、一般人からすればただお触れが回っただけなんだろうけど。
普通の人は、まず危険区域に近寄りすらしないからな。
そんなことよりも大衆の興味はというと、昨日の防衛戦に向けられていた。
「昨日のそらっちの配信見たか!?」
「当然、四葉ちゃんと二窓でばっちり見てたぜ!!」
「だよな、やっぱそうするよな! 二天魔術と四大魔術どっちも壮観だったー!」
教室の中で聞こえてくる会話に耳を傾ければ、どこもかしこも天頼か二階堂空の話題で持ちきりとなっていた。
比率としては二階堂空が七で、天頼が三といったところか。
二階堂空に大分話題を掻っ攫われてる感はあるが、チャンネル登録者数や実績から考えれば、完全に喰われなかっただけマシではあるか。
SNSの反響を見ても、二階堂空の方が優勢ではあったけど、どっちもトレンド上位には入っていたし。
ついでに征士郎さんとかのSランク冒険者とSAくんの名前も上がってたっぽい。
二窓視聴勢が多かったというのもそうだけど、攻撃と防衛でやってる事が違かったのと、天頼がS級モンスターを三体も——特にグランザハークを相手にしてたのも大きかったりするのかもな。
ちなみにトレンド一位を独占していたのは、グランザハークだったりする。
十年前の大災害で大暴れしたモンスターの一体だったからか、討伐されたすぐ後にはネットニュースになっていたという。
「それにしても四葉ちゃん無事で良かったよね〜。途中で空から落ちちゃった時は、見てて本当にハラハラしたよ」
「ねっ! 間一髪のところでSAくんが助けに入ってくれなかったら、今頃どうなってたことか……!」
「というかさ、あそこのSAくんカッコよすぎでしょ! そのちょっと前に遠くからダカスラとダカスフィを倒した時もそうだけど、あんな風に颯爽と助けられたら誰でもキュンときちゃうって! 私あれ見てSAくんのファンになっちゃったもん!」
おうっふ……!!
本人がすぐ近くにいることを気づかれてないからなんだろうけど、堂々とファン宣言されるとは。
なんつーか……照れるというか、ちょっとこそばゆいな。
まあでも、こういう時こそ平常心、表情には出さないようにしないと。
もしここで表情を崩しでもしたら、一人でにやけ面を浮かべる変人ぼっち野郎だ。
ぼっち野郎と思われるのは事実だから全然構わないけど、変人扱いされるのは流石に精神的にくるものがある。
(多分、軽く三日は引きずる気がするなあ……)
だからといって、俺がSAくんだと打ち明けるつもりはない。
今更感もあるし、天頼の学校での様子を聞いていると、常に人に囲まれてばっかで気の休まるタイミングが殆ど無いらしい。
それだったら俺は、ぼっちライフを続ける方を取る。
なんだかんだ今の環境に不満があるわけじゃないしな。
とはいえ、一人くらい気兼ねなく話せる奴がいてくれたらなと思わなくもないが、無理してまで欲しいとはならない。
やっぱ身の丈にあった生活を送るのが一番だよ。
——それ言ったらSAくんをやってる事自体、身の丈に合ってないんだけど。
「けどまあ……こっちは身の丈に合うように頑張らねえと、だよな」
SAくん関連の呟きをエゴサしながら俺は、ひとり密かに決意を固める。
「おはよーございまーす……って、うっわどうした!?」
事務所に入るなり真っ先に視界に飛び込んできたのは、苦悶の表情を浮かべながら全身をプルプルさせて、ソファにうつ伏せになっている天頼とその上に跨る水森の姿だった。
「見ての通りマッサージよ。この子、昨日の魔力の使いすぎの反動で全身筋肉痛みたくなったから」
「あ、剣城くん。お疲れさ——あだだだっ!! ひの、もうちょっと優しく……ん゛に゛ゃぁ”!!」
……潰れた猫みたくなってんな。
とてもじゃないが配信で出していい声じゃねえぞ。
けど……元気そうで一安心だ。
「これじゃあ、今日の配信は無理そうだな」
「そうね。でも、今日は元々休ませるつもりだったから丁度良いわ。昨日の戦いでかなり疲労が溜まってるだろうから」
「確かにな。……そんじゃあ、俺は下で遠隔斬撃の鍛錬でもしてくるか。早いところ飛ぶ遠隔斬撃を安定して放てるようにしておきたいし」
言いながら荷物を置きにロッカールームに向かうと、
「そういえば、剣城は平気なの? あなたも昨日の戦いでかなりの魔力を使ったんじゃ……」
「んー、特に問題はないな。別に遠隔斬撃ぶっ放すのにそんな魔力使わねえし。寝れば魔力も大体回復するしな。何気にコスパもいいんだよ、このスキル」
「……そう」
何か言いたげな水森だったが、すぐにマッサージを再開した。
それから天頼の悲鳴を背景音に制服から戦闘服に着替えて部屋に戻り、そのまま訓練場に移動しようとした時だ。
「——剣城くん!」
天頼に声をかけられる。
「ん、どうした?」
「トレーニング、頑張ってね!」
言って、天頼がにこりと笑いながら拳を突き出してきたので、
「……ああ」
俺もふっと笑みを溢して、トンと拳を突き合わせた。




